ひつじ書房の2007年の目標 言語学の学術専門出版として、筋の通った出版社になりたい。 2007年2月8日(木)
2007年2月8日(木)

ひつじ書房の2007年の目標 言語学の学術専門出版として、筋の通った出版社になりたい。

2007年も1月が過ぎてしまいました。遅ればせながら、今年の抱負について書いてみたいと思います。

出版にとって今は、成り立てていくのが非常に困難な時代です。そんな今の時代に出版をどうやって生きていけるのかということを考えてつづけています。学術書の出版は、特に困難な時代であるということを生半可ではなくまずは、きちんと認識したい。出版界が好景気であった時代、1970年代のように出版が、いつかは復活するだろうと期待することは意味がないし、昔は良かったなどと懐かしむことはことは何のプラスの効果もない。ひつじ書房は、1990年のそもそもの出発からして、懐かしむことのできるようなところから出発してはいなかった。あくまで、リアリストとして、本に関わっていきたいと思っています。書籍、本の現状、学術出版の課題をリアルに踏まえた上で、学術出版の困難な時代にどのように生き延びるのかを考え、生き延びる方策を考え、試行錯誤していきたい。

現状の学術出版の課題を簡単にまとめると、「読書構造の変化」、「情報構造の革新」、「大学構造の転換」だと思われる。それらを乗り越える方法はあるはすだ。それは、言語学の学術専門出版として、筋の通ったまともな出版社になるということ。そんなあたりまえのことを実現するために編集者の技能を向上させ、言語学・言語教育の研究に貢献できる出版力を着実なものにすること。つまりは、ひつじ書房が言語学・言語教育のジャンルで優れた出版社になることである。

●読書構造の変化

一般的な人文書離れ。単行本よりも新書・文庫に移動した。大学生が本を読まなくなっていること。大学生の読書志向が、専門的よりも一般書になった。一般書籍と専門的な書籍の分離がはっきりしてきた。ここで、重要なのは書籍一般という幻想をやめなければいけないということ。だれが読むのかということ、誰に読んでもらいたいのかということ、読んでもらいたい人にどのように伝えるのかということを、具体的に考える必要があるということ。(書籍の世界も「冷やせるモノならどんな冷蔵庫でもいいから売れるという」プロダクトアウトから「必要であるだけではなく、デザインも機能も、使いやすさも気に入ったよいものを買いたいという」マーケットインに変わったということ。さらには、マーケットを創造するべきだということ。)

●情報構造の変換

コピーすることが容易な環境。インターネットで発信できるようになり出版の意味付けが変わった。情報発信が容易になった側面があるため、出版や編集というものへの必要感が、希薄になった。情報を消費するという気分が広がったため、単に情報を右から左に流すだけではない付加価値を生み出す存在であることを納得してもらえないと購入してもらえない時代となった。

●大学構造の変換

大学院に進む人が増え、博士号が多く出されるようになった。大学院まで進学する人が増え、高学歴な人が増えているという点では、アカデミックな存在あるいは領域が拡大したということが言える一方で、個人のキャリアの高度化というようなものにとどまっており、(アカデミックな世界が社会の中で存在の役割を果たしているとは言い難いし)学術書の読者が増えたとはいいにくい。知的購読者層の拡大とはなっていない。

【乗り越える方法】

●読書構造の変換に対しては、学術書という書籍の存在理由を明確にすることが重要と考える。数千部・数万部などの多量部数によってなりたつ一般書と数百部によって成り立つニッチな学術書では世界がそもそも異なっている。学術書の意味を伝えて、学術書の読者層を開拓、創造する必要がある。

●情報構造の変換については、電子的な情報発信と本らしい本、紙の本の機能の違いを見据えて、物理的な存在の利点を理解した上で、きちんとした紙ならではの読みやすい本を作る。文字の組み方、きれいな印刷、開きやすい製本、読みやすい紙ということについて和菓子職人が素材について考えるくらいの気持ちできちんと考えること。電子的な情報発信と紙の本は連携することで、価値を発揮するものであることを伝えること。

●大学構造の変換に対しては、学術研究と学術出版の連携をテーマ化したい。具体的には著者になる人、著者候補となる人々に対して、学術出版の役割を説明するとともに、実際に本を作っていくプロセスを共有することで、実感してもらうようにはかることである。学術書の刊行の方法を多くの研究者に知ってもらい、提案していくことで、学術出版の機能が社会においてアカデミックなあり方に貢献できる知ってもらうようにすること。研究は公開されることによって、より公共性を増すのであり、編集者が関わることで、業界内の言論だけではなく、より広い人々にとって公共的な知識となることの意味を訴える。個々人のみならず、大学や研究所、学術振興会、文部科学省などにも働きかけていきたい。

このためにどのようなことが地に足が付いたかたちで考えると具体的に何が必要か?

読みやすいきちんとしたかたちの本を作ること。
→本の知識や本作りの知識をきちんと学んで実行すること。
→本作りの基礎を押さえ、copy-editing(校正、統一、読みやすい文章、学術書のフォーマットに対する統一した見識)の力
▲copy-editingの勉強、oxford manualを理解すること、APA, MLAのフォーマットなどの理解
▲組版技術への高度な理解
▲文献名などの知識

学問・研究を理解する努力をきちんとすること
→言語学を愛し、言語研究者を支援する気持ちを持つこと
→言語学・言語教育の研究書を編集者の視点から読むことが出来ること
→学会や研究会にできるだけ参加して研究の動向を知ること
→編集者としての企画力・発想力を向上させることにつとめる
▲学会への参加、読書会
▲研究室への訪問、教えを請うこと

出版の提案を行うこと
→研究の現状と出版の現状を理解して、適切なアドバイス、支援ができる力を持つこと
→研究書に対する読者の開拓、育てる
→優れた研究に対する前向きな姿勢
▲マーケティング能力の開発、向上
▲社会全体に学術書の意味を訴えていくこと(学術・研究自体の存在を訴えていくことも含まれる)に必要なことを行える広報・提案力


執筆要綱・執筆要項こちらをご覧下さい。



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