コーヒーの「ルーティーン」
授業で教えている学生にはよく話をするのですが、私にはひとつの習慣があります。
それは、仕事帰りなどに必ずカフェや喫茶店に寄って、コーヒーを飲むこと。
テーブルの上にコーヒーを一杯置いたら、そこで仕事をしたり、原稿を書いたり、本を読んだりと、2時間ほどの作業をします。
もしかすると、カフェや喫茶店の店員さんにとっては、かなり迷惑な客かもしれません。けれどもこれが、自分が仕事をするための一連の動作になってしまっているのです。
たとえば、スポーツ選手が集中力を高めるための方法として「ルーティーン」というものがあるそうです。
森本貴義『プロフェッショナルの習慣力 トップアスリートが実践する「ルーティーン」の秘密』(ソフトバンク新書(SBクリエイティブ)、2013年)には、野球のメジャーリーグで活躍するイチロー選手が行っている「ルーティーン」について詳しく書かれています。
打者がバッターボックスに立つとき、サッカー選手がフリーキックを蹴るときなどに、毎回必ず決められた同じ動作をします。そのことで、モチベーションや集中力を高めることができるとされているのです。
この「ルーティーン」については、その効果の有無も含めて研究者のあいだで多くの議論が行われています。
一方でよく考えてみると、実は私も意識してやってきたかどうかはともかく、コーヒーを飲むときに同じことをしているようにも思います。
カフェや喫茶店には必ず右足から入り、左方向に曲がって席を確保。コーヒーをテーブルの右側に置いたら、カップの取っ手があるときはそれが右向きになるように回します。その後、5分間だけスマートフォンで業務メールのチェックをしたあとで、ノートパソコンを開きます。一度大きく深呼吸して、それ以降はコーヒーを飲みながら、必ず一時間半のあいだノートパソコンの前で仕事をします。
こうしていつも決まった動作のルールを作って、そのあいだは仕事をしなくてはいけないという自分なりのルールと関連づけていく。あるいは、いつもの同じ「ルーティーン」から、「ルーティーン」ではない作業に入っていく。
これで集中力が高まっているのかどうかはわかりませんが、たとえば中高生や大学生に勉強のやり方を聞かれたときには、まずは毎日できるだけ決まったときに、決まった時間だけ勉強するという自分なりのルールを作って習慣化することを教えています。私の場合は「コーヒーを飲む」というきっかけを作ることで、そのルールを作っているのです。
私にこの習慣ができたのは、大学生のときでした。
大学生になる前、まだ高校生だったときは、週に一回くらい喫茶店やカフェに入って、本を読んでいました。
実は甘いものが好きなのに、ブラックコーヒーを飲みながら文庫本を読んでいるのが、カッコいいと思っていたのです。中二病の症状の一種ですね。
中二病とは、中学2年生くらいの思春期に、他者から自分がどのように見られているのかという自意識が生まれるようになり、それを意識した結果として行動に表れてくるものです。
こうした中二病的な症状の延長線上にある作業を、およそ20年にわたってほとんど毎日続けています。そう考えると、けっこう中二病の症状が残っているのかもしれません。
今、こうしてカフェで原稿を書きながら周囲を見てみると(本当にカフェでこの原稿を書いています)、制服を着た高校生が勉強をしていたり、おしゃべりをしている様子が見られます。今の高校生は、私のような中二病的な症状から離れたところで、こういう場所にいることが日常になっているのでしょう。