経年変化は本の敵か
書物の敵としてあげられるものは紙魚、水、そのほか多々ありますが、その中の一つが光と時間経過のコンボです。特に黄色や赤色を使った装丁のものは、日に焼けて色が抜けやすい傾向にあります。装丁を考えるときも、背表紙のタイトルが、白い紙に赤インクの白抜き文字(交通標識の「止まれ」を想像してください)だと、日に焼けて赤色が抜け、タイトルが読めなくなってしまわないかとつい尻込みしてしまいます。
さて、話を変えまして、万年筆のインクの話をしたいと思います。
万年筆のインクは、かつてはすべて、書き始めは鮮やかな色で時間が経過すると黒く変化するという特徴を持った、古典インクだったそうです(この「古典インク」という言い方には是非があるようですが、ここでは伝統的な製法のインク、くらいの意味で使っています)。古典インクはペン先を傷めたり、扱いが難しいといった問題点があることから、現代では多くのインクが変色しない染料インクになっています。
そんななか、古典インクのブルーブラックを作り続けている国内唯一の会社がプラチナ万年筆です。プラチナは2月に新商品として「CLASSIC INK」というシリーズのインク6色を発売しました。これは、古典インクの特性の、「『時間の経過とともに筆跡が黒く変化する』ことに注目して、変化の過程を楽しむ万年筆用インク」(プラチナ万年筆のWebサイトより)だそうです。
CLASSIC INKは、時間の経過をうまく使い変化を楽しんでしまおう、という例です。書籍における日焼け問題とは、真逆の精神です。
ふと思うのは、本においても、CLASSIC INKのように、経年変化を楽しめる装丁はできないだろうか、ということです。学術書は書棚に長くおさめられるものです。久しぶりに手にとってみたら昔と印象が違う、というのはよいのか悪いのか・・・・・・。
書籍の特徴のひとつは、長く保管されることにあります。時間という難敵に対立せず、うまく付き合う方法を模索できればと思います。
このようなことを考えたのは、最近、図書館などに置かれるであろう本の装丁で、赤色(=日焼けしやすい色)を使いたいものを検討していたからです。『ロシア語文法 音韻論と形態論』(ポール・ギャルド著 柳沢民雄訳)ですが、これは原著が赤い装丁なので、ぜひ合わせたいと考えています。現代標準ロシア語を、音韻論を土台として形態論を体系的に記述する構成の大著で、まもなく刊行予定です。
|