2008年の研究成果公開促進費内定書籍

2008年4月29日(火)

2008年の研究成果公開促進費内定書籍

2008年のこの春、学術振興会の研究成果公開促進費に採択された書籍は8冊でした。申請数が40を超えていたのでひつじ書房としては、採択率は20パーセント弱ということになります。発表されている率は28パーセントですので、それよりも少ないということになります。

さて、ひつじ書房でのことしの傾向について申し上げると日本語教育関係の研究が通らなかったということが1つあげることができます。結果としてシリーズ言語学と言語教育に入るような日本語で書かれた言語教育に該当するものは内定をえることができませんでした。このシリーズはこの春にとてもたくさん刊行したので、シリーズ言語学と言語教育では日本語教育関係は少しお休みということになるかもしれません。数年間内定がでていなかったのであるが認知言語学の研究の分野で宇野先生の著書が通りました。2度目の正直です。

内定を得ることができたものは次の8つです。おめでとうございます。いずれも優れた研究で刊行するのが楽しみです。英語で書かれているのでシリーズ言語学と言語教育には入りませんが、中森先生の著書は言語学と言語教育の接点のような研究だと思います。今回、内定を得ることができなかった先生方は残念ですが、時の運ということもありますので、気を落とされないようにお願いします。

ひつじ研究叢書(言語編)
○鈴木泰

古代語時間表現の形態論的研究

古代日本語のテンス・アスペクト的研究については1992年の前著『古代日本語動詞のテンス・アスペクト』刊行のころから、さまざまな研究者による論が公表されてきているが、古代語の事実についての評価、およびその事実がどのような体系をなすかに関して、必ずしも一致点が見出されているとはいえない。そうした最近の研究動向を見極めつつ、前著以降の研究成果をもりこむとともに、形態論的なアプローチを徹底させることによってテンス・アスペクト的な意味的事実を確定し、スタンダードとなるような古代日本語の時間表現の体系をよりシステマティックなかたちで提示したい。

ひつじ研究叢書(言語編)
○沼田善子

現代日本語のとりたて詞の研究

本書は、日本語における「とりたて」の中核をなす、現代日本語の「とりたて詞」について、統語論的、意味論的、諸特徴を記述し、とりたて詞の明確な定義、その機能と内部の体系を明らかにすることを目指す。また本書では、いわば狭義とりたてから広義とりたてへの広がりの様相をもとらえることを目指し、とりたて詞周辺に広がる他の範疇に属する語群ととりたて詞の連続性と差異についても考察を行う。こうした作業により、日本語のとりたてに関わる語群の範囲、諸特徴、それらが相互に成す体系の研究に、一つの明確な方向性を示そうとするものである。

ひつじ研究叢書(言語編)
○榎本美香

日本語における聞き手の話者移行適格場認知メカニズム

日本語での会話において,聞き手が円滑に話者移行を行うために行っている認知処理のプロセスを実証科学的に明らかにした著作である.日本語のような文の構造が語順によって決定されず、接続助詞などを後置することで文の主従関係が時間の中で決定される言語構造を用いて会話を行う場合,聞き手の発話末の認知を決定するという役割を終助詞などの日本語特有の言語的要素が果たすことを実証的に解明している.

Hituzi Linguistics in English
○堀田隆一

The Development of the Nominal Plural Forms in Early Middle English

名詞の複数を表すs語尾の本格的研究。英語の複数形sは、英語史の中で極めて基本的なトピックでもあるにもかかわらず、その詳細な発展過程を探る研究書・論文は1911年以来、世界的にほとんどない。Lexical Diffusionの理論や史的コーパスを用いた本書は、新しい英語史・言語史を提案するものである。

Hituzi Linguistics in English
○中森誉之

Chunnking and Instruction: The Place of Sound, Lexis, and Grammar in Language Teaching

認知科学理論と言語習得理論に基づき、実証的な研究を踏まえた日本人英語学習者にとって効果的な指導理論を構築する研究書。英語教育の書籍の多くは、啓蒙的実用的なものが多い。実用的であることはもちろん悪いことではないが、根本的な理論的な研究が世に出ているとはいいにくいのが現状である。本書は、英語教育研究書出版としても画期的なものである。

Hituzi Linguistics in English
○宇野良子

Detecting and Sharing Perspectives Using Causals in Japanese

認知言語学のアプローチによる因果関係を表す複文の研究。因果関係というカテゴリーの揺らぎや時制の分析から、発話主体が因果関係とどのように動的に関わるかこそが日本語のカラ文における意味の広がりの背後にある、ということを示した。発話主体の文成立への関わりということから、平叙文全体の認知的基盤を論じ、伝統的な日本語研究における「陳述」の概念の再評価にもつながるテーマ。

Hituzi Linguistics in English
○石川邦芳

Discourse Representation of Temporal Relations in the So-Called Head-Internal Relatives

これまで関係節の一種として扱われてきた主要部内在型関係節(Head-Internal Relatives)構文を、日本語の例に基づいて談話意味論・語用論の新視点から分析した。補文の述部と主節の述部との双方が表すアスペクトによるインターバルの整合性が構文全体の意味を決定することを解明する。

Hituzi Linguistics in English
○渡辺美知子

Features and Roles of Filled Pauses in Speech Communication A Corpus-based study of spontaneous speech

日常発話には「アノー」「エート」などのフィラーをはじめとする言いよどみ現象が観察される。実際には頻繁に使われているにもかかわらず、統語的な働きや辞書的な意味を持たないために言語学の分野では最近まで研究対象とされてこなかった。本書では『日本語話し言葉コーパス』を用いてフィラーの分布を統語的、社会言語学的に分析している。結果的に南不二男による節の分類を再評価することにもなっている。


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