句読法、テンマルルール わかりやすさのきほん|第7回 句読点をめぐる研究(後編)|岩崎拓也

 前回は、初めて書かれた日本語の句読点についての研究と、1950年代から1970年代までの句読点研究を10年ごとにまとめつつ、重要な論考をまとめてみました。繰り返しになりますが、これまでの研究史をまとめてみると、句読点の使われ方にどのような傾向があるのか、どう指導すればいいのかといった疑問を明らかにしようとしてきた歴史を感じられたと思います。

 今回は、前回に続いて1980年代から2010年代までの句読点研究をまとめていきます。時代が下るにつれて、句読点の研究がどのように精緻化・細分化していったのか、というところを気にしながら読むとおもしろいかもしれません

1980年代の句読点研究

 1980年代は、雑誌で特集が組まれることが多く、句読点研究が盛んになった年代と言えます。野元(1980)では、土屋(1974)の新聞広告に掲載されているキャッチフレーズに使われている句読点についての調査結果をうけ、調査対象となる新聞の期間を拡大して同様の調査を行い、結果を確認しています。その結果、土屋(1974)の指摘通り、昭和40年代後半(1970〜)から句読点が付きはじめたことを再確認したうえで、野元(1980)は、キャッチフレーズに句読点が多くなった理由として、名詞だけだと単語にすぎないが、句読点を名詞の直後につけると、文としての資格をもつことになり、キャッチフレーズとしての力が生じるためではないかと考察しています。

 中川(1980)では、句読点は、文字の一部であるが、文字以上に重要で、生きているものであるとしたうえで、小・中・高校を通しての句読法の体系的指導法の提案と問題点をまとめています。中川(1980)では、以下の(1)と(2)のように、カッコ( )がある場合の句点の扱いについても書かれており、この点において他の句読点研究よりも深く記述がされていると言えるでしょう。

  1. 文末に注釈的な( )を使ったときや、( )の中が一語句の時はとじかっこの後に句点を打つ。
    例)このことはすでに第3章で説明した(五十七ページ参照)。
  2. 二つ以上の文の総括的注釈のときや、( )の中が文のときは、とじかっこの前に句点を打つ。
    例)先月の当市の交通事故件数は、二〇件であった。死傷者二名、負傷者一五名である。(県警発表による。)       (中川 1980: 75-76)

 また、中川(1980)においては、国語科における句読法指導は、読みの指導過程、作文単元の学習、練習単元の学習の三つの機会があるとし、15の指導方法を提案しています。さらに、句読点指導の問題点を二つあげていて、1)句読点の打ち方で誤りやすいものの把握に努め、その指導に留意すること、2)中・高校に句読点指導の軽視の傾向があることを挙げ、指導者の意識の変換が必要であることを指摘しています。

 青木(1982)では、4冊の本の中で使用されている読点を観察し、必要な読点を抜き出して、それらの読点がどのような読点なのか次の8種類に分類し、まとめています。

  1. 文節を明確にすることで、どこまでが同じ文単位なのかを示すための読点
  2. 並列構造を明確にするための読点
  3. 文と文をつなぐ読点
  4. 倒置の読点
  5. 引用文の前後の読点
  6. 独立的文素(接続詞や呼びかけなどの一語発話)を区切る読点
  7. 音声を区切る読点
  8. 話の間をとる読点

 この青木(1982)は、これらの分類が全てを網羅した分類でないことを踏まえたうえで、日本語の句読法は、筆を後戻りさせないで書き進めながら読点を打てるほど便利な規則でないこと、文構造の読点とそうでない読点といった多種の読点を混ぜて1文中に使用すると読み手にやさしくないことを指摘しています。

 金子(1985)の研究では、留学生が最初に知っておくべき最低限のくぎり符号は句点と読点、中点であるとまとめています

 句点については、引用文のときの表記が一様でないこと、新聞や小説では句点ではなく文末に読点が使用される例があることを観察したうえで、一般的には文末は句点を使用するということを教えることで十分であると指摘しています。

 また、読点については、文の中の大きな切れ目、名詞の並列、名詞を規定する部分が複数個あり、後ろよりの部分の方に名詞が含まれているときに読点を打つという三つに気をつけるべきだと述べています。この三つ目の「名詞を規定する部分が複数個あり、後ろよりの部分の方に名詞が含まれているとき」というのはわかりにくいですが、簡単に言えば、以下の例文にある読点のように係り受けを明示するための読点です。

