2004年1月14日の日誌 製造原価から、全体的な財務計画へ

2004年1月14日(水)

製造原価から、全体的な財務計画へ

昨年末に、高橋太郎先生の出版をお祝いする会で、ある先生に、徳川先生の本が15000円なのはどうしてなのかと聞かれた。『アスペクトテンス体系とテクスト』は、4200円なので、3倍以上になっている。基本的にこれは、原価と刷り部数の差である。『アスペクトテンス体系とテクスト』は、320ページであり、『方言地理学の展開』は、640ページである。分量は倍になっている。

おおよその原価

170万円

270万円

170万円の元を取るためには、定価に対して25パーセントの原価率である必要があるとして、170×4÷1600部=4250円で、270万円×4÷700部=15400円

だいたいこのようなところだ。基本的に原価から値段を付けている。ひとつの書籍の刊行についての値段の付け方については、ある程度妥当だと私は思っている。しかし、問題はひとつの本の値段を原価だけから割り出しうことが妥当なのかという問題もある。たとえば、著者に版下を作ってもらって、印刷した方が、コストが少ないので安価にできるはずである。実際に安価にして売っている場合も多い。しかしながら、そうなると基本的にかかる固定費と呼ばれるコストを回収できなくなってしまう。固定費というのは、人件費や家賃などのことである。さらに年に1回は目録を送らなければならないが、商売の規模に関係なく、毎年人数×郵便代はかかる。

つまり、事業を遂行して行くにあたってかかる経費というものをどういう扱いにするかと言うことである。たとえば、製造原価ではなく、販売活動を遂行していくための経費が、年間1000万円かかるとする。年間に10冊の本を出して売っているとした場合、1000÷10で一冊あたりで100万円ということになる。値段によって割り振るという考えもあり得る。年間売り上げが3000万円あるのなら、1万円あたり、3333円をそこから出すという考え。5000円の本なら、1冊当たりは、その半分ということである。

1000万円だとして年間30冊出していれば、1冊当たりは、33万円になるが、10冊しか出していなければ、100万になってしまう。となると夫婦だけで自宅でやっている場合と社員といっしょに仕事をしている場合、それぞれの場合で、その経営のあり方に沿った最低限の経費はかかるということである。同じ経営のあり方なら、リスクは別にして固定費の割合は、作る冊数が多いと1冊にのしかかるこの経費は少なくなる。ひつじの場合は、年間の売り上げが現状で6000万円であるが、これが倍になれば、事務コストの比率はだいぶ下がるはずである。

著者が韓国で印刷だけして日本に持って帰った方が、安価にできる。それは単純に印刷する経費だけしかかかっていないからだ。では、名簿をメンテナンスして毎年ダイレクトメールで、宣伝し、毎月、雑誌に広告を出し、編集技能を高めるような勉強を続けていくというコストの意味は何だろうか。印刷代に対して、そのような「コスト」が載っているわけだが、その部分が評価されなければ、印刷費の安い韓国で刷った方がよいと言うことになる。

問題は、事業を遂行していくための諸経費というものについて、それは意味があると思われるためには何をしたらよいのかということである。私は重要な意味があると思う。もちろん、無駄遣いは、極力廃さなければならない。

常に自分たちの仕事の技能を高めて、成果も出し続けるとともに、仕事の意味自体を世の中に知らせていく。単純に言って付加価値を付けると言うことだと思うが、それはどんな付加価値だろうか。体裁?レイアウト?内容の水準?誤字脱字がない?ネットワークを加速すること?韓国ででている海賊版は、まったく同じか現物以上にしっかりした製本であったりもする。商品としては、まったく同じなのに、オリジナルを買うことの意味は?

経営者としては、製造原価によるおおざっぱな財務計画ではなく、全体的な財務計画を作ることができるようになるようにつとめなければ、ならない。

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