2021年7月21日(水)自社ウェブサイトで書籍を販売するべきか(7月21日にメール通信で配信した内容がもとになっています。) 悩ましいというべきなんでしょうが、どうなんでしょうか。ひつじ書房の自社ウェブサイトがありますが、そこで刊行している書籍を直接販売する方がいいのか、ということを考えています。刊行した書籍をピンポイントで購入するということであれば、たどり着いた場所でその場で買えることは悪いことではないと思います。読者に対しての利便性の提供という点では必要なサービスかもしれないと思います。ただ、実際には、注文を受けて、発送する際に人的な労力が必要です。在庫してある棚の中から、探し、請求書を切って、住所を書いたり、打ち出して、梱包し、郵便屋さんや宅配便屋さんに渡すということをすると時間と手間がかかります。書店さんで買っていただける場合は、倉庫から出して、取次(問屋さん)に渡すということですので、比較的シンプルな定形の仕事で済みます。コストは掛かりますが、作業はルーティンな仕事ですみます。注文を受けるには、もしかしたら、人手が必要になるかもしれません。 以下に述べることは実際に機能しているかどうかは怪しいと疑って考えるべきことかもしれないですが、本屋さんに本があるなら、ピンポイントで探していなくても、言語学のコーナーに来て、何か関心を引く書籍はないかと見て、たとえば、他社の本を探しにきて、たまたま出会って買ってみることで予想しなかった出会いが生まれるということがあるかもしれません。ウィンドウウォッチングをして、見て買う。本の外見をみて、魅力的だと思って買うとか、実物の本を見て、手に取って、著者たちの名前を見て買うということもあるかもしれません。ショッピングというのは、そういう発見があって、出会いがあって楽しいことであるかもしれません。しかし、冷静に分析的に考えてみると研究書でそのようなことが現実にあるでしょうか。文芸書とか話題の本とかはやりの書籍とか、人生や生活を味わう書籍であれば、偶然の出会いがあって、それが楽しい、書籍を読む楽しみの1つといえるかと思います。しかし、学術書の場合、そういう幸せな出会いはあるのでしょうか。リアルな書店ではほとんど出会いはなくて、アマゾンとかで、関心がありそうとリコメンドされて表紙を見て、著者を見て、テーマを見て買うということがあることかもしれません。あるいはtwitterに表紙の画像が流れ、それを誰かがリツイートして、少し拡散して、目にとめて、読んでみようと思って、購入する。誰かが、ブログとか何かで紹介していて知る。ネットの中でぐるぐると情報が回って出会うのなら、ネット書店で買ってもらえばいいということになります。リアルな書店は現実的には関わらないのでしょうか。大きな大学の大学生協の書店であるとか、ジュンク堂の大きい店舗などの場合だと大学の先生や学生が、見てくれて購入してくれるということもあるかもしれません。見て買うということがどれくらいあるのでしょうか。情報はネットで手に入れて、それで注文して買うということの方が多いのではないでしょうか。本によっては、twitterに流した書影とキャッチコピーの文面を見て、興味を惹かれたライターが、取材して取り上げてくれて、それを記事にしてくれて、そのことで知られるようになって、話題となることによって、本屋さんの店頭にも並んで、買ってもらうということもあります。『「させていただく」の語用論』は、そういう幸せな書籍です。話題になることが重要でした。しかし、それも今の時代、ネットの中での情報によって起こることが多いでしょう。私は、自社のウェブサイトで直接販売をすると書店の店頭で売れにくくなり、置かれにくくなり、出会いの偶然がなくなるのではないかと心配するのですが、ネットの情報で購入されるのなら、情報はネットの中でぐるぐる回っているわけですので、自社のサイトで直接販売をしても、何かマイナスがあるわけではないということになると思います。それが現実でしょう。直接売れるようにした方がいいのは、アマゾンは需要が急に起こりますと、出版社から出荷している新本が品切れになり定価よりも高価な、時によっては法外な値段で販売されるということが起こるので、その期間だけでも、定価で販売する直販はできた方がいいと考えています。そうすると緊急避難的な販売はできた方がいいことになります。ずっと店を構えていなくてもよいでしょうか。ずっとでなくても、直接買えるようにするには、クレジット決済の仕組みが必要になるでしょう。 自社のウェブサイトでの販売については、さらには電子書籍の販売をするかどうか、ということがあります。自社のサーバーに本のデータを入れて、販売するかどうか。自社のサーバーではなく、Google booksと連携して、そこへリンクをはるという方法もあります。Google booksの場合ですと購入する人は自分のブラウザーで見ることになりまして、人に渡したりすることはできませんので、著作権・出版権の管理は容易です。直接、自社で電子書籍を売る場合は、個人認証の仕組みを付けるか、付けないか。購入した本人の判断を信用するという考えもあります。ただ、別の誰かにデータを渡して、その渡された方が、ルーズにあつかってしまうとデータが拡散してしまうことが起こってしまいます。電子書籍自体が売れなくなってしまう危険があると思います。そう考えるとGoogle booksの仕組みを使うのがよいようです。論文集の場合に、書籍単体ではなくて、論文ごとにデータで売れるとよいようにも思います。その場合、管理と処理がかなり繁雑になってしまう危険性があります。比較的簡易に扱える販売と連携したコンテンツサーバーがあって、コストがかからないといいのですが、そういうサービスがあるといいのですが。もともと、少ない人数でやっていますので、そういうことのこまこました処理が仕事の中で大きな比重をしめてしまうと本の編集ができなくなってしまうということが起こってしまいます。また、そのようなサービスは安価なものではないでしょう。少人数でやっている零細企業には身に余るのではないでしょうか。論文ごとにデータで売るというのは、実際にはどういうときにリクエストがあるのでしょう。ゼミである論集のある論文をみんなで読むとか、という場合でしょうか。そういう場合なら、個別に対応することもできるかもしれません。音楽の世界だともうCDで買うか、1曲だけ買うかというのは、その時その時の都合によってで、その志向に対応できるようにしていると思いますが、論文集の個々の論文の場合も同じ要求がありますでしょうか。 John Benjamins Publishingは、 jbe-platform.comという電子書籍のサイトを持っていて、Ingentaという会社が電子書籍の制作やシステムを動かしているようです。そのサイトの運営もIngentaがやっています。出版社の電子書籍サイトの運営をする会社があるということのようです。John Benjamins Publishingは、さらにKudosというウェブサービスの会社と提携しています。まだまだ調べている途中で実態がよく分からないのですが、出版物のリストも公開していて、書籍や論文へのリンクを提供し、それをIngentaがやっている jbe-platform.comに飛ばしているようです。著者も出版社と連携しつつ、書籍や論文のリストを公開している。書誌情報なら、researchmapが提供しているのと似ているように思います。researchmapは国立研究開発法人科学技術振興機構が運営していますが、Kudosの住所は、イギリスと書かかれていますが、イギリスはそれを私企業がやっているということなのでしょうか。
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