ひつじでは、入社すると(あるいは見習いの場合も)最初に出荷作業、伝票作業、受注記録をつけるところからはじめる(ことを望ましいと考えている)。編集に入る前にはこれが必須のものなのである。本が売れていくということは気持ちのよいもので、読者に必要とされているものを出していると充実した気持ちになる。そして、その気持ちが重要なものであると思っているからである。これは販売センスの素地と呼べるものだろう。
問題は出荷関連の業務をすることで、「販売センス」が養われるかどうかである。もし、養われないのなら、別の方法を考えなければならないことになる。この問題は別の機会に考えたい。
販売センスがなぜ必要かというと仕事の組み立ての基礎になるからだ。たとえば、編集を5冊同時進行していたとして、どの本を優先し、どの程度の労力をかけるべきかというのも、その本の位置づけによる。いい内容でも、直ぐに売れないものであれば、過大な労力はかけられない。できるだけ、手際よくスムーズに作る必要がある。よい内容で、売れる本であれば、手が足りなければ、誰かに手伝ってもらうこともできるだろう。それはその本の売れ方による。素早く売れるのが良くて、じっくり売れるのが悪いという意味ではない。販売センスというのは、短期的な利益の話ではなくて、長期的な感覚である。(短期的な利益を求めるのであれば、そもそも学術書などはやっていない。)なかなか売れるのが困難だけれども出すという場合は、著者に買っていただくこともないわけではなく、でも、それは何冊くらいが適正かというのは、販売センスがなければできないことである。一律に2000部売れる必要があるということであれば、一律に考えればよいことになるが、これは学術出版社のやり方ではない。その本ごとの適正な作り方、売り方を考えていかなければならない。
1冊の本の中でも、販売センスによって、編集に10の力すべてを注ぐのではなくて、編集に8でプロモーションに2の力という配分を考えることができるだろう。編集は際限がないものなので、意識的に配分を考えられないと仕事を進めることはできない。このように重要なセンスであるといえる。著者の研究が受け入れられているのか、これから受け入れられるのか、まだまだなのか、などの著者の立ち位置、研究業界内のスタンス、支持者がどのくらいいるのか、立場が逆の人がどのくらいいるのかなども、関係している。斬新なのか定番的なものなのか、などなど。
あるいは在庫の確認でも、(残念ながら)あまり動いていないものは、ざっと計算して前回の在庫と照合して、こんなもんだろうなと思うし、(うれしいことに)売れ行きが良くて、重版するタイミングを計っているものは、正確に丁寧に数を数える。1月に50冊でているので、あと4ヶ月で品切れだなだから、2ヶ月後には訂正を著者にもらおうとか考えるわけである。こういうのも売れ行きを気にしている「販売センス」があるから、メリハリを付けることができるということである。
「販売センス」は基本的であり、重要である。問題は、出荷業務をしていることで、その基礎ができるかどうかである。もし、日常的な業務の中で養われないのなら、仕事の優先順位から、すべて上司が教えなければいけないことになる。そうなのかもしれない。あるいはそうだとしても、並行して自力で伸ばしていけるような方法を考える必要があるだろう。これは課題である。
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