第35回 日本語教師の国家資格の大枠決定と日本語教育推進議連総会|田尻英三

★この記事は、2022年11月1日までの情報を基に書いています。

2022年10月25日に開かれた第5回(このウェブマガジンの第34回に「第6回」と書いたのは、「第4回」の間違いです)「日本語教育の質の維持向上の仕組みに関する有識者会議」で、登録日本語教師の資格に関することの大略が決まりました。

今回検討した事項は、当日配布の「参考資料1 日本語教育人材の養成・研修の在り方について(報告)改訂版 平成31年3月4日 文化審議会国語分科会」を前提にしていますので、ぜひこちらもご覧ください。この資料の他に、2020年7月9日から2021年7月29日に開かれた「日本語教師の資格に関する調査研究協力者会議が出した「日本語教育の推進のための仕組みについて(報告)~日本語教師の資格及び日本語教育機関評価制度~」も、この会議を開くにあたっての基本資料です。直近でも、これだけの会議や資料が積み重ねられていることの重要性も知っておいてください。

このウェブマガジンで、会議のそれぞれの項目と前提となる資料との関連について説明する余裕はありません。それぞれの検討項目の議論の前提となる資料に触れていたら、膨大な量になります。

以下では、田尻が理解している今回の有識者会議の資料内容についての重要な点のみ説明します。そうしないと、この有識者会議そのものや、そこで扱われた資料が誤解されてしまうのではないか、という可能性があると思っています。ここでは、有識者会議での詳しい検討内容全般については触れません。

なお、このウェブマガジン33回で扱った外国人介護福祉士候補者に関する論文の執筆者平井辰也さんから連絡がありました。平井さんはこのウェブマガジンを読んでいなかったので、連絡が遅れたということです。平井さんは、田尻が第33回で指摘した点については同意するということでした。日本語教育学会学会誌編集委員からの連絡は、現在までありません。

1. 登録日本語教師の筆記試験について

当日の会議で、神吉委員が試験のエビデンスについて発言したあたりから伊東委員の説明のあたりまで、田尻はほとんど会議を視聴できませんでした。田尻は画面に向かって大きく手を振ったことにより(聞こえていませんという意思表示のつもりでした)、事務局が対応してくれて、再度画面に入り直しました。後でうかがうと、不安定な接続は田尻だけのようでした。改めてオンライン会議の難しさを感じました。

筆記試験については、配布資料の9ページと17~19ページに書いてあります。

何度も言いますが、この有識者会議は大きな方向性を決めるだけの会議で、実際の試験の中身には検討しません。会議を傍聴した方や、後で配布資料を読む際には、この点を誤解のないようにお願いします。

(1)筆記試験の基本的な性格と内容

ここでは、筆記試験①と②の内容の概要を示しています。指定の日本語教師養成機関修了者については筆記試験①を免除されることになっていますが、その場合「筆記試験①の出題内容と指定日本語教師養成機関での履修内容が整合することが必要である」とあります。

言い換えれば、2019年に出された「日本語教育人材の養成・研修の在り方について(報告)改訂版」に示された3領域5区分50項目に対応していない日本語教師養成機関は「指定」されないので、その機関の修了生は筆記試験①も受験しなければならないということです。今後は、2019年に出された「報告」の3領域5区分50項目が重要な意味を持ってきます。この「報告」の教育内容については、配布資料3の「(参考)日本語教師の養成段階における必須の教育内容」に出ています。ここでは、養成機関が50項目をあまり関係のない科目に読み替えないように、「科目例」まで出していることに注目してください。どの日本語教師養成機関が「指定」されるかは、新しく作られる審議会で検討されることになっています。

また、「生活者」・「就労者」・「児童生徒」・「難民」などの分野別の知識はこの試験で出題されず、資格取得後の初任者研修で習得するものだとなっています。このように書いてあるのは、今後の登録日本語教師のキャリア形成との関連も視野に入れているからだと田尻は考えています。

(2)試験の一部免除することの意味

この点は、配布資料1の19ページの「筆記試験の免除の対象者や免除する試験の範囲」に書かれています。「必要な知識又は技能を有していることが確認できる者に対して改めて試験等を行わず、養成課程修了者の負担を軽減し、試験を受けやすくすることにより、資格所得の際の門戸を広げ、日本語教師の質・量の確保に資するものである」ということです。

これを図示したものとして、資料2の「登録日本語教師の資格取得ルート(イメージ)【たたき台】」があります。Bルートは日本語教師養成機関のうち「指定」の要件を満たした機関の修了者で、Cルートは養成機関が「指定」の要件を満たしていなくても必修50項目を実施している機関は「指定養成教育機関と同等」とみなして筆記試験①を免除するものです。この図で、経過措置期間の特別なルートが赤で囲まれて示されている点に注目してください。これらはいずれも既に養成機関を修了した方や、現在現職教師である方への対応です。

