【出版】プレゼンのタイミング

2007年9月19日(水)

【出版】プレゼンのタイミング

ひつじ書房では、研究書を出そうとのご相談をいただいた際に、プレゼンに来ていただくというプロセスを経ることが多い。そうではない場合の方が少ないと言っていいだろう。そうではない場合は、その研究者の方と長いお付き合いの機会があって、どういう内容の研究をされているのか、とても優れている内容であることがもう先に分かっているような場合である。こちらから、お願いして書いていただくという場合もそうである。ただ、私が全ての原稿を担当するわけにはいかないので、内容を査定するという意味ではなく、内容をひつじの若いスタッフに知ってもらうという意味でプレゼンをお願いする場合もある。スタッフが何人かでプレゼンをお聞きして、担当したいというものが編集を担当する。あるいは、参加したものの中から、私が「担当する?」というように打診することもある。いずれにしろ、研究者の方に直接、ご自身の研究内容を話していただくということはスタッフにとってたいへん勉強になる。とてもありがたい機会である。実際に担当する時も直接研究をきく機会があったものだと内容をより理解できるし、いろいろと仕事もやりやすいということがある。

そういう場合ではない場合、研究者の方からご相談を受けて、本を出す方向に進めるかどうかという時に、プレゼンしていただくことがある。ひつじでは、これは必須のプロセスとしている。

プレゼンをお聞きしていて、思うことがある。博士論文をおまとめになって、それで本にして公刊したいということで、相談に来られて、プレゼンをするということになるわけだが、困ってしまうのは結論がよく分からないプレゼンがあることである。短い時間の中でのプレゼンなので、ある程度要領よくまとめておいてほしいのである。内容が良くないということではない。かなり良さそうだなと感じる場合でも、もう一歩進んで何が分かったのか、はっきり言ってくれないとポイントがわからないんだけど、ということがある。

もう一歩踏み込んで結論をはっきり述べてくださいであるとか、その研究はこういう視点で結論はこっちを中心にした方が面白くなるのではないか、などと僭越な助言をすることがある。博士論文の審査の際では場合によってはあまりつっこんだ議論がないのか(そんなはずはないだろう)、あるいは編集者と査読者では視点が違うということか。こちらが質問をすると審査の時にはそういうことは言われなかったのでありがたいと言われることもある。多くの場合は、的外れな質問だなと思われているかもしれない。勝手な助言を申し上げるのはたいへん、申し訳ないと思う。ここには、博士論文執筆と学術出版のための執筆とあいだに微妙な違いがあるのだろう。出版には、読者が知りたいこと、読者が興味深いと思うことをきちんとかたちにしてもらわないと読者はお金を払って買ってくれないという、ある点でよりシビアな点がある。もちろん、研究コミュニティの方が厳しい局面が多いわけだが、違う部分について出版の方がシビアな点もある。博士論文のままであれば300部しかうれないが、きちんといい結論を打ち出せれば、それによって500部になるということはあるだろう。そういうことはある。出版社の編集者が関わる理由というのはここにあるのだろう。

英文だが、この本が参考になるかもしれない。Getting It Published: A Guide for Scholars and Anyone Else Serious About Serious Books (Chicago Guides to Writing, Editing, and Publishing) 英語教育系の研究をされている方は読まれるとよいかもしれない。編集者でも勉強になる。

ひとつだけ、お願い。出版のために改稿するには半年くらいはかかることもある。ということであれば、やはり早めに相談に来ていただいて、プレゼンも早めだとより細かくつっこんだ助言ができるだろう。学術振興会に申請することも考えると9月だと時間がたりないと思うのである。教育系の場合は、博士論文のままでは出せない可能性が高いと考えておいてほしい。


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