 ・四機のヘリコプターで乗りつけた、町民とほぼ同時数の報道陣。

 最後に中点については、中点でないといけない例(人名とその地位、地名、ペアを表す固有名詞、カナ書きや頭文字による姓名、外来語や外国語の固有名詞、少数点、メモ的な日時場所の表記)をあげたうえで、並列の中点については読点と置き換え可能としています。

 大内(1986)では、国語科教育における句読法の指導は、正規の作文指導に取りあげられないことを指摘しています。そのうえで、くぎり符号としての句読法は、単に表記法や語法、文法というレベルだけでなく、修辞論的・文体論的なレベルを踏まえたところで句読法という独自のレベルを考慮して考える必要があると述べています。このレベルは、もっと感覚的なレベルを想定すべきであるとし、この能力を養うためには、読みの指導の中で作者の句読法の特徴に気づかせたり、その表現上の効果を問うことなどが考えられるとしています。

 大類(1987)では、「文の長短」と「文学と作文」をそれぞれ軸とし、句読法の理論と作文教育とを論じています。文が長くて読点が多い例、文が長くて読点が少ない例、文が短くて読点が多い例、文が短くて読点が少ない例をあげ、また、ダッシュや疑問符、感嘆符の効果的な使用法について例をあげながら考察を行っています。そして、作文指導では句読点のみならず、文学の句読法としての疑問符や感嘆符の用法を教え、的確に使用できるように指導すべきだと句読法の指導について言及しています。

 渡辺(1987、1989)では、『句読法案』や句読法について言及している複数の書籍を取りあげ、読点の機能を比較・検討し、読点を15種類に分類しています。さらに、この15種類の用法を文法点・文体点・代用点の三つに大別しています。これを簡単にまとめると以下のようになります。

文法点:文の構造を明示し、読み手の誤解を防ぐために打たれる読点
 (係り受けを示すための読点など)
文体点:「リズム」表示の読点や強調を示すさいに使用される読点
代用点:分かち書きのための読点やかぎカッコの代用として示される読点

 渡辺(1987、1989)では、これらの読点が省略可能かどうか、ということにも注目しています。文法点は省略可能なものと不可能なものが存在し、省略ができない文法点は、半終止・係り受け・挿入・倒置・列挙を示す読点、省略困難な文法点は、並立の連体成分・並立の連用成分・語順変位・接続節・独立成分・主題の直後に打たれる読点であるとしています。また、文体点は自由に省略できる一方で、代用点は意味が通じなくなるため、代用点は省略できない読点であるとまとめています。

 土屋(1988)では、土屋(1974)で分析、考察したキャッチフレーズに句読点をつける用法が普及したのかどうか、再検証しています。その結果、1988年においては、キャッチフレーズに句読点をつけることが普通であり、むしろ句読点を使用しないことで広告を目立たせようとしている印象を持つほどであると述べています。また、調査時の1988年においては、句点と読点が併用されるようになったことが最大の特徴であるとし、そのほかの特徴としては、名詞の直後に句点を打つことが少なくなり、また、句点のサイズが小さくなっていることを指摘しています。

 島村(1988)では、『くぎり符号の使い方』で示されている句読法についてまとめたうえで、1980年代当時の句読点の問題点を3点示しています。1点目は、引用文・会話文と句点の問題点で、新聞などでは、閉じかぎ( 」 )の直前に句点が打たれないことが多いことを指摘しています。これは、『くぎり符号の使い方』で示されている句読法とは異なる用法です。2点目は、助詞「と」の前の読点です。『くぎり符号の使い方』では、「と」の直前に読点を打つことは認められていないが、実際にはそうでないことが多いことを指摘しています(ただし、永野(1957)においては、このような読点使用がすでにあることが報告されている)。3点目は、横書きのときの句読点で、「マル」と「テン」、「マル」と「コンマ」、「ピリオド」と「コンマ」という三つの組み合わせの表記が混在していることを指摘しています。

 これらの指摘は、今現在でも存在する問題で、これらの問題は1980年代にはすでに存在していたことが窺えます。

1990年代の句読点研究

 1990年代以降の句読点研究では、計量的な側面からの研究や日本語教育における句読点研究が多く見られるようになります。

 佐竹(1990)では、読点が打たれる位置について、その傾向のありようを考えています。読点の文構造の関連性については、「係り受けの関係」「並立の関係」「独立の関係」という三つの文の成分同士の関係を認め、次の四つの条件のいずれかを満たす場合に読点を打つことができると述べています。

