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2月

2018.2.22(水)

人間の仕事



コンピューターが普及して色々なことが便利になり、本作りの作業もコンピューターが無かった時代に比べれば大変便利になったと言って良いでしょう。

原稿は手書きの必要が無く、組版も活版印刷のように活字を拾う必要が無くコンピューター上で行うことができます。さらにはその組版データを面付けして刷版を焼くまでコンピューターで行えるのです。様々なアナログな作業がコンピューターにとって変わりました。

便利な時代になったので、何でもコンピューターで自動的に簡単にできると思いがちなのですが、それを使うのは人間だということをついつい忘れがちになってしまうように思います。コンピューター上で出来ることと出来ないことは案外はっきりしていて、そして自動的に物事をすすめるためには人間の手が入らないとすすまないのです。

大仰な書き方になりましたが、ここで言いたいことは単純なことです。

著者からいただいたWordの原稿データ。これを弊社では(印刷所で)通常InDesignという組版ソフトで組んでいます。いまもっともポピュラーな組版ソフトです。

Wordで書いたとおりにそのままポンとInDesign上で新しい体裁で組み直せそうなものですが、そううまくはいきません。普通は、Word上の書式設定がすべて消えた形で読み込まれます(活かしながら読み込む方法もありますが、本当にやろうとすると複雑で、さらにそれをここで説明するのは難しいので省きます)。

どういうことかというと、読み込まれるのはテキスト情報だけなので、例えば「太字」や「斜体」ボタンを押して文字を装飾していたものはすべて消えます。注機能を使用していたらそれも消えますし、インデント機能を使用していたら、それも消えます。上付きや下付も消えます。

InDesignでは、それにひとつずつ、設定を入れていくわけです。なぜWordの設定が消えてしまうのかと思うかも知れません。InDesignで版面を組むとき、見出しや本文、そして注番号や太字などすべてに、どういうフォントを使うのか、文字サイズ、行間、文字間のアキ量などものすごく細かく様々な設定を入れていくわけですが、Word原稿上の何が見出しで、本文なのか、InDesignでは判断がつきませんし、太字や斜体というのは、Word上で無理矢理フォントを太らせたり斜めにしたりしているだけなので、印刷物として組版するときには、ボールド体のフォントやイタリック体のフォントというものがあり、こちらで指定して当ててあげる必要があります。
インデントや注なども含め、「Wordの機能」的なものは基本的に消えます。原稿執筆ではWordが大半を占めると思いますが、InDesignはWordの原稿を組むためのソフトではないからです。あくまでInDesignでの組版は、「テキスト」に体裁をつけていくものなのです。

また、一応というか、プロの仕事なので、例文などの位置合わせなどでスペースを入れまくって無理矢理位置合わせをしたりもすると思いますが、これらは数値できっちりと合わせます。基本的に原稿上の目には見えないけれども入っている無駄なスペースや改行などの所謂「不可視文字」はすべて削除します。後からの赤字修正などで行などのずれが生じたときに気付かないところで何がおこるか分からないからです。

データはできるだけ綺麗にするのが基本です。

若干マニアックな話になってきてしまいましたが、つまり、原稿の赤字で1ページまるまる差し替えますとデータをポンと送ってくださるのは、無いよりはありがたいのですが、その瞬間これまでその部分を整えてきた作業者の苦労がすべて水の泡となるということです。本当に単純な文字の入れかえだけならばまだマシかもしれませんが、何も考えずに「はい、コピーペースト」で終わることはまずないでしょう。

また、差し替えテキストも、たまに原稿を修正した全体の修正原稿をどかっと送っていただくことがありますが、作業者がいちいち原稿の中から該当の差し替え箇所を探して、置き換えをするというのも、なかなか大変でしょう。考えてもみてください。組版データは原稿とは一行当たりの字数も行数も体裁が違うのですから、ページ数も違うことですし、ゲラの赤字の場所を原稿から探し出すのは骨が折れることです。作業者は原稿の内容は一切知りませんから、文脈から何か考えたりしませんし、それを考えさせるのは無駄な労力を使わせることになります。

そういう場合は、差し替えの箇所のテキストだけ用意していただいたら、作業負荷は相当減るでしょう。差し替え箇所が多数有るなら、番号を振って対応させれば良いと思います。別に作業者を思いやってくださいと言っているわけではありません(それもありますが。人間が作業していると思っていない赤字が入ってくることはあります)。できるだけ、作業者が何も考えずに修正をすることにだけ集中できるようにしないと、作業者も人間なのですべての修正を完全にこなせるわけではありません。結果、誤字が残ったり、クオリティにも響いてくるものとなるからです。

私も編集作業をしていて、パソコンとかあるのに、アナログな作業をしているな、と思うことがよくあります。コンピューターはあくまで道具で、本作りは人間の仕事なのだと実感しています。







2018.2.2(金)

三美印刷さんへ見学に行ってきました




先週、弊社がいつもお世話になっている三美印刷さんの本社および工場の見学に行ってきました。

本社では、組版と製版を、工場では刷版・印刷・製本の工程を見学し、どのような過程を経て本のかたちになるのかを実際に見せていただきました。

実は今回の見学は、私が初めて担当させていただいた書籍、『ファンダメンタル英語史 改訂版』の製本のタイミングに合わせて行かせていただきました。
編集についてまだ右も左もわからない中で、先輩の指導を受けながらようやく完成した1冊ですので、工場で実際に製本されていく過程を目の当たりにし、非常に感慨深いものがありました。


↑『ファンダメンタル英語史 改訂版』の折丁の束です。
(折丁=製本する前に、1枚の大きな紙に印刷されたものをページ順に並ぶように折り畳んだもの。この折丁を合わせることにより、一冊の本になります。今回は折丁が11ありました。)


↑折丁が製本用の機械にセットされているところです。
(感激のあまり、実際に製本ラインが稼働しているところの、一番重要な写真を撮り忘れてしまいました。)


↑製本が終わったところです。この後カバーを掛け、スリップ(短冊)を挟み込み、書店で売られるかたちになります。


工場ではほぼすべての工程を機械で行っていますが、機械の微調整であったり、出来上がりの確認は、そこで働く方々の手によって丁寧に行われています。
編集者の頑張りだけではなく、現場で作業している方たちのプロ意識があってこそ、クオリティの高い、美しい本ができあがるのだということをひしひしと感じました。

今回、組版・製版・刷版・印刷・製本のすべての工程において、それぞれの現場の方が仕事の内容を丁寧に説明をしてくださり、また、苦労されている点、工夫なさっている点などについても教えていただき、非常に勉強になりました。

三美印刷の皆さんには、お忙しい中お邪魔させていただき心より感謝申しあげます。 現場の方への感謝とリスペクトの気持ちを忘れず、これからも編集の仕事に励んでまいりたいと思います。







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