2021年6月30日(火)開拓的な研究書をお知らせすること(6月23日にメール通信で配信した内容がもとになっています。) ひつじ書房は、研究書を主に刊行しています。研究書は研究を刊行する書籍ですが、我々は、開拓的な研究書を刊行しています。このようなことをわざわざ言いますのは、研究書の中にも啓蒙的な研究書というものもあるからです。それらの違いは大きいですが、あまり認識されていないのではないでしょうか。 開拓的というのは、問題自体を問いかけるものです。こういう課題があって、その課題自体がどうかという問いを投げかける。新しい問いで、問いを立てること自体が面白いと感じますが、それは広く受けるかというとなかなか難しい。そもそも、それが問うべき問題なのかということが、まだ、熟していないから、新しい問いなのですから。 それこそ、問いとは何かということを問うている書籍を刊行しています。小山義徳・道田泰司編『「問う力」を育てる理論と実践 問い・質問・発問の活用の仕方を探る』という本です。教室などで問いをこのように立てると授業が上手くいき、教室での教育が上手くいく、という問題意識が共有されていて、それが、知るべき重要なノウハウであると共有されているとその本はノウハウの書籍ですから、読めば授業で教育効果がありますから、授業を持っている教師の方はそれを知るために買ってくれるでしょう。しかし、それが問題自体を設定する書籍だと、その議論に付き合わないといけないし、それが実際にどう役立てられるのか、わからないと言うことになり、お金を払って購入したとして、その分の効果があるかは、分からないということになります。そのような本は売りにくいです。ぜひ、『「問う力」を育てる理論と実践』を購入して読んでいただきたいです。ちなみに、執筆者は、生田淳一、植阪友理、小山義徳、鏑木良夫、亀岡淳一、小山悟、齊藤萌木、篠ヶ谷圭太、白水始、たなかよしこ、中山晃、野崎浩成、深谷達史、道田泰司、八木橋朋子の先生方です。いろいろな分野(場所)での実践に基づいていますが、開拓的な研究書ですから、問題の問いかけから付き合っていただくことになります。もちろん、役に立つと申し上げますが、ノウハウ的に即効的に役に立つ啓蒙的な書籍とはいいにくいです。正しい真実が書かれていて、それを解説して分かることが重要という書籍とはいいにくいです。 https://www.hituzi.co.jp/hituzibooks/ISBN978-4-8234-1035-2.htm 啓蒙的研究書の場合であれば、書評したり、紹介してもらうこともできます。週刊誌などで、今はこれが話題ですであるとか、このことによって問題が解決できるとかの特集を組むと言うこともあります。しかし、開拓的な研究書の場合は、そういうことは難しいです。今は話題になっていませんが、重要になるかもしれませんという内容を特集することはないでしょう。リモートの時代、学会の出展場所で展示してたまたま見てもらうこともできないので、刊行したことを知らせることもできません。著者の先生方にオンラインで紹介してもらうことをお願いしているのも、そういうことのきっかけを作るために行っているところがあります。 もう少しで刊行する研究書で『知を再構築する異分野融合研究のためのテキストマイニング』(内田諭・大賀哲・中藤哲也編)という研究書があります。これは、テキストマイニングという方法によって、分野横断的に研究するというテーマですが、これもそういうことが重要であると気付いている方には、当然すぎることですが、気が付いていない人、問題意識として持っていない方には、その研究の意義が分からないでしょう。学会の展示場所に並べていれば、本の表紙を見て、面白そうだなとか、人が手に取っていることを見て、関心を持つということがあるでしょうが、リモートの世界では、自分の関心ある領域の外に関心を持つことは難しいです。たまたまの出会いというものがなければ、そもそも出会うことがありません。「実践編では言語学、情報学、政治学、社会学、看護学、環境学など多様な分野の新進気鋭の研究者が、それぞれの分野におけるTMの実践的な研究例を提示する。」ということで、さまざまな分野を横断的に取り扱っています。テキストマイニングという現代的な手法が、テキストという<分野を限定しない素材>によって、研究を串刺しにして、知を再構築します。(執筆者:石田栄美、伊豆倉理江子、内田諭、大賀哲、加藤朋江、金岡麻希、川端亮、木下由美子、清野聡子、田中省作、土屋智行、中藤哲也、永崎研宣、畑島英史、秦正樹)言語研究の重要な可能性ということもできます。テキストマイニングの意味論という議論が言語学の中にあるべきですし、一方で、テキスト学部というのができてもいいと思います。 https://www.hituzi.co.jp/hituzibooks/ISBN978-4-8234-1000-0.htm 関心を持ってもらいたいということもあって、問いの本もこちらのテキストマイニングの書籍も各章を概観している部分をウェブに公開することにしました。それぞれの論文がどのようなことを扱っているのか、解説していますので、ぜひ、解説をお読みになって、さらにぜひこれらの書籍自体を読んでいただきたいと思います。 事前の評判を作りやすい啓蒙的な研究書ではなくて、開拓的な研究書ならではの困難とそれを打開するための挑戦があるということを申し上げました。開拓的な研究書をどう広めていくのかは、リアルな学会出展のないリモート時代に特に大きな課題になっています。 これらの研究書を、どうぞご覧下さい。 ---------- 執筆要綱・執筆要項こちらをご覧下さい。 「本の出し方」・「学術書の刊行の仕方」・「研究書」・スタッフ募集について・日誌の目次・番外編 ホットケーキ巡礼の旅 日誌の目次へ
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