句読点について
「公用文作成の要領」というものがあります。昭和27年に作成され、Wikipediaによると「昭和20年代に行われたさまざまな国語改革政策の一環として、また政治・行政の民主化の一環として、さまざまな公文書を「官庁自身や一部の専門家のためのもの」から「広く国民全般のためのもの」に改めることを目的としていた」とあります。
しかし、昭和27年に作成されたものであるので、「内容のうちに公用文における実態や社会状況との食い違いがあることも指摘されてきた」ということで、現在、文化審議会国語分科会国語課題小委員会において、「「公用文作成の要領」を見直し、新たにどのような論点を取り上げるべきかについて」の議論が重ねられています。
文化審議会国語分科会国語課題小委員会(第38回)
その具体的な資料に、最新のもので令和2年10月31日付け(文化審議会国語分科会国語課題小委員会(第38回))の「新しい公用文の作成の要領に向けて(中間報告)(案)」があります。その中には「表記の原則について」の項目があり、文章中の表記を何らかの基準を持って統一しようと考える際には大変参考になります。
もちろん出版社は官公庁ではないので、「公用文作成の要領」に従う必要はありませんし、独自のルールがあれば良いのですが(『記者ハンドブック』(共同通信社)、『日本語の正しい表記と用語の辞典』(講談社)など様々な手引が出されています)、「新しい公用文の作成の要領に向けて(中間報告)(案)」は読みやすい文章を書くために良く練られた内容だなぁと思って見ています。
ところで、以前の「公用文作成の要領」からの変更点で、私が特に興味深く思った点は、句読点の使い方についてです。
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○新 句点には「。」読点には「、」を用いる。横書きでは、読点に「,」を用いてもよい
○旧 句読点は,横書きでは「,」および「。」を用いる。
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つまり、コンマ「,」から点「、」への変更が提案されていることです。
この前回の9月4日の第37回資料では、以下のように記載されていました。
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○句点には「。」読点には「、」を用いる。横書きでは、読点に「,」を用いてもよい
読点は、横書きにおいても「、」(テン)を用いるが、事情に応じて「,」(コンマ)を用いることもできる。ただし、両者が混在しないように留意する。学術的・専門的に必要な場合等を除いて、句点に「.」(ピリオド)は用いない。欧文では「,」と「.」を用いる
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前回にあった、「学術的・専門的に必要な場合等を除いて…」という記述が無くなり、よりシンプルになっています。「.」(ピリオド)についての言及が無くなったことになります。
読点に点「、」を使用することにした理由としては、「句読点については、各府省庁及び社会一般における表記の実態を踏まえた検討の結果、国語分科会の判断として、読点に「、」(テン)を用いることとした。」と説明があります。まだ「案」の段階のものなので、今後どのように変わるか分かりませんが、一般的に使われているという意味で、私は「、」になるのが良いのではないかなと感じています。ひつじ書房でも、「、」「。」を採用しています。
しかし、言語研究の場合、「,」(コンマ)と「。」を使われている方も多いのでは無いでしょうか。小学校では使わないと思いますので、学術的な文章を書く鍛錬のどこかの段階で、そのように書くようになるのだと思います。「,」(コンマ)を使う利点として、英語と混じった場合に、統一感があり、また使い分けに悩まずに書けるということがあると思います。
ひつじ書房では、変換の際に半角と全角のコンマが混じってしまった場合に、校正で目視でチェックするのが困難であるため、「、」を推奨しています。
しかしその場合、文章中で英語の単語を羅列する時にどうするか、curry、steak、pastaなのか、curry, steak, pastaなのか。
引用文献で(ひつじ書房 1990、1992)となるのか(ひつじ書房 1990, 1992)となるのか。さらには(ひつじ書房 1990、1992、Langacker 1998, 1999)なのか、など色々統一については決めないといけないことが出てきます。
句読点は「、」「。」を使用する、と決めることは単純なようで、和欧混色組版をしていると、それなりに考えのいる決断です。
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