造本装幀コンクールのこと
毎年7月頃、東京国際ブックフェアが東京ビックサイトで開かれますが、このイベントでは例年、「造本装幀コンクール」出品作品の公開展示が行われます。
造本装幀コンクールは、印刷・製本やデザインを総合的に評価する出版業界で唯一の賞です。今年は349点の応募があったとのこと。公式パンフレットを見ると、糊を使わず糸かがりで製本した博物図譜の本、本文中の片面が鏡張りになっている絵本など、手に取ってみたいと思わされる本ばかりです。
ひつじ書房からもしばしば出品していますが、うれしいことに、今年は『明治初等国語教科書と子ども読み物に関する研究』(府川源一郎著)が審査の最終候補まで残り話題に上った作品としてパンフレットに掲載されました。
この本は明治初年の子ども向け翻訳啓蒙書・小学校用の読本・修身教科書などの資料から、明治期の子どもたちがどのようにリテラシーを身につけたのかを探る研究書です。装幀・組版は春田ゆかりさんにお願いしました。総頁数1220ページ、重量にすると3キロを超す大著です。審査員の柏木博氏によるコンクールの総評を読むと、今年は候補に残ったものは絵本や写真、絵画などのいわゆるヴィジュアルの書籍が多かったそうで、そのなかでこの研究書が残ったことは素晴らしいことと思います。
書籍は、その内容に合わせてデザイン・装幀をつくります。本文の読みやすさ、合計頁数、予算、書店で目立つ外見がいいのか、用紙は面白い質感のものがいいのかあるいは将来的に重版になったときに手に入りやすいものがいいのか……などなど、その本によって、重視するポイントは様々です。コンクールというと、派手な本・目立つ本が取りあげられがちでないかと思うのですが、今回の『明治初等〜』は、きちんと研究書としての装幀という観点で評価していただいたのかなと思います。
今年は残念ながらブックフェアに行くことができなかったのですが、今後もどんな本が出品・入賞しているのかに注目しつつ、今後の本作りに生かしていけたらと思います。
|