今回の資料で前回の資料と異なり、一部変更されたのは、Fルートです。現職日本語教師で民間試験合格者は、二つの講習を修了すれば教育実習が免除され登録日本語教師になることができます。このルートができた点は、有識者会議で西村委員が評価していました。大日向委員は養成機関ルートと現職日本語教師ルートについて「質と量」を気にしているという発言をしていましたが、田尻はこの資格取得ルートの説明で対応していると思っています。

(3)その他の項目

出題の内容・形式、合否判定、試験の実施体制等、指定試験実施機関等に求められる役割などの項目が資料に書かれていますが、いずれもその詳細は今後作られる審議会等で検討されるものです。

2. 第5回の有識者会議では意見が出なかった項目

第5回の配布資料では、教育実習の実施機関や指定日本語教師養成機関も「今回の会議でご議論いただきたい論点」となっていましたが、田尻の記憶ではこれらの論点についての意見は会議内では出ませんでした。会議で検討した点が、筆記試験や経過措置期間等々に集中したからだと思います。11月1日の時点では、次回の有識者会議の論点は示されていません。

3. 第5回有識者会議で配布された重要な資料について

この会議では、その他に大事な資料も配布されていますので、簡単に説明しておきます。

(1)法務省告示機関の日本語教師

配布資料2の「(参考)日本語教育機関(法務省告示機関)における日本語教師等の状況①」と「②」は、法務省告示機関の日本語教育機関、つまり日本語教育を行うプロの所属する機関の統計です。それによると、40代と50代が約半数を占めているのがわかります。この人たちが新しい基準に該当せず、教壇に立てないようになると、一気に教師不足が起こります。そのためにも、経過措置が必要となるのです。現職教師の資格別の資料では、もっとも多いのが大学卒で学部や大学院の日本語教師養成課程を経ずに日本語学校などで420時間以上の研修をした人で49.3%です。次いで、日本語教育能力検定試験合格者で35.2%です。合計すると84.5%となり、学部や大学院の日本語教師養成課程修了生は現場の日本語教育機関にとって、あてになる存在とはなっていません。このことを、大学や大学院で、日本語教師になれることをうたい文句にして学生募集をしている機関や担当者はどう思っているのでしょうか。

また、日本語教育機関全体では非常勤は36.3%ですが、法務省告示機関の日本語教師等では非常勤は65.4%に上ります。プロの日本語教師と呼ばれる人が、いかに不安定な境遇にいるのがよくわかります。

参考資料2の「日本語教育関係 参考データ集」の「(参考)日本語教師の勤務形態【非常勤】」でも、法務省告示機関の日本語教師の55.9%の月給が授業回数×単価計算になっていることが出ています。これでは、継続的に日本語教師をしようとする次の世代(現代の学生は将来的に安定して収入がある職業に就く希望者が多い)から出てこなくなるでしょう。

安定した職業としての日本語教師を希望するのなら、まずはこのような基本的なデータをしっかり理解して、今後教師の待遇がどのようになっていってほしいかを考えておく必要があります。

(2)教育実習の実施機関

以前から重視されていますが、今回の有識者会議でも教育実習の重要性は認識されていて、その具体的な内容が示されています。日本語教師養成機関や大学等の学生で、所属機関外で教育実習をする場合は、実習実施機関に実習内容が実施されているかを確かめることが必要となるでしょう。

今回の有識者会議で伊東委員から教育実習担当教員と教壇実習指導者の区別についての意見がありましたが、田尻は受け入れる実習実施機関の規模に合わせて対応すればいいのではないかと考えています。この有識者会議であまり具体的に決めてしまうと、地方で教育実習を引き受けてくれる機関を探すことが難しくなるのではないかと危惧しています。

資料3の「教育実習の実施機関の指定等に係る方向性(イメージ)【たたき台】」に、具体的な内容が示されていますので、必ず読んでおいてください。

(3)指定日本語教師養成機関の基準

日本語教師養成機関のうち、「指定」を受ければ筆記試験①と養成課程の一部として実施されている教育実習が免除されますので、この「指定」を受けることは日本語教師養成機関にとって大事なことになります。

「指定」を受けるためには、審査項目をクリアーしなければなりません。資料3の「指定日本語教師養成機関の指定等に係る方向性(イメージ)【たたき台】」が出ていますので、関係者は十分に読んでおく必要があります。この審査項目は、最終的には文化審議会国語分科会日本語教育小委員会で検討されますので、現段階ではたたき台となっています。

田尻は、420時間以上の専門学校の日本語教師養成課程よりも、26単位以上の大学等の日本語教師養成課程のほうが、この基準による影響が大きいのではないかと感じています。大学では、在職教員の専門分野を前提に比較的自由にカリキュラムを組んできたという実態があるので、この基準に合致したカリキュラムを組んでいない機関がかなりあると田尻はみています。

これからは、日本語教師養成機関は、資料3の「(参考)日本語教師の養成段階における必須の教育内容」を反映させたカリキュラムを組むようにならなければいけないことになります。

4. 厚生労働省が外国人労働者の公的統計を新設

2022年10月27日の日本経済新聞に「外国人労働者の公的統計新設 厚労省 23年度から」という記事が出ています。この記事によると、厚生労働省が日本で働く外国人労働者を対象とした公的統計を2023年度に始めると明らかにしたとあります。

