2009年2月20日(金) 学術研究を書籍で公開する意味 「人文学及び社会科学の振興について(報告)」を見てブログの改訂版です。茗荷バレーで働く編集長兼社長の日記―ルネッサンス・パブリッシャー宣言、再び。 「人文学及び社会科学の振興について(報告)」が、公開されました。個々の学術出版社、学術書の編集者に留まらず、今回の報告は、学術出版に関わるものにとってとても重要なものだと思います。 文部科学省の設置した審議会である「科学技術・学術審議会学術分科会では、平成19年5月より、科学技術・学術審議会学術分科会学術研究推進部会の下に「人文学及び社会科学の振興に関する委員会」を設置し、人文学及び社会科学の学問的特性、役割・機能等を踏まえた振興方策について検討を行って」きたということで、これまでの検討内容が報告書としてまとめられ、公開されました。 以下のURLにリンクされている報告書をぜひともご覧下さい。その場合は、概要ではない方をご覧下さい。概要ではない方では、人文学及び社会科学の振興について、学術出版の必要性について詳しく述べています。学術出版に携わるものとして、我が意を得たりと思うものですが、概要の方はさっぱりとした記述で、学術出版ということばや書籍ということばは、あまりでてこないのと、どうして重要かという説明がなく、結論だけを述べているきらいがありますので、説得の力が弱いと感じました。 学問の評価として3つあると指摘しています。アカデミックな業界内的な評価、アカデミックな業界の外も含んだ評価、歴史的な評価。アカデミックな業界内の評価は、学会誌が機能を果たすけれども、業界内の評価だけでは不十分であるとして、業界外も含んだ評価のために書籍という媒体が重要であると指摘しています。3つの評価のチャンネルを意識されている方は、研究者の中でも少数派だと思います。社会とのインターラクションを考えている方は少ないを常日頃思っていますが、そういう点でこの報告(概要版でない方をお読み下さい!)の考え方を、研究者の方々が共有してくださることを願います。 その認識の共有がなければ、他の業界、実験主体の理系的学問の領域の人々、学術政策に関わる官僚や議員に対して説明したり、議論したりすることは難しいと思うからです。私のいい方は性急ないい方に聞こえるかもしれませんが、学術研究のあり方とともに、学術出版社も含めた学術コミュニティのありかたについても、対話と説得というものが必要なのだろうと思います。このことは、この報告書自体のテーマでもあります。人文学及び社会科学の存在理由そのものでありますし、ここでも同じテーマが流れているのだと思うからです。 言語研究のジャンルにおいても、言語研究に客観的な真理があると考えていて、対話ということをあまり重要視しないタイプの生成文法派の研究者の方は、学術雑誌があれば、書籍は不要であると考えている方もいると思います。私は理系的な研究であっても、書籍は重要と考えますので、研究者の方々にぜひとも本報告を読んでいただきたいと思います。生成文法でいえば、チョムスキーの処女作をオランダのムートン社が出版したということも、学の普及に大きな力があったわけです。書籍出版の意味は今でも失われていないと思います。 学術出版に関わる物として自戒しないといけないことは、社会的な評価ということが、書籍出版の価値であるわけですから、社会的な評価に貢献できているのかということを学術出版に関わるものは、しっかり考えるようにすることが大事なことと思います。本当に果たせているのか、と。 「人文学及び社会科学の振興について(報告) −「対話」と「実証」を通じた文明基盤形成への道」について 平成21年2月9日 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu4/toushin/1246351.htm 概要じゃない方には、はっきりと書籍ということばをつかって説明をしています。
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