学術書は、半商品である

2014年3月14日(金)

学術書は、半商品である

2014年3月12日のメール通信の房主より

何度も申していますが、学術書は半商品なんです。アンチの「反」ではありません。商品に反対している、のではなく、商品になりきれない商品なのです。

なりきった商品があるとします。これは「全商品」ですが、普通は商品と言えばいいでしょう。全く商品じゃないものは、非商品ですが、普通に商品じゃない、と言えばすんでしまうでしょう。

学術書が、「商品でないもの」でもないし、「商品」でもないということはどういうことか、どういうことでしょう。そのことを説明します。

商品であれば、それを作って、売ることで、経済的に回る商品になる。売れるものであり、作った人は食っていくことが可能で、売れば商売として利益がでますし、あるいは生業として生きていくことができます。売れるはずと思って、結果として売れなかった場合は、半商品ではなくて、失敗した商品です。ことば遊びと思わないで下さい。半と失敗は大きな違いなのです。

半商品というのは、それを世に送り出しても、簡単に売れることがもともと、ほとんどなく、売れても利益を生むことがないと思われる商品です。どんどん出せば、どんどん売れて利益を生み出す、ということはないんです。

また、普通、商品であれば、それを作った作者は、儲かるはずです。売れて利益を生み出すはずのものなのですから。ところが、研究書は、持ち出しです。何百万と資料代を使ったとしても、それを元に書いた書籍は、その購入費をまかなってくれるほどの利益を生み出すことはほとんどありません。

さらに、出版社もかつかつですので、著者が、売ったり、ご自身で購入したり、助成金を出したり、取ってきたりするということでやっと採算を採るということもあります。書き手の方が、販売や宣伝・広報に協力しようという考えでないと、もともと売れない物を出すことはできないのです。

売れる本であれば、よい内容のものを書くこと、売れる内容のものを書くことに著者は全力を投入すれば、よいということになりますが、半商品の場合には、執筆された方も協力して売っていただくことが必要になります。

ですので、刊行計画を著者と相談する際に、互いに協力して、本を作っていくことができるのかをお尋ねすることになります。これは、そもそも、売れる商品の場合、全商品の場合には、必要のないことなのです。学術書の場合、原稿を仕上げましたおしまい、とか本になりました終わりということではなくて、いっしょに広めていくのに尽力するという流れです。

やはり、マイナーな対象であったり、人がまだ、認めていない新しい分野であったりしますと、商品になっていませんので、半商品として腹を据えて取り組まなければなりません。これは新規開発とも似ていますが、違います。新規開発商品は、最初は少数にしか受け入れられませんが、成功した商品であれば、受け入れられた後に購入者が爆発的に増えるように考えて作っているのです。しかし、学術書籍の場合はそういうことはありません。半商品ですから、最後まで爆発的に売れるということはありません。売れるためには、地道な努力が必要です。著者の方に自著を購入していただくなどのお願いをすることがあります。なかなか売れない学術書を世に出す場合は、心苦しいですが、そういう協力が必要なのだと私は思っています。

売れないものであるのなら、商品であることをやめてしまえばいいのではないかとおっしゃる方もいらっしゃるかもしれません。商品であることをやめてしまう。つまり、非商品になるということですね。売らずにコピーして配ればいいと思うかも知れません。学会という学術コミュニティに任せておけばいいという考えもあるでしょう。学会という学術コミュニティということであれば、これは、実質的には査読者ということになりますが、もちろん、大事な存在ですが、既成の学会に囚われない、学会の枠を超えた読者に研究の評価や批判、継承、発展に参加してもらうことを考えた場合、出版社・編集者という「中間的な存在」が介在する意味があると思います。そこに、受け取った内容を世に問いたいと思う、間接的で当事者ではないが、関わる存在の意味があって、商品になるか不明な内容、全商品にはなりそうもないが、公共に必要な内容に投機する中間人の存在に意味があり、そういう中間人が存在するためには、経済的な存在であるということ、売り物であること、商品であることも重要なんです。

学術書は、半商品であり、それをなりたたせていくということは並大抵ではありません。面白い仕事ではありますが……

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