手探りを楽しむ言語学マンガ
暑さより寒さを心配する季節になりました。やっと、という心持ちです。
10月は、ひつじ書房にとっては、目録『未発ジュニア版』の発送、科研費申請のお手伝い、学会出展となにかと忙しい月です。今年はこれらに加えてセール開催のため、なにかと社内がざわついています。
ここらで一休みというわけではないですが、言語学を扱ったマンガを見つけましたのでご紹介します。
『ヘテロゲニア リンギスティコ〜異種族言語学入門〜』(瀬野反人著、角川コミックス・エース)
研究者のハカバ君は怪我をした師匠の代わりに、モンスターの言語とコミュニケーションの調査をすることになります。対象は、ワーウルフ、クラーケン、スライム(!)などなど、文字通りの「異種族」。言語が違うどころか、発声器官の形、そもそもその有無からして違います。
最初は「この種族は息を吐く時の音を出すのが苦手」というような、ザ・言語学のような話だったのですが、話を追うにつれてボディランゲージメインの意思疎通をする鳥型モンスター・ハーピーの話が出てきたり(動きが速すぎてハカバ君には読み取れない)、嗅覚が重要な要素になるワーウルフの話、葬送文化の話になったりと、タイトルにある「言語」だけはでなく、文化・認識や概念の違いをコミュニケーションに必要な要素として、切り離すことなく扱っています。
それぞれとの交流に四苦八苦するハカバ君、また、モンスター同士も完全に通じているわけではないらしく、通訳として同行しているススキ(ワーウルフと人間の子)にもわからないことが多い様子。というよりもまずハカバ君とススキの意思疎通も完璧ではありません。わからないなりに試したり考えたりする様子が、淡々とつづられています。登場する言語やコミュニケーション上の謎にも、明確な解答が得られることは少ないようです。
旅の途中でハカバ君は、「私が理解だと思っていたこと 理解ではなく解釈だった 理解への壁は限りなく高い」という言葉に出会います。この姿勢が後の物語にどう繋がるのか楽しみです。
出版社の紹介文を見ると「モンスター言語学者が贈る異種族交流コメディ!」とあるのですが、「コメディ!」というよりも、架空旅行記、エッセイといったほうがよさそうな筆致です。研究日記というのが適切かもしれません。
言語学というよりも、文化人類学(人類ではないということは置いておきます)のフィールドワークでしょうか。じわじわと手探りするのを楽しむマンガだと思います。フィクションにおいて結末ではなく過程を楽しむタイプの物語が好きな方におすすめです。
現在、単行本は2巻まで発売中です。試し読みもあるようですので、興味を持たれた方は是非ご覧ください。
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