『ウェブ進化論』という本がベストセラーになっている。また、インターネット業界(?)では、Web2.0ということばも注目されている。私なりにWeb2.0と呼ばれているものを簡単にまとめると2つの要素がある。1つは、インターネットが単なる情報の発信ととらえるのではなく、利用者のニーズや参加を引き出しつつ、動的に情報を共有したり、整理したりする機能によって、新しい情報提示・共有のあり方を生み出しつつある、ということ。もう1つは結果として従来の情報発信の仕掛けに関わりのある人々(出版社、新聞社、著者など)の関係を再構築する可能性があるということである。著者と出版社と読者、流通、インターネット業者、図書館、情報ビジネスの関係が組み替えられつつあると言うことである。googleやアマゾンの著作権に関する考えは、インターネット時代ならではのものである。
力関係が組み替えられるのであるから、当然、いろいろな軋轢が生まれる。今までよりも力を増すことができると思う人は喜び、そうではない人は怒っていたりもする。それはそれぞれだ。何かの変化が起こるときにそうなるのは当然のことだ。(図書館の立場は微妙だと思われる)
出版業に対しては、問題が突きつけられている。「情報は無料でいいじゃない。編集者も必要ないのでは」という空気。いいかえると結果として、出版の意味や編集の意味を価値のないものととらえる空気である。これについては、2つの対応が必要だと思う。21世紀にとって出版の何が価値なのかを明確に示すこと。もう1つはその価値を納得してもらえるような書籍を作ることだと思う。説明責任と実行責任を果たすこと。
実行責任としては、インターネットの時代であるからこそ、「本らしい本」を作ることに力を注ぐことだ。ひつじ書房で本を出すことができて、編集において、造本において、プロモーションにおいて充実した気持ちになったと思ってもらうことができるようにしたい。「ひつじ書房で本を出してよかった」と思ってもらえるような本作りをしたい。研究書を専門に刊行している出版社としては、学会に出店して、研究者の方の発表をきくことも、学会で本を売りながら、研究者にお目にかかることも、優れた研究者の方にであって、よい本を作りたいからなのだ。
まだまだ、追いついていないことは認識しているつもりだが、目指すべき水準をめざしてすすみたいと思う。Web2.0的なテクノロジーも使って、研究者との出会いを広げたいし、また、アイディアの交換などどもより活発にしたい。アイディアの交換という点では有効だ。もちろん、飲みにいたりすることも。ひつじ書房では、原稿が入った後は徹底的にアナログである。校正のやりとりは紙の上で行うことにしている。それはきちんと責任をもってきちんとした本を作りたいからだ。本ができれば、ネットを使って告知していく。
本らしい本を作ることとWeb2.0的な状況は、決して対立事項ではない。本らしい本を作ることのできる体制を作ること、それに私は賭けている。
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