アメリカアジア学会2014への出展 研究書を海外に向けて発信することの激しい困難さ

2014年4月9日(水)

アメリカアジア学会2014への出展 研究書を海外に向けて発信することの激しい困難さ

ひつじメール通信の「房主より」から(少し訂正しています)

フィラデルフィアで開催されたアメリカアジア学会に参加してきました。報告します。

学会は、とても規模が大きなものでしたが、いろいろ問題を感じました。出店規模は、アメリカ言語学会の10倍くらいでした。大会会場と同じであるホテルの宿泊代は、ミネアポリスの2倍の値段の18000円。参加者の参加費もとても高いので、大学院生や語学教師の人はほとんど参加できないようでした。学会をホテルで行うのは、日本の学会が大学で手弁当風に行うと一部の大学に仕事が偏ってしまうので、それを避けるためにはよいことと思ってきましたが、研究費や出張費をファンドからもらえない人は参加できないくらいの高額な参加費になるのでは、ホテルで行うのがよいともいえないな、と感じました。個人で参加できるようになっていないと、独善的になる危険性がありますから。

アジアという地域の研究者の学会であるのに、実際には日本語、中国語、韓国語などを教えている研究者もいるであろうに、メインのアジア学会の期間中にはほとんど言語研究、言語教育の研究発表がなく、地域社会研究、地域政治研究、地域文化研究がほとんどのようでした。言語教育という分野は、たぶん、かなり価値が低く見られているのではないでしょうか。これは、仮説ですので、数回行って確かめたいと思います。

実際、日本語教師会はメインの学会とは別の日に開催され、書籍の展示もありません。日本語教師の方は非常勤が多いのか、アジア学会には加盟していない人が多いのか、アジア学会にはほとんど参加しないようです。非会員で参加すると2万円以上かかるのです。しかし、アメリカ日本教師会の会長と副会長に国際交流基金のレセプションに参加したときに会いましたら、ひつじ書房を知らないということなので、たいへん傲慢ながら、率直に言って驚きました。出版は商売なので、知られていないことは売る方が反省するのが筋ですが、といっても情報収集能力がないということだと思います。彼ら相手に書籍で商売するのは不可能でしょう。日本語教科書は使うかも知れませんが、研究書は買わない人がほとんどでしょう。(ただ、国際交流基金のレセプションを教えて下さった方は、書籍を買って下さっていました。たいへん、ありがたい方もいらっしゃいます。)

アジア学会に出展している日本の出版社は、紀伊國屋書店が束ねている高額図書刊行系、全集とか美術書とか歴史的な資料を出している出版社と日本出版貿易が束ねている日本語教材系の2つでありまして、日本の学術的成果を発信しようというのは、その中には残念ながら入らないということです。ひつじ書房は孤高の道を歩んでいるということになります。書籍の出版という点で似たようなビジネスだと思われるでしょうが、商品という点では大違いなのです。資料ではなく、研究の中身を発信しようというのは、実はかなり大変なのです。今回、出張に40万円くらいかかっていますが、5000円の書籍ですと値段ベースで80冊、収入ベースだとその何倍も売れなければ、元が取れないということになります。

経費の元が取れないということです。研究書を出しているのは、ケンブリッジ、オックスフォードなどの欧米の著名大学出版社ということになります。資料を出版するアジアの出版社と研究を発信する欧米系出版社というのは分かり易すぎる植民地事情です。私は、その情況を打開したいという気持ちでいるわけですが、大きな幻想ということになります。必ずしも成算があるわけではないのですが、kindle版電子書籍を出して、それが売れるというところまで持って行って採算が採れるようにしないといけないでしょう。

出展している出版社とは傾向が違いますので、いっしょにつるんで飲みに行くという気にもならず、もちろん、誘われもせず、海外の他の出版社も仕事できているので、物見遊山じゃないので夜は一人で時間を過ごすということになりました。人に頼らず、全てを行うというのもよい経験です。つるんでいると頼れますが、全部一人で行いました。めんどくさいと思ったので、元締め(?)に来年は出展に交ぜてもらえるか、と聞いたら、書籍が1冊1冊を売っていく研究書では、採算があいませんと暗黙裏に断られました。しかし、日本関係がいっしょの方がわかりやすいと来場者の方に言われましたので、来年は、彼らの近場に展示場所を設けたいと思っています。

そういうわけで、夜は一人でしたので、私は、フィラデルフィアでは、デラウェア川のそばのアルデン劇場でアメリカでの新訳「三人姉妹」を観に行きました。何と、最後の方で火災報知器が鳴って、最初は演出かと思ったら、報知器が止まらず、ほとんど終わりまで芝居はすすんでいたのに、結末までたどり着けずに中止(別の日に振り替えると言っていました)となるというなかなかない経験をしました。役者たちが、エレキギターを弾いたり、町内会の集まりで芝居をしようというミーティングの情景から始まるなど、少し前衛的な芝居でしたので、演出かと思ったのです。

できることなら、kindle版などの力を借りて、研究を出版して、流通できる道を作って、研究を世界に発信できる出版社になりたい、と思っているところです。

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