校正のこと
ひつじ書房に入社した当初、紙の束を指してこれはゲラって呼ぶから、と先輩に言われたとき、これが噂の「ゲラ」ですか…、とそれまで口にしたことがなかった言葉に少しこそばゆい感じになったのを覚えています。この仕事をしていないと触れない言葉ですね。宅配便の荷物に「ゲラ」と書いて集荷の人に「これ何ですか?」と聞かれたことがあります。
さて、出版社の社員はそのように入社して専門(?)用語を教えられて覚えていくわけですが、研究者の方はどういう風にそういうことを覚えていくのでしょうか。用語に限らず、校正のやり方などもですが、先生や先輩から教えられて覚えていくのでしょうか。
先日少し校正のやりとりでうまくいかず、もっと初めにやり方をご説明した方がよかったかな、と反省することがありました。著者校正として初校ゲラをお送りしたのですが、こちらでゲラに書き込んでいたものはそのままゲラ上で返答があり、それ以外の本文の修正は多くなったということで、ほぼ全面改稿のワードの履歴付きのファイルで送られてきました。
本文の組版は、ひつじ書房では組版所でAdobe社が出しているInDesignというソフトで組版を行っています。
体験版でもよいので少し触ってもらうともう全然違うというのが分かってもらえるかと思うのですが、ワードとは全然違います。ワードは執筆ソフトですがInDesignはレイアウトソフトです。
原稿を元にInDesign上でレイアウトを行っていくので、何が言いたいかというと、ワードの文章を右から左に流し込めば完成では無くて、設定を一つずつ入れています。もちろん自動化できるところはしていますが、基本的には作業者が作業をして、紙面の形に組んでいます。なので、差し替えデータを入れなおすのでやり直してくださいというのは、賽の河原のようなもので、組み上げたものをすべて崩すということになります。用語としては「組み捨て」と言います。
組み捨てをしたくないのは、もちろんその分の労力や費用がかかっていることがあります。しかしそれ以上に、きちんと組み上げたものをもう一度一からやり直してくださいというのは、作業者としても精神的にきつくないでしょうか。
校正を修正するフローというのは決まっていて、赤字の入ったゲラを見て、作業者が修正するという風に決まっています。もっとも効率の良い形に落ち着いているので、それ以外の方法でやれというのはルール違反になります。
そういうこともあり、いま「著者校正のやり方」を作っています。(PDF)
https://www.hituzi.co.jp/staff/img/proofreading_20220209.pdf
よろしければご意見をいただけますと幸いです。
何もゲラに修正を入れてはいけないと言いたい訳ではありません。ゲラの形になって、原稿とは違う形になることで気づくことはたくさんあるのは良く分かります。せっかく本になるのだから、私も思い残すことがないよう、とことんやりたいと思っています。ただ、組版をするにも校正をするにも、人が関わっているのです。それを無しにするようなことは、やめて欲しいなということなのです。
とりあえず原稿をいれて、あとはゲラで修正をするから、というのは誰も幸せにはなりません。
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