  1. 直後の成分を超えてさらに後の成分にかかるとき
  2. 直後の成分と並立の関係にあり、かつ、並立助詞を伴わないとき
  3. いくつかの成分が集まってできた成分群が並立の関係にあるときで、前の成分群の最終成分であるとき
  4. 独立成分であるとき

 これらの条件において共通しているのは、全て直後の語に係らないという点です。これを佐竹(1990)では読点の基本的な性質であるとしています。

 また、読点の特殊な機能として、分かち書きで使用される読点と引用を受ける「と」の前後で使用される読点をあげています。この「と」の読点は、原則から外れてはいるものの、引用部分をひとまとまりにして示すという、いわばかぎカッコと同じ機能であるとしています。とはいえ、いずれの機能も文のまとまりと切れ目を示すという点では共通しており、読点の基本的な機能は、構文的・意味的な区切れ目をはっきりさせて、文のまとまり部分を示すことであると述べています。

 岩田(1991)では、『くぎり符号の使い方』と1948年に総理庁・文部省が発行した「公文用語の手びき」、1983年に朝日新聞社が発行した「朝日新聞の用語手引」の3種類を比較・検討しています。そのなかで、もっともわかりにくいと指摘しているのが、叙述の主題を示す「は」「も」などの後の読点についてです。「公文用語の手びき」では、「は」の後の読点は必須のように書かれていますが、実際には不要な場合もあるためにわかりにくいと指摘しています。一方で、『くぎり符号の使い方』では、まず全部に読点を打って、それから適当に省くという方法が書かれていますが、この決め方はわかりにくく、「朝日新聞の用語手引」のように句や文が短いときは読点を省いてもいいという例外規定のほうがわかりやすいとしています。

 日本語学者として有名な寺村秀夫の『日本語のシンタクスと意味』にも読点にかんする記述があります。寺村(1991)では、読点を名詞の並立的結合において(つまり名詞をいくつか並べるとき)、助詞を用いるよりもっと簡単につなぐ方法として、読点を打つ方法を紹介しています。ただし、読点による名詞の並べたては、網羅的なものか一部例示的なものかはっきりしないと指摘しています。ただし、実際には「など」のような副助詞がある場合はその文で使用されている読点は一部例示であるため、「や」と入れ替えが可能であることがわかります。また、述語同士の結合においても、述語の言い切りの形が読点で並立的に繋がれる場合があると指摘しています。

 金・樺島・村上(1993)では、自然言語処理や計量的研究という視点から句読点を取り扱い、文学作品の筆者の統計的判別や文章の分類をする試みが行われています。その結果、係り受けと読点との関係からいえば、係り受けの距離が4以上であると、読点が打たれやすいとしています。この研究では、短編小説と科学技術論文について計量的な視点から分析を行っています。具体的には、読点とその1字前の文字との組み合わせの頻度をもとにクラスター分析、主成分分析、判別分析を行い、著者別の分類を試みています。その結果、いずれも正しく判別されており、筆者により読点の打ち方には安定した癖があることを指摘しています。

 金(1994)では、文章の分類の立場から読点の前の文字、読点の前の品詞、読点を打つ間隔にかんする情報の有効性について3名の小説家の21編の文章をもとに比較・分析を行っています。その結果、読点が打たれる一文字前の分布を計算しただけでも同一筆者内と異なる筆者間とではその距離に差があるとし、読点前の文字にかんする情報には筆者の特徴があると考えられることを示しています。また、金(1994)では、どの品詞の後に読点を打つかにかんしても分析しています。もっとも読点が打たれやすい品詞は、助詞であることを指摘した上で、助詞にかんしても筆者の特徴が現れているとまとめています。そのうえで、どの品詞の後に読点を打つかどうかという情報よりもどの字の後に打つかという情報の方がより筆者の特徴を含んでいるとまとめています。また、読点を打つ間隔については、上述した二つの情報ほど筆者の特徴が含まれていないと指摘しています。

