【出版】学術書の営業というものは、未開拓の領域なのだ。学術書の営業ということについてこれまでモデルがあったのだろうか。この出版社の学術出版営業が優れていると言うような先行事例は聞いたことがないような気がする。

2007年11月14日(水)

【出版】学術書の営業というものは、未開拓の領域なのだ。

学術書の場合、残念ながら、普通の書店においてもらえることはない。町の本屋さんであれば、価格帯として3000円くらいが上限だろう。本を見て衝動買いをするというのは、読者としてとてもたのしみなことだが、学術書は、研究に関わっていない人が、町の本屋さんで衝動買いするというレベルではない。内容的にも、価格的にも、また、重さの点でも。

となるとやはりずば抜けて大きな書店においてもらうということが妥当なところとなる。ジュンク堂池袋店であるとか紀伊國屋書店の本店、南店であるとかの規模になる。そのくらいの規模の書店は日本でもそんなに多くないわけで、いたって少数の書店とお付き合いするということになる。そういう大型書店でも、棚においてもらって、必要のある人が来てくれて、買ってくれてはじめて売れるというところだろう。待って売るというビジネスになる。うなぎの仕掛けみたいなものだろうか。仕掛けておいてじっと待っているというような。

このようなタイプの場合、書店に営業にでかけても具体的に何ができるのかというと、できることは限られている。一生懸命に説明して売れるというものでもないわけで、特別なお客が来てくれなければ仕方がない。そのお客さんは、言語学に関心がない人では無理で、それなりに関心を持っている人である必要がある。ただ、こういうと抜け落ちてしまう危険性がある。研究者ではないけれども、言語学的なものが好きな方の存在という可能性を無視してしまうからだ。あるいは、読者の振幅も様々であり、決めつけてはいけない。言語学直ではなくても関連する分野はあるわけであり、そういう方々には直接リーチすることはとても困難だ。やはり、可能性があるものについてはある程度関わる、広めに考えるという姿勢を持っていないとどんどんと閉じこもってしまう危険性がある。一方で、最重要な部分かというと、そうでもないので、かける労力の比重についてはよくバランスを考える必要がある。

それでは、学術書の営業ということについてこれまでモデルがあったのだろうか。この出版社の学術出版営業が優れていると言うような先行事例は聞いたことがないような気がする。復刻版とか大型辞典とか、そういう外商部を動かすような営業は、沢山例があるだろうが、ひつじ書房のように基本的にその著者のオリジナルの内容を世に問うことを主にしている学術書というものは先行例がないように思う。

これはまた、いわゆる人文書というものの営業とも違っている。人文書と呼ばれるものはたとえば、2800円で4000部くらいは売るという世界だろう。みすずなどはこのケースだろう。決して学術書ではない。学術書は8000円で700部といった感じである。ある棚で、人文書は10冊売るところが、学術書はせいぜい2冊というところではないか。人文書は売れ続けてくれるようにすることが重要で、学術書は確実に1冊でも売れてくれればよいということになる。だから、あまり無理に書店に押し込むことも難しい。その1冊を売るためにどのくらいの時間がかかるのだろう。書店の棚の経済的な回転のギリギリのところで、売っているというのだと思う。

営業の仕方も違ってくる。刊行した主旨に沿った棚に入れてもらうこと、多い必要は全くないが必要な1冊はきちんと入っている必要がある。そうすると直接あって数分の話をし、そのために交通費と時間を掛けて出かけて行くとなるとファックスでたいがいのことは済ませてしまった方が経済的ということになる。ただ、そうであったとしても、重要なのは個別に書店を回って足で稼ぐのではなくて、その書店でどういう本が回転しているかと把握しておくということだろう。1冊に勝負をかけるということになるとして、ただ、そこがどのような棚であるかということは知っていた方が当然いいわけだ。でも、たぶん、担当者にあって話をすることよりも、会わないでも手紙を書くというようなことの方がいいのかもしれない。

学術書の営業というものは、未開拓の領域なのだ。


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