『現代日本語の数量を表す形容詞の研究』5月刊行予定です
4月になって気温もだいぶ暖かくなり、東京は桜の見頃となりました。
前回の私のスタッフ日誌(1月末)にも書きましたし、私以外のスタッフ日誌でも書いていましたが、ひつじ書房は毎年1月から3月ごろが繁忙期です。春の訪れとともに忙しさも一段落……すると思っていたのですが、4月に入っても刊行直前の書籍が多くあり、意外と慌ただしい日々が続いています。刊行予定表を見てみると、5月に刊行する予定の書籍が合わせて10冊以上ありました。
5月に刊行する書籍が多い理由の一つが、学会シーズンが始まることです。特に日本語学会が今年はゴールデンウィーク直後の5月10日、11日にあるので、学会出展時に参加者の方に手に取っていただけるように、学会前に刊行を予定している書籍が多くあります。
今日紹介する私の担当書籍、『現代日本語の数量を表す形容詞の研究』(包雅梅著)もそのうちの一つで、先日印刷所に入稿したばかりのものです。
本書は数量を表す形容詞の中でも「多い/少ない」がもつ興味深い特徴に注目します。例えば「大きい/小さい人がそこにいる」とは言えますが、「多い/少ない人がそこにいる」とは言わないように、「多い/少ない」は他の形容詞と違い連体修飾用法(装定用法)に制限があります。しかも「おびただしい、わずかだ、膨大だ」のような「多い/少ない」の類義語類は装定できるのです(「おびただしい人がそこにいる」)。一方で「少ない資源を大切にする」のように「多い/少ない」はまったく装定できないわけではないのです。では、その違いはどこにあるのでしょうか。
こうした「多い/少ない」をめぐる議論は以前からされてきましたが、本書では今までの先行研究を踏まえつつも、今までの研究がさまざまな特徴を持つ「多い/少ない」の一側面しか捉えられていないことを指摘し、「多い/少ない」が数量を表す形容詞であることと段階形容詞である点から、「多い/少ない」の使用制限について説明できること、そして数量を表す形容詞がもつ特徴を論証しています。
本書の研究では、コーパスを駆使して「多い/少ない」や他の形容詞の用例が豊富に紹介されています。また段階形容詞に関する議論では、中国語や英語の形容詞との比較対照がなされるほか、形式意味論の概念を用いた分析が行われます。そのため、本書は日本語学だけでなく、コーパス言語学、対照言語学、形式意味論といった分野にも寄与しますし、他言語の研究でも特に形容詞、修飾、数量に関する研究には大きな示唆を与える知見があります。
「多い/少ない」という普段から何気なく使っている語ですが、この語が非常に面白い特徴を持っていることに気付かされます。刊行されましたら、ぜひ「まえがき」の部分を読んでみてください。豊富な例とともに「多い/少ない」の他の形容詞にはない特徴がわかりやすく説明されており、この語の不思議さ・面白さに引き込まれるはずです。
5月初めに刊行される予定ですので、日本語学会の出展にももちろん持っていく予定です。ご参加の方はぜひお手に取っていただけると幸いです。
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