 中国人学習者を扱った北村(1995)では、日本語と中国語で書かれた作文の比較検討を通して、日本語の「文」と中国語の「句子」とは概念が異なることを示しています。特に、いくつかの文を一つにするときに、述語の形を変えず、言いきりの形で「、」で接続することがあることを指摘しています。また、中国語では、関係を明示する必要がない場合、コンマだけでさまざまな関係を表すことができるため、日本語で書く場合でも言いきりの形や、て形を用いることが多いと述べています。さらに、中国人学習者は接続詞と接続助詞の違いがわからず、重複して使用することがあることも指摘しています。

 大類(1998)では、句読点の一応の規則(『句読法案』と『くぎり符号の使い方』)が時系列的にどのように変化してきたのかをまとめたうえで、私案を提言しています。句法については、かぎカッコやカッコで囲まれる文の終わりに打つことを原則とする点と、言い残しや余剰・余韻のテンテン(…や……)は、直後に改行すれば句点の直後に打ってもよい(「。…」)という点が独創的です。また、読法においては、接続助詞「て」「ど」「ども」「けれども」「が」などの後に打つことや、ものごとを並列するさいに用いる助詞の「たり」「と」「も」「や」「とか」の後に打つことを追加することで『句読法案』や『くぎり符号の使い方』よりも具体的に例示しています。

2000年代の句読点研究

 2000年代以降になると、句読点研究がかなり細分化されてきます。

 内山(2000)では、デジタル環境が文章表現に及ぼす影響について、句読点を取りあげて考察を行っています。読点は、「文構造が生起確率を定め、確率に対するその現れを一定の水準で決定するところに書き手の個性が見いだされる」ものであると指摘したうえで、句読点(法)は「書き手の個性が反映し(書くときのリズム)、句読法はわかりやすさに奉仕するというよりは、読み手の読み方に障碍を設ける実践的な技術(効果)である(読むときのリズム)」(内山2000: 69)とまとめています。ワープロが直接文章やスタイルを変えることはないが、手書きからデジタルへと環境が変わることで句読法が変化する可能性を持つことを示唆しています。

 佐藤(2000)では、日本語教育の観点を踏まえ、従来の日本語学で言われていた句読点の規則を再検討することを通して、その規則を以下のように整理しています。

「構文上のテンとして」
 ・ 頭の接続語のあとに打つ。
 ・ 文の中止を示すために打つ。
 ・ 限定・条件を示すために打つ。
 ※以上のテンは、文が短かったり単純だったりして意味が明らかな場合は打たなくてもいい。

「語句の並列を示すテンとして」
 ・並列する語句を示すために打つ。
※中テン、括弧など、他の符号を用いる方法もある。

「読み誤りを防ぐテンとして」
 ・語句の意味的まとまりを示し、語句と語句の関係を分かりやすくするために打つ。
※これは一続きの語句のくぎりを示すためのもので、引用文、文の倒置、挿入句などを他の部分と区別する。
                      (佐藤(2000)より一部修正)

 この規則をあげたうえで佐藤(2000)は「テンの位置については、依然として確たる規則を持つには至っていない」と読点の規則の難しさを述べています。

 水野(2000)では、中国語と日本語における「句読点」の対比を、中国での基準である《標点符号用法》と『くぎり符号の使い方』にもとづき、それぞれの使いわけを考察しています。その結果、中国語の句読点は日本語よりもその種類が多く、使用範囲も広範囲に及んでいることを指摘しています。また、それぞれに異なる規範があるため、正しく学ぶ必要性があることを説いています。特に、中国語の場合は、文の意味と形式の完成度を基準にして考える一方で、日本語は、主に文の構造の完成度を基準にして考えるため、この点に留意する必要があると指摘しています。

 戦(2002)においても水野(2000)と同様に日本語と中国語の句読点の比較を行っています。中国語における句読点の役割は日本語よりも制限が厳しく、それぞれ読点「、」とコンマ「、」では違う役割を担っていると述べており、読点は「事柄の列挙をしたり、文中で並列する単語やフレーズ間のポーズを示し」(戦2002: 71)たりするのに用いられ、コンマは「文を一時中止する」(戦2002: 71)のに用いられるとしています。

