2000.12.6
横浜市立中央図書館への公開要望書
ひつじ書房 松本 功
101-0064 千代田区猿楽町2-2-5 興新ビル206
03-3296-0687 fax03-5281-0178
isao@hituzi.co.jp
http://www.hituzi.co.jp/
時下、ますますご清祥のこととお喜び申し上げます。
日ごろ、お世話になりましてまことにありがとうございます。
さっそくですが、私は、日本書籍協会の会員で、著作権・出版権委員会の幹事を勤めるものです。
これから申し上げることは、そこで得た情報であります。ただし、内容は個人的にお送りするものです。したがって、本状はひつじ書房という零細出版社の責任においての要望です。いかなる所属団体とも関係がないことをお断りしておきます。
この委員会で話を聞いたところによるとそちらでは、コピーのセルフコピー機を設置し、そちらで借りたあるいは閲覧中の書籍についてはコピーを「私的利用」の名目で、何ら著作権・出版権への注意書きもなしに、し放題、やり放題のコピーを認めていると聞いています。このことは、その後、別の機会にも、複数の図書館関係者からそうであると聞いています。
もし、このことが事実であるならば、これは非常に恐ろしいことです。万が一そうではないのであれば、そうでないことを祈るばかりですが、そうであるならば、即刻やめていただきたい。
それは、公害だからです。
人を殺す害毒をまき散らす行為だからです。ダイオキシンをまき散らし、大地を汚染する行為となんらかわることがありません。
説明が必要でしょうか。
本や知識の流通に関わるものである貴館に何の説明が必要とも思えません。
我々は専門書を刊行するものですが、ささやかな部数でやっと生きて食いつないでいます。それは4000社あると言われる出版社のうちの大多数の出版社がそうです。一人で、本をこつこつと作っているところもあります。本だけでは食えずに、様々な副業を行い、資金がたまると何年かに一度、その出版社を営むものが、自分のこれと信じた本を出す、そして、またしばらくは本を出すことができない、本は儲かりませんので・・・。あるいは私のことがそうですが、夫婦二人で、苦労をしながら、運営しているところ、そんなところが多いというのが実状です。本を出すと言うことは、ビジネスですらなく、他の副業によって食っていたり、深夜まで働き―自分が経営者ですから、残業とは言いません―多くの零細出版社は、そのようなことをいちいち語りませんが、本はそのようにして作られています。
アメリカでは、専門書は、図書館によって買い支えられています。そのことによって、必ずしも十分には個人の読者に買い支えられていない重要な「知的」な営みが、支えられています。公共図書館は、市民の厳しい視線によって監視されていますので、そのような公的機関による知を支えること自体が市民によって、重要な行為であると支持されているということだと思います。
私は、図書館はそのような知の支え手になるべきであるし、現実的にもアメリカには遠く及ばないものの、そのような志向、つまり知の支え手になる、ことを願っているのだとばかり思ってきました。しかし、そのような希望的な観測は無惨に破られたようですね。
そちらのやっていることは、知の支え手になることのまったく反対のことです。知は簡単に10円コピー機で、切り刻まれていいものでしょうか。私は、コピーをすることは反対ではありません。コピーをする時の様々な問題があるのを、セルフコピー機で私的利用とすること、これはもっとも愚かなことです。議論がすっとばして、単に面倒だから、人件費をかけたくないから、というのではすまない問題です。
私は、以下のことを求めます。
1 現状のセルフコピー放題の状態を即刻停止することを求めます
2 出版界と図書館界に横たわる溝を広げたことを、両界に謝罪することを求めます
さらに、私は出版界と図書館界に実効ある「コピーと著作権処理」についての実験を提案します。これについての詳細はここには書きませんが、コピー機自体に問題があること。複数の読み手がいる図書館を単なるエンドユーザーとしてしか認識してこなかった出版界にも問題があること、もう少し言うと複数ライセンスという考えを書籍にも持ち込むことが可能なはずであるのにその検討すらしてこなかった出版界にも大きな問題があること―再販制に縛られて―。その点で、非常に残念なやり方ではあるにしろ、大きな問題提起をされたことを深く感謝するものです。
出版界に問題提起をされたという点で、ブックオフにならぶ「快挙」だといってもいいのではないかを思う次第です。巷では、愚挙と呼ぶようですが。
私の要望にお応えいただくことを切に願います。まことに僭越ですが、上記の要望につきまして、何らかの対応をされた場合、小社宛に同封の封筒にてご連絡をくださるか、あるいは、そちらのホームページで公開してくださいますようお願い申しあげます。
もし、対応されません場合には、さらに書状をお送りする他、法律に許される範囲のさらなる行動をとることになりますことを申し添えておきます。
なお、本状は公開要望書ということで、ひつじ書房のホームページに掲載しております。