2001年2月8日(水)
いろいろ失敗をしないと気が付かない
あたまの回転がわるいのは、昔からだが、いろいろ失敗をしないと気が付かないのは、仕方のないことだろうか。もう少し先が読めるのなら、ひつじ書房ももっと発展していた。
ひつじ書房は、94年から印刷所での組版を減らし、DTPによる本作りを行ってきた。これは結果として失敗であった。DTPがマルチリンガルの組版、英語での論文の刊行などでは意味があると今でも思っている。編集者が自分で本を組める能力を持つことが必須のことであるという信念は変わらない。問題は、何かというと人育ての問題なのである。Tが在籍してくれた時に、DTPで本をつくるのは正しい選択であったといえるだろう。Tはもともと、通常の本を作る技術もあったし、組版についてもセンスがあったので、もともとの編集技術で本を作ることができた。その時は、6.5坪の事務所で、私が、抱えすぎて詰まっていた本が95年の末から出始めた。Tは組版とデザインの仕事は、きちんとできたので、教科書もファンダメンタルシリーズなど、きちんと本を作ることができた。彼女の有能さは、いまから考えてもありがたいと思う。
Tが、残念ながら、辞めてしまったあとは、新人にDTPを教えて、本を作ることにした。その結果は、DTPで本を作るという点については、失敗だった。本作りの基礎が、理解できていないとDTPもできないのである。印刷所でDTPをやるのは、問題がないが、編集見習いがDTPをやっても失敗する、これに気が付くのに2年もかかってしまった。
同時期に、すでに印刷所の組版代が、以前の70パーセントくらいに下がっていることを知った。以前なら1ページ当たり1400円から1800円掛かった組版代が、900円から1100円に下がっているのである。300ページの本でも30万円で組むことができる。DTPを上手く使いこなせないものが、2月かかってしまうのであれば、印刷所で組んだ方がメリットがある。もちろん、人が事務所に常にいることで、電話や業務のやりとりを分散できるという要素もあるので、簡単には言えないが、人育てをして、1年して失敗したということになると、ロスが非常に大きくなる。それならば、編集のコアな部分は、すでにプロの編集技術を持った人間に手伝ってもらった方が、いい。フルスタッフがいるということは、ひつじの特殊な言語学の組版のノウハウを蓄積していってもらえるという点でもいいのであるが、現段階では本の作り方を教えても、時間と労力からするとうまくいかないことが多い、と思い、印刷所で組む方向に、2000年の春から、切り替えていった。
この段階で気が付くべきであったが、そうであるならば、編集工房として、マックを何台もそろえて、事務所も広く取ってという必要は実はないということである。事務所の家賃だけでも月に30万円近く払っているが、それは、自社内で本を組版するという前提が崩れてしまえば、必要のないことになる。
このことに気が付くまでに1年掛かってしまった。昼行灯と言われても仕方がないだろう。出す本の原稿が次々と来て、本がどんどん出せるという状況であれば、ともかく、なかなか原稿が来ないのであれば、場所代を払う経費がでない。この状況が簡単には改善されないのであれば、経済的なコストはできるだけ縮小するというのが、正しい判断だろう。
つけ加えると現在、ひつじ書房の売り上げは6500万円であるが、これが、8000万円位までの規模になることができるのであれば、もう二人くらいのスタッフが常勤でいてもやっていけるはずだったのが、規模の拡大は、難しそうだと思いはじめた。事務所の費用、倉庫代、出荷の経費などは、基礎的な経費(オーバーヘッド)なので、売り上げが、ある水準をこえると、余裕も出てくるはずであったが、そこまで行かなかった。本来は、松本書店とか松本書院とか、そのような名前を付けなかったのも、それなりの普遍的な価値を創造できる出版社になることを願っていたし、それに見合う規模に10年頑張ればなれるのではないかという気持ちがあったからだ。年末に書いたように、むしろ、松本事務所的なあり方へシフトするということは、このもくろみに失敗したということでもある。私の経営者としての能力が、この程度のものであったということであり、自分自身の能力を冷静に考えると、とても恥ずかしいきもちがある。
半年以内に、DTPにつかおうと考えていた分のスペースを縮小する。この分の経費を、基礎体力の充実と人材に回そう。これは何もひつじの業務をやめる、縮小すると言うことを意味しない。最も重要な、コアな部分に、活力をそそぎ込むと言うことである。
(10日に若干手を入れた。)
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