河口さんは、14日で半年が過ぎた。これまで、電話での書籍の受注、出荷代行業者さんのキャリー社さんへの連絡、直接注文の発送、伝票作りなど、本が出来た後に動いていく流れをひたすら半年にわたってやってもらった。このプロセスは、社会人となって、出版社という経済組織がどのように運営されていくかということとお客さんの存在があって出版社がなりたつという基本的な点を学んでもらうこと、大学時代と違って給料をもらって生活していくというのはどういうことなのかを知ってもらうための期間であった。
学生が社会人としての認識を得て、社会人として生きていくというのはかなりたいへんなことなのである。橋本治も言っているが、25歳までに一角の存在になろうとしてひたむきに努力しない人間はロクなものにならない。しかし、そのプロセスは簡単ではない。人間が生まれてくるときに胎道を通って、それまで羊水の中にいて栄養を間接的に吸収していた段階から、胎道を抜け出て、(その道を通り抜けること自体が本当に大変なことだ)さらに自分の口で呼吸し、食物を摂取できるようになるというのと同じくらい社会的にたいへんなプロセスであると思う。
これは恐怖を超える精神力とそれまでのやり方が通じない不安を乗り越える気持ちと実際の仕事を覚えていく実務的な努力と具体的な体力が必要である。これはかなりの難事業なのである。遭難してしまう人、引き返してしまう人、なり損ないになってしまう人もいる。
一人前になるというのからは、まだ遠いだろう。美容院につとめだしても、スタイリストといわれるような髪を切れるようになるまでは5年以上かかると言われている。髪の毛を切れないままにやめてしまったりしてしまう人も多いときく。そういう意味で一人前になるにはまだ時間はかかることだろう。それは間違いのないことだ。
それでも、これから進む道の道のりの長さを慨嘆するよりも、まず成し遂げたことを喜びたいし、祝福したい。ここまで、自分の力で第一段階を突破したことはすばらしいことである。おめでとう。きちんと乗り越えられたあなたを、すばらしいと思います。少なくとも最初の段階は突破した。ここを突破できなければ次に行けないということからすれば、これは本当に重要な段階をクリアしたということである。また、最初の難所を超えたことを考えれば、この先の難所もきっと乗り越えていけるはずだ。自信を持っていい。
美容院でいえば、シャンプーとマッサージで終わる人間ではなく、スタイリストのような人間として育てたいと思っているので、7月の末から、編集者になるための研修をはじめた。企画を立てるようになれるための特訓。そのためにはまずは、企画を生み出すものの見方が必要になる。それを説明できることばが必要になる。そのための知識も必要である。研修はあくまで研修で、実際に企画が立てられるようになるかは、本人の能力が開花するかにかかっている。
そのことを承知した上で、企画を立てることのできる編集者を目指すということを自分の口から宣言してくれた。このことはとても重要なことである。多くの人は、編集者になりたいという人は企画を立てられるようになりたいと思って志すのではないかというかも知れないが、それは半分正しいが、半分間違っている。多くの場合、美容院で言うとシャンプーで終わってしまって、その次まで行くことができないで化石化してしまうこともあるのである。化石化しないためには、まずは自分で決意して表明することしかない。自分の意志でえらんだということ。そのことを宣言すること。しかたなくでも、たまたまでもなく自分で決めること。その決意がなければ、別の道に行った方がいい。次の道へは自分の責任で入っていかなければならない。
企画を立てることのできる編集者を目指すという宣言をきくことができたので、9月から次のステップに入った。まずは、割り付けの書き込みだ。今月中に一挙に6冊の指定をしてもらう。割り付けの書き込みができるようになってから、次の段階で、割り付け自体を考えられるようになる。本の設計自身が苦もなくできるようになるまではまだもう少しかかるだろう。
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