厚生労働省は、2021年3月19日から「外国人雇用対策の在り方に関する検討会」を開いていて、2021年6月28日に「中間取りまとめ」を公表しています。ここでは、外国人労働者の状況をより詳細に把握・分析するためのデータの必要性に言及しています。

厚生労働省委託事業として、三菱UFJリサーチ&コンサルティングから「外国人の雇用・労働に係る統計整備に関する研究会報告書」が2022年3月に出されています。この報告書の9ページでは、「日本語能力については、日本語能力検定試験(田尻注:この名称は間違い)など、客観的な試験結果による評価とするが、試験を実施したことがない場合は、試験のレベルに相当するものを尋ねる調査を行う。(田尻注:ここには「基本的には」という表現が入るとわかりやすい)事業所調査とするが、労働者に同じ質問をすることも検討する」となっていて、試験の名称を間違っていることや、日本語能力調査の実施状況の不確かさに問題を感じます。厚生労働省委託機関でさえ、日本語教育に関する知識をあまり持っていないということがわかります。

なお、総務省にも、「外国人の雇用・労働に係る統計調査の新設に関する研究会」も設けられています。厚生労働省と総務省に同種の研究会が設置されているということは、省庁間の横の連携がなされていない例であると、田尻は考えます。

5. 第16回日本語教育推進議員連盟総会が開かれた

2022年10月28日に、第16回日本語教育推進議員連盟が事務局長の里見隆治議員と事務局長代理の宮内秀樹議員の司会のもと、衆議院第2議員会館で開かれました。この総会の資料は、10月31日の日本語教育学会のHPの「学会からのお知らせ」に出ています。今まで議連の総会の資料が公開されることはなかったのですが、公開を認めた文部科学省や文化庁の方針が変わったようです。従来は公開されていなかった資料も多く公開されていますので、このウェブマガジン「未草」の読者もぜひ見ておいてください。

ここでは、田尻が重要だと思う点のみ列挙します。

新しい議連の役員は、以下のとおりです。ご所属の表記は、当日の資料のままです。

顧問 泉 健太(衆・立)、斉藤 鉄夫(衆・公)、塩谷 立(衆・自)、下村 博文(衆・自)

会長 柴山 昌彦(衆・自)

会長代行 中川 正春(衆・立)

副会長 浮島 智子(衆・公)、島尻 安伊子(衆・自)、田村 憲久(衆・自)、古川 元久(衆・国)、松原 仁(衆・立)、柳ケ瀬 裕文(参・維)、山谷 えり子(参・自)

幹事長 笠 浩史(衆・立)

副幹事長 逢坂 誠二(衆・立)、城井 栄(衆・立)、国重 徹(衆・公)田中 和徳(衆・自)、三木 圭恵(衆・維)、山下 貴司(衆・自)、吉川 元(衆・立)、片山 さつき(参・自)、谷合 正明(参・公)

幹事 青柳 陽一郎(衆・立)、伊藤 俊輔(衆・立)、大岡 敏孝(衆・自)、柿沢 未途(衆・自)、亀岡 偉民(衆・自)、源馬 謙太郎(衆・立)、笹川 博義(衆・自)、西岡 秀子(衆・国)、山崎 正恭(衆・公)、赤池 誠章(参・自)、竹内 真二(参・公)、新妻 秀規(参・公)

事務局長 里見 隆治(参・公)

事務局長代理 宮内 秀樹(衆・自)

事務局次長 金村 龍那(衆・維)、高木 啓(衆・自)、石橋 通宏(参・立)

新たに加わった議員を含めて、多くの議員が超党派の議連に参加していただきました。

もちろん、当日は関係省庁の方々も多く参加していますが、ここでは省略します。

議連の写真は、浮島議員や里見議員のFacebookで見ることができます。

当日の議事進行は、以下のとおりです。

  1. 役員体制について
  2. 政府における法案等の検討状況について
  3. 日本語教育関係施策に関する推進状況について
  4. 関係団体からの要望について
  5. 質疑応答・意見交換

これだけ多くの国会議員の方々が、日本語教育の推進や法案成立に向けて努力していただいています。

総会の資料の中で重要な資料は、総会当日「取扱注意」となっていた「日本語教育の適正かつ確実な実施を図るための日本語教育機関の認定に関する法律案(仮称)の検討状況について」です。この中には、「日本語教育の適正かつ確実な実施を図るための日本語教育機関の認定等に関する法律案(仮称)の概要」[検討中]」と「『認定日本語教育機関』及び『登録日本語教員』の活用(関係省庁との連携)[検討中]」があります。この二つの資料は、今後有識者会議で検討される内容も含んでいますので、ここでは重要性の指摘に留めます。

「日本語教育関係 参考データ集」は、これまでの日本語教育施策とその基礎資料が掲載されていますので、ぜひ読んでください。

日本語教育の未来に関心のある方は、この日本語議連の方々の活動に注目してください。日本語教育の法案が国会で成立することが、目下の最大の目標です。

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