ひつじ書房では、この5年間くらいほとんどDTPをやらないできた。それ以前は、ほとんどの本をDTPで作っていたこともあった。(DTPというのは、簡単に言うとパソコンでレイアウトソフトを使って、社内で本の版下まで作ること)93年から95年ごろまではクオークエキスプレスというソフトで本を作った。残念ながら、プリンターやマックのLCIIIなどを含めて200万円以上をかけて導入したが、クオークエキスプレスは、マルチリンガル(多言語)組版ができないので使用を止め、日本語組版には若干力不足であったが、多言語に対応しているPagemakerを使うことにした。ひつじで作る本はPagemakerでほとんど作っていた時期もある。Pagemakerは、作りが甘いところはあるが、マルチリンガル組版を実現していてくれた唯一のソフトであった。
2001年からは、DTPを原則として止めてしまい、印刷会社さんに本文は作ってもらうようにした。その理由は、本を作りの経験のない若い編集者が、Pagemakerで本を作るとPagemakerだと細かいところをどうしても直したくなってしまい、ここもあそこもと手をかけてしまいがちで、時間と労力がかかるばかりで、仕事がはかどらず疲れてしまうということがあったのと印刷所の組版料金が大幅に下がったので、プロにお願いした方が本の品質が向上すると判断したからだ。
その方針を一部変更する。社内で手をかけた方がよいものについては、DTPで本作りを行う。組版コストを減らすためではなく、ひつじ書房の本の作り方全体を改善する一環として行いたい。現在、ひつじ書房では本作り(業務)に関して、進化中である。ひつじ書房は、8月から社員全体で「執筆要項の案」を改訂している。(現在、改訂中の執筆要項)今まで不十分なものであった。これを、きちんとしたものにしていく。社外のプロの校正者の方や先輩の編集者、組版デザイナーの方、そしてもちろん研究者の方々のご意見を伺いながら、ある時期までには学術書のひつじ書房のハウスルールと呼びうるルールを作りたいと思っている。ハウスルールを一方的に押しつけるのではなく、多くの方々のご意見をいただきながら、育てていきたい。(このために、私自身で英語でのアカデミックライティングの授業を受けたいと思い、受講できる講座を探している…)
ハウスルールは、実際に研究者の方に執筆して頂くのに使って頂くこととさらに原稿の表記の統一や、参考文献のスタイルの整理などの原稿整理に生かす。そのプロセスは、電子的に原稿整理を行うことになる。未来社の西谷さんはプレーンテキストにSedを使い、マクロをかけて、表記を一括で統一するという考えであるが、言語学の出版社であるひつじ書房は、プレーンテキストではなく、wordや一太郎などで書かれたもの書式付きの原稿を生かすかたちで原稿整理を行う。先生方の原稿の中のロシア語やタイ語などの外国語、それから発音記号などをプレーンテキストにしてしまうと化けてしまう。いただく原稿を生かした原稿整理を行おうと考えているからだ。このためには、原稿を全体として電子テキストとして活用するという姿勢が重要になる。このプロセスの中で、DTPを使う。経費の節約のためではない。
さらに、欧米語やアジアの文字が多く混じり、さらに様々な種類のカッコを使うという言語学の文字組は、実はたいへんで高度な組版なのである。ページ組のメーカー、写研でも、活版でもうまく組むことができないものであった。だめだろうとあきらめていたのであるが、InDesignは、和文もOpenTypeフォントであれば、プロポーショナルで組めるという。デザイナーの向井さんに、言語学の研究書に適した本文の組み方(フォーマット)を作ってもらうことをお願いしている。
ひつじ書房の学術書はこれからの1年間で、言語学の学術書としてさらに読みやすく、風格のあるものに進化する。そのプロセスの中で、われわれは、組版の勉強のためもあり、InDesignの組版に挑戦していく。InDesignを使えば、畳の上の水泳ではなく、水の中で泳ぎながら、学んでいくことができる。また、組版や書式の水準の向上ができれば、原稿の整理やゲラの校正の時にも文書の形式ではなく、内容に対してよりきちんと向かい合うことができるようになる。
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