2003年8月2日(土)
ポストインダストリー時代の「産業」支援策
日経デジタルコア「第3回 デジタルコンテンツ流通勉強会」に参加した。クローズドな会であるが、ある縁で、参加させていただいている。内容については主に官邸から先に打ち出された「知的財産基本法」とそれに基づく計画についての内容が中心であった。
知的財産の創造、保護及び活用に関する推進計画政府がこのような知的財産についてのはっきりした計画を出したことについては、評価したい。とはいうものの、根本的に間違っていることがあると思われる。
内閣官房知的財産戦略推進事務局参事官である甲野正道さんに勉強会の場で質問したことだが、この計画や法律自体が、産業政策として出されている。そのことはよいとして、現在の社会の課題は、産業=インダストリーの後をどうするかということに移っている。ポストインダストリー社会にとって、情報や知識がどうあるべきかという点が重要であるはずであるのだが、そのことについての考察がないという点が大きな問題だ。
このために産業支援策ではすらなく、会社支援策になってしまっている。しかも、その会社は実際にはコンテンツを作る会社ではなく、製造業者である。つまり、レコードで言うとエイベックスではなくソニーを支援する内容であると言うことである。もうすでにレコード会社とよばれる存在が、アーティストをプロデュースする力がなくなって、20年が過ぎようとしているのに、1980年代の政策を今行ってどうするのだろうか?今は、プロデュースはほとんど独立系の会社が行っているというのに。これは電子政府の政策も、市民が活動をしやすくするためではなく、電機機器メーカーが仕事をしやすくするものにすぎない。
ポストインダストリーの時代に、単なる製造業者を支援するのは間違っている。プロダクトアウトの発想である。アーティストを支援するのであれば、実際にアーティストを育てているクラブやライブハウスを支援すべきなのである。ソニーや東芝を支援しても仕方がない。
CSというものも、そのようなものとして考えなければならない。ある電機機器メーカーの関連会社の副社長が、アンケートをとって、CSの向上につとめていると書いている文章を読んだことがあるが、ライブハウスの店主は、アーティストを起用するときにアンケートをとったりしていないはずだ。
ポストインダストリーの社会であり、マーケティングの用語としては、プロダクトアウトから、マーケットインやマーケットアウトと言われているのに、官邸や電子政府の発想、大手電機機器メーカーの発想は、プロダクトアウトのままである。かれらには立派なコンサルタントがついているはずではないのか?高いお金を受け取っているコンサルタントはなにをやっているのだろうか?
問題は、ポスト産業社会に対して産業社会的な処方箋として莫大な税金をつぎ込んでいるということである。これはまったくの無駄金だ。つぎ込むべきなのは、ポスト産業社会のインフラに対してである。
つまり
- クリエイターがものを作るときに情報やアイディアを得る機能への支援
- コンテンツにメタ情報をつけて、参照しやすいようにアーカイブ化する機能へのの支援
- ライブハウスや小出版、独立系プロデューサーなどのコンテンツを発見する機能への支援
- コンテンツの流通を促進するレビュー機能へのの支援
- 投げ銭システムのようなレビュー・決済の機能への支援
- 受信者が再利用した際にオリジナルの作り手をも支援できる仕組みへの支援
創作、メタ情報付きの蓄積、発見、評価・評判、決済、利用
への支援である。創作、メタ情報付きの蓄積の支援の中には図書館も含まれるだろう。
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