著者に原稿を書いてもらうということ

2014年9月19日(金)

著者に原稿を書いてもらうということ

出版社にとって一番大事なことは、なんだろうか、本をたくさん売ること、たくさん売って利益を出すこと、綺麗に本を作ること、いい著者をかかえていること、信頼を作ること、すべて、大事なことだ。いろいろ、これが大事だとあげていくことはできるだろう。出版社で仕事をする人それぞれで、違う答えがでてくるに違いない。もちろん、1つに限ることができるわけではないが、存在価値を示すということでは、ひとことでいうと本を出すことということになるのではないだろうか。編集サイドにいくぶん偏った意見だと思われるかも知れない。

本を出さなければ、売ることもかなわないわけで、業として成り立たない。それは、当然のことと思うかも知れないが、もう少しさかのぼってみると本を出すためには、著者に原稿を書いてもらわないといけない、ということがある。だから、原稿を書いてもらうことが一番重要なことにあるわけだが、さらにその前に遡ると、著者に原稿を書いてもらうためには、原稿の執筆を引き受けてもらうことが必要になるということがある。これも、あたりまえのことだと思われるだろう。

ことば遊びをしているようにも思われるかもしれないが、この「原稿を書いてもらう」ということにこだわって、今回の房主の日誌では、述べていきたいと思うのだ。原稿の執筆をお願いする場合、その方と以前に会って話しをしているのか、それともはじめてなのかということがあって、以前に会って話しをしていたり、ひつじ書房の著者に紹介されていれば、ある程度、共通の認識があるから、その共通認識を土台としてその上で相談していけばいいことになる。これはこれでいろいろたいへんだが、そういう素地のない場合、はじめての方というのはかなりたいへんである。では、はじめての方に原稿の執筆をお願いする場合にはどうするのだろうか。

書き手が、ひつじ書房のことを知っているのかということがまずある。ひつじ書房は言語学の書籍を中心に刊行している出版社である。まず、その基本的な性格をご存じなのか、そうではないのか。その方が、ご存じであれば、言語学の出版社としての性質は知っているというところから、話しをはじめる。ご存じでなければ、これまでどういう書籍を出していて、どういう方向性を目指して出版を行ってきたのかを説明する。できるだけ、その方が理解できるように説明する。このところは、出版社としての自己紹介をしているということになる。

自己紹介をすることは、これからお願いをする原稿について、書き上げたのちにはきちんと書籍にして、世に送り出せるということを知ってもらうということだ。造本についてのこだわりのようなことを説明することもあるかもしれない。自己紹介はとても、重要である。その上で、重要なことはその方に原稿を書いていただく以上、その方がこれまでどういう内容のものを書かれてきたのかをきちんと知っていなければならない。このことがとても重要である。すでに、書かれている書籍があれば、どんな本を書かれているのかを調べて知っていなければならない。一番、重要なことかも知れない。

これは、この人に書いてもらおうと思ったので調べるということもあるが、本来はまず何かを読んで面白いと思ったから、あるいはその研究が重要だと思ったから、原稿を依頼する気持ちになるわけである。発端はいろいろあると思うので、ひとつに決めることはできないが、いずれにしろ、この方に当たってみようと決めたら、徹底的に調べ、自分なりの気持ちを伝えようとすることになる。何も読んでいなくて、その方が有名であるとか、単にこれまでの原稿が誰かに面白いと言われているとか、ということであれば、きちんと依頼することはできない。

大事なことは、その著者の書かれていた内容が自分にとって面白かったことを、きちんと伝えられるように努めることである。そのためには、その方の書かれたものを自分なりにきちんと読んで受け止めた上で、その内容とは違った内容を提案するということである。そこに書かれていたことのうちの何かについて掘り下げて書いていただくとか、違った視点で書いてもらえるように訴えるということである。あるいは、分散して発表されていた論文を集めて、1冊にしましょうと提案することもある。

繰り返しになるが、その方の書かれているもの、書籍であったり、論文であったり、何らかの過去のものに目を通すということである。今は、かってとは違い、大まかなところまでは、図書館に行かなくても、ネットで検索すれば何とか当たりを付けられることが多いし、実際に論文を読むこともできるものもある。お願いしようと思っている内容についてすでに著書があれば、ネットで検索して、書店で買うこともできる。そして、できるかぎり読んで、提案し、いっしょに仕事をすることが意味があることだと精一杯説得する。可能な限り、誠実に、精一杯説得する。その方のこと、その方の書いたものを調べるというのは、原稿依頼というラブレターを書くには必須のことだといえよう。なお、これは、はじめての原稿依頼ではない、つきあいのある著者の場合も同じことで、つきあっている方だといって手を抜いてしまうと書きましょう、といってもらえなくなるから、きちんと愛は伝えないといけないということである。(深く反省します。)

いつもいつもきちんと百パーセントできていると主張するのは、なかなかできないところもある。自分を振り返って、それができているだろうかというといささか反省が必要だ。ただ、せめてそのような心構えで、原稿を依頼するということを心がけたいと思っている。

新しい著者と出会い、原稿をお願いするということを心がけたい。これまでになかった内容のものを世に送り出したい。それが、出版社の使命であると言っていいだろう。

いただいた原稿をきちんと書籍のかたちにして、読みやすくすること、さらに書店に並べたり、学会に出展して、その書籍を読むべき人、読んだらいいと思われる人に届けること、きちんと採算をとって、次の書籍を作る原資をきちんと稼ぐこと、校正をしっかりして、間違いのないものを世に送り出すこと。これらのこともみんな大事なことだ。どれもが大事ではあるけれども、ただ、原稿を書いてもらうようにお願いすること、そのことが出発点であり、大事だということは肝に銘じておきたい。

実際にはできていないことあり、その自戒の意味も含めて、書き記しておく。

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