鉛筆(書き)の話
鉛筆と言えば、一般的には小学生くらいまでの年齢でよく使うものでしょうか。それより上の学生だとシャープペンシル、社会に出てからはボールペンを使うことが多いと思います。
しかしながら編集者はおそらく社会人としては例外的に、鉛筆を使うことが非常に多い職業です。編集者と言えば赤ペンというイメージがあるかもしれませんが、実際に使うことが多いのは、赤ペンよりも鉛筆の方です。
赤ペンは、校正において間違いを正すのに使います。誤字・脱字・衍字の修正、体裁の変更などなど。もちろんこれらはありますが(あってほしくないものもありますが)、それよりも多いのは、著者への確認事項です。
単純に誤字と思われる言葉があったとしても、直し方が一つでないことがあります。例えば「鉛筆はが一本ではない」と書いてあったら、「鉛筆は」となるのか「鉛筆が」となるのか? 文脈で判断できればよいのですが、どちらでもよい場合もあります。あるいは、誤字のように見えるけれどもそうではないのかもしれない微妙なもの。誤字ではないけれども表記の統一が乱れている。文章の不整合。内容に関しての疑問。これらのことを、編集者が勝手に直すことはありません。そういったものを見つけたときは、著者への確認事項として鉛筆で書き込みます。
赤ペンで直すのは明らかな間違い。鉛筆で書き込むのは確認や相談。後者のほうが分量としては圧倒的に多いです。
私はBLACKWINGという鉛筆を愛用しています。これは平べったい消しゴムが頭に付いているのが見かけ上の特徴で、『カンマの女王―「ニューヨーカー」校正係のここだけの話』(メアリ・ノリス著、柏書房)というエッセイで著者が愛用しているという記述があったのが出会いでした。
特筆すべきはその書きやすさと言われていますが、私は加えて消しやすさもあげたいと思います。なぜシャープペンシルではなく鉛筆を使うのかということにも通じますが、校正をしているとき、質問を書き込んだけれども後半まで読んだら不要だったので消したい、ということはよくあります。著者に送るゲラに余計な汚れをつけたくないので、きれいに消せることはとても重要です。(ただし、あえて消さず、バッテン印を付けて残しておく、「見せ消ち」にすることも多々あります。これはまた別の話。)シャープペンシルだと先が細いので痕が残ったり紙が傷んだりしやすく、消すのには不向きなのです。加えて、線が細すぎて書き込みを見落としやすくなるように思います。
ちなみに著者校正の際には、鉛筆書きにはお返事いただきたいですが、不採用の書き込みでも消しゴムでは消さずに、バッテン印を書くことで不採用であることを示してほしいです。何をお尋ねして不採用だったのかということを知るのも、円滑な編集作業にはとても重要です。記録にもなります。
私の場合、BLACKWINGは消しやすさのほかにもう一つ利点があります。社内で他に使っている人がいないので、どこかに置き忘れても高確率で手元に戻ってくるということです。平べったい特徴的な形の消しゴムは消しゴムとしてではなく、名札代わりに働いています。
BLACKWINGの鉛筆
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