2007年10月16日(火) 【学術】自社の英語の学術出版物を海外でも売るという目標ひつじ書房は、自社の英語の学術出版物を海外でも売れるように試行錯誤しています。 なぜ海外なのか、ということと、海外に売ることはできないのか?ということについて、どうしてそこまでやるのかということを疑問に思われるかもしれません。 なぜ海外なのか、という点について2つ述べたいと思います。 1つ目は、海外で売ることができないということが不自然なことだと思うからです。研究者の方々が、海外に滞在されて研究をし、あるいは行き来をしながら、発表するのが当たり前になってきている時代になぜ出版物が、自由に海外にでていくことができないのでしょう。意味のない、不自然なことだと思います。 次に日本の学術書を海外に持って行くということの積極的な意義があると思います。日本という国は良い意味でも悪い意味でも曖昧なところ、中途半端なところがあります。自国の言語、日本語で学術的な活動ができます。しかし、これは意外と少数派です。多くのアジアの国々、アフリカの国々など、全てではありませんが、学術的な活動は自国語ではなく、宗主国あるいは欧米の言語を使って行うということがあります。そのような国では一般の人々とアカデミックな世界の人々は言葉を通じることができません。また、アカデミックな世界に入ってからは、欧米的な言語の中での活動になり、発想法についても欧米的な発想になるのではないでしょうか。それに対して日本語をメインの言語にする研究者は日本語で考え、それを欧米語に直して発信します。ベースは日本語というアジアの言語ということになると思います。とすると、日本がアジアの精神の全てを代表しているわけではなく、また、欧米化の中で欧米的な発想の中で生活しているという点では純粋アジア的な発想とも言えないでしょう。でも、自国語を用いて研究しているということには意味があると思います。アジアであれば、研究者になるということはかなりなエリートになるということではないかと思いますが、日本の場合は学術の世界ももう少し庶民的なものであろうと思います。この点で欧米化しきらない非欧米的な要素を持っていると思います。 そうであるのなら、非欧米的な言説を海外に向けて発信するということに意味があるのではないでしょうか。言語学が思想的なものを追求しているというわけではないにしろ、発想のおおもととして、非欧米的なものがあると思います。もし、ルートができて軌道に乗れば、日本文学であるとか日本社会の研究であるとかというものについても発信していきたいと思います。これには担当できる編集者が必要になりますので、安易に進めるべきではないと思っています。 また、最初に述べたことと関係しますが、出版という言論は、ほぼ100パーセント、欧米の言論主体になっています。これはやはり良くないことではないでしょうか。現実的に日本語でそのまま理解してもらうということは困難ですので、英語での出版ということになってしまいますが、それでも日本から英語で発信するということに意味があると思います。次の過程としては、アジアの知を翻訳したり、相互交流するという段階があると思いますが、まずは学術の層がある程度厚いと思われる日本でそのことを実現したいと思います。 これらの2つの理由によって、ひつじ書房は海外でも日本と同じように学術書を送り届けたいと考えています。 現時点で海外に学術書を売ることはできないのかという点について述べます。現時点では全くのゼロではないが、かなり敷居が高いと思います。実際に海外の研究者が日本の学術書を手に入れようとしたら、日本のオンライン書店に注文するというのがもっとも容易な方法でしょう。アマゾンのamazon.co.jpから書籍を購入することは可能です。アマゾンは表示言語を英語に切り替えることもできます。海外からアクセスして、英語で注文することもできるわけです。 しかし、容易ではありません。その理由は、英語は注文のボタンなど操作のことばが英語になっているだけであること。書名は日本語で掲載されているので、日本語が入力できなければ、検索できないこと。ある本を特定して、その本が表示されるURLを直に入力しなければたどり着けません。また、書籍のタイトルから串刺しで検索することはできません。たとえば、aspectということばで検索することはできないのです。ある本を指名買いすることは、できるかもしれませんが、テーマに基づいて本を探して見つけるということは不可能でしょう。ということは、ある1冊の本をどうしても手に入れたいということを思わなければ、手に入れないということになります。実際それは流通とは言えないし、買うということではなく、(海外からすると)個人輸入ということになります。もちろん、アマゾンが英語に全面的に対応する、たとえば、英語の書名案内も持つようになるということや、アマゾンドットコムとのデータベースの共有ということが行われれば、実質的に何も問題はありませんが、海外から日本の本を購入するということが一般的にならなければ、そういうことは起こりえません。そういうことを起こすというのも、面白い挑戦ですが、それには国際的な本の流通の市場ができなければなりません。それはさらに先の夢です。 さらに、現在、日本学術振興会の研究成果公開促進費の申請を先生方を手伝って行っています。中には英語の学術書もあります。海外にまで研究を伝えたい、波及させたいということがあります。ところが、日本語で書かれている研究書であれば600部以上印刷できるのに英語の場合だと300部となってしまいます。半分です。海外の市場もあるはずの研究書の方が少ないというのは、おかしいと思います。これも海外へ本を売っていくすべがないから、と思います。これが打開したい現実の壁です。 執筆要綱・執筆要項こちらをご覧下さい。 「本の出し方」・「学術書の刊行の仕方」・「研究書」・スタッフ募集について・日誌の目次 日誌の目次へ
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