どのように使命を果たすかは、「内容のよい書籍を品質良く作って、きちんと必要な方に届けるためにある。そのことを安定的に提供することができること」と書いたが、もちろん、言語研究の分野においてということである。研究を支援するという立場だが、学術研究をその井戸の中で活発化するということではない。それならば、学会があれば十分だ。
学会ではできないこと、商売として関わっているものとしてやるべきことは何かと考えると、社会との接点を作るということである。ことばの研究には様々な側面がある。知的な好奇心、言葉をしゃべれない人をどう話せるようにするかという具体的な問題解決、ことばは社会的な産物でもあるから、社会をよりよくしていくということとも関わっている。一方、一般書の編集者ではないから、研究の現場に近い位置にいるということもポイントだ。一般的な関心や切実な要望であっても、研究という地道で才気ある知的な営みと連携するにはいくつかのステップがある。神戸大学の定延先生に聞いた話が分かりやすいので、定延先生のお話を例にとって説明しよう。
「人は、人とふれ合っていなければキレてしまいやすくなる。人と人とのふれあいは重要だということは確かだし、そのように言える。では、そのふれあいとは実際にはどういうもので、それがよいものだとて、どのように促進することが可能だろうか。そのことは全く研究されていない。」という。ふれあいが重要であるという地点から、ふれあい研究が行われる地点、そして実際に納得できる研究成果が生まれる地点まで。それぞれの地点は遠いのだ。その距離を埋めていくのは才気と地道さである。そのことをアシストするのが編集行為であり、それを世に広めていくのが出版である。
言語学という研究書の出版社である上では、「内容のよい書籍を品質良く作る」ということは、研究に伴走していった上で、本作りのプロとして読みやすい本をリーズナブルに作ることであり、「きちんと必要な方に届ける」ということは、学会にいくことや顧客名簿を整備し、学会の動向を把握して、情報を的確に発信し、的確に必要としている人の元へ届けるようにするということであり、「安定的に提供することができる」ためには、研究者の方々と日常的にお付き合いしながら、研究を常にアシストし、一方、そのような技術を持ったプロの編集者がきちんといて、編集の要望に応えられる印刷所や製本所ときちんとコラボレーションできるようにするということである。
あたりまえのことをあたりまえにする、ということにつきるが、なかなかあたりまえのことを簡単にできることではなく、やはり日頃のたゆまぬ研鑽ということだ。継続的にそんな努力を楽しんできるのか、ということだ。でも、基本は好きなことをちゃんとやるということなんで、好きなんだからやるということ。仕事は義務的になりやすいのは、社会的事実であり人類的法則だから、そうならないようにするのはこころの持ちようが肝要。
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