2003年7月7日の日誌 『変化する英語』を刊行しました

2003年7月7日(月)

『変化する英語』を刊行しました

英語史研究の第一人者であった中尾俊夫先生の病床で書かれていた原稿を児馬先生と寺島先生のお二人が中心となって整理し、中尾先生の遺志である英語・英語史・社会言語学のテキストとして刊行したいという遺志を最大限尊重して、先週の金曜日、やっと刊行することができました。

児馬先生から、最初ご相談を受けましたが、その折、中尾先生が英語史・言語史の研究者として大きな功績のあった方であり、「現在の変化している英語の姿を示したい」というテーマも、興味深く、弊社としては刊行したいという気持ちは強くありましたが、遺稿を尊重して整理されたものを刊行することについて、売れる書籍にすることができるかどうか、正直、あまり自信がもてませんでした。ひつじ書房が、経済的な基盤のしっかりした大きな出版社であれば、パトロン的に冒険すると言うことの可能性もあったでしょうが、それならば、英語・英文学の出版のジャンルで、中尾先生にお世話になっている出版社はいくつもあったはずですし、そのようなところが断って、弊社にご相談に来られた書籍を弊社の規模ではできません。研究書として、値段を高くして刊行することを提案いたしましたが、それでは遺志に反してしまうということで、考えあぐねた結果、中尾先生のご遺志をご理解いただける方に、3冊セットで購入していただこうと相談し、いわば、刊行委員会とても呼べるような支援の組織を作り、その結果、150人もの方にご支持いただきまして、刊行が可能になりました。中尾先生のご人徳によるものであると同時に、150人もの方が支援の意志を表明してくださったことは特筆すべきことです。

本書は、児馬先生、寺島先生とこの150名の方々のご支持によって刊行されたと言うことができます。内容についても、中尾先生がお亡くなりになる直前まで、病床で現代英語作家の作品から収集していた用例を使っていますので、ユニークで実用的なものです。説明文が、少ないのは自学自習には難しいという点がありますが、教える方がいれば、学生にとって、たくさんの発見のある、とても優れた教科書になるものと信じています。

今回、二つのことを思いました。研究者の方々への事情をご説明し、協力をおねがいすれば、ご協力いただけるし、実現するということです。もう一つは、弊社は規模の小さな会社ですが、他の出版社との違いは、ひつじ書房は、研究者の側に徹底的にたっている出版社であるということです。多くの出版社は、学習者の側にたっているということです。辞書や教科書を中心にだしているということです。これは出版社のポリシーの違いですので、それが悪いと言うことではありませんが、研究者の著書を出すという点では、重要なことでしょう。ある社は、社員が200人近くいても学術書専門のスタッフはゼロです。ふだん、大量部数を刊行している教科書を出していてもいざというときには頼りにならないというわけです。その意味では、言語系でも、学術研究を第一の優先事項にしているのはひつじ書房くらいかもしれません。今回の本をぜひとも出したいという児馬先生の熱意があり、それに答えようと頭を絞った結果の作戦でした。多くの出版社は、そのようなあたまを絞ることがなかったのでしょう。これは、研究者と同伴するということを中心にした出版社なのか、それとも、研究者の考察を利用して、プロダクトを出す出版社なのかの違いです。(どちらが偉いと言うことはありませんが、違う立場であるということは知っておいていただきたいと思っています)

ぜひとも、本書をご購入いただけますようお願い申し上げます。どうぞ献本ではなくお買い求めくださいましたら、幸いです。

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