 石黒(2004)は、意味論的視点から日本語母語話者173名に読点のない文章を渡して読点を打ってもらうという調査を行っています。そして、読点を打つポイントを考えるさいの見方として、「長さ派」「意味派」「分かち書き派」「構造派」の四つをあげています。「長さ派」は、1文の長さを考えながら読点を打つもので、その中には「息つぎ」や「テンポ」「リズム」という感覚的な基準も含まれています。「意味派」は、読点の打ち方によって二つの意味に解釈できるものであり、実際には論理的な意味内容に関わるものである。「分かち書き派」は、漢字の熟語や平仮名が連続しており、読みにくい場合に読点を打つというものです。最後の「構造派」は、文を文法的に、論理的に考えて読点を打つタイプです。石黒(2004)で特に代表的な読点の打ち方としてあげられているものは、主語の後に読点を打つ、副詞節のあとに読点を打つというものです。これは主語と述語の係り受けの関係や文内部の構造を明示するために使用されるものとかんがえることができます。構造派の視点で考察した場合は、「かかりうけ明示の読点」と「構造明示の読点」が重要な役割を果たすとしており、形態面からは連用中止、接続助詞「が」の後、同じ助詞が続くときの先に来る助詞の後には読点が打たれやすいことを指摘しています。

 小林(2004、2005)では、初級における読点の使い方と文型別に読点の関係を考察しています。小林(2004)では初級の日本語教科書の分析を行っており、共通して見られた五つの傾向をまとめています。一つ目は、重文を形成する「が」「し」「で」「か」の直後では読点が使用される一方、引用句を受けて複文を構成する「と(思う)」「か(わからない)」の直後は読点が使われにくい点、二つ目は、接続詞の直後は、読点が使用される傾向(特に逆接の接続詞)が認められる点、三つ目は、時間的・内容的に独立度が高い二つの節を接続する場合は読点が使用される傾向が強く、付帯状況や従属的な条件を表す表現(「ながら」「まで」「までに」など)では読点が使用される傾向が弱い点、四つ目は、同じ接続語でも、前節する語句がより複雑なものほど読点が打たれる傾向にある点、五つ目は、条件節(「たら」「ば」「な」「と」)は教科書ごとに差が若干見られたものの、直後に読点を打つ傾向が強く、因果関係を表す「から」「ので」「のに」は全ての教科書で読点が打たれていた点です。小林(2004)が調査を行った初級の教科書では、ほとんどが会話文(話しことば)であるため、影響がないという指摘はあるかもしれませんが、最初に学習者が触れる読点が教科書により異なるという指摘は、当然、学習者にとっていいとは言えないのはないでしょうか。

 小林(2005)では、複数の意味や接続の形がある「ために」と「によって」を例にあげて読点との関係を調べています。その結果、これらの文型は基本的に読点が付くが、文型の意味などの内的要因や、より上位の構文との外的要因により読点が付かない場合もあり、「この文型には読点が必ず伴う」と一概には言えないことを指摘しています。

2010年以降の句読点研究

 石黒(2011)では、読点は、書き手によって打つ場所にかなりばらつきが存在し、①意味、②長さ、③構造、④表記、⑤音調、⑥リズム、⑦強調などの要因が複雑に絡みあって打たれるものであると述べられています。その中でも、誰もが読点を打つ箇所には、①意味、②長さ、③構造が関わっており、人により異なる箇所は、④表記、⑤音調、⑥リズムが関わっているとされています。また、一部の人が打つ読点として、⑦強調をあげています。

 句点については、基本的に迷う点はないとしながらも、文の独立性によっては迷うところがあるとし、次の五つを挙げている。①終止形で終わり、指示語で受けなおす文、②「〜すること」で終わる文、③終止形とも連体形とも取れる文、④疑問の終助詞「か」で終わり、引用動詞に続く文、⑤引用助詞「と」の直前で、閉じカギで終わる文、という五つが句点なのか、読点なのか迷う場合があるとしています。特に、⑤の場合、「句点を入れるのが標準的な表記だが、小説などを中心に実際には省かれることが多い」(石黒2011: 302)と指摘しています。

 宮嵜(2012)は新聞の折込広告のキャッチコピーで使用される句読点を調査しており、句読点の使用があるもの(特に読点があるもの)には「物語性」、句読点がないものには「現実性」があり、句読点には広告の印象操作に役立つ効果があるとしています。

 森本(2012)では、小・中学校教科書における句読点が国語科では縦書きで点(、)を使用し、他の教科の教科書ではカンマ(,)が使用されることが多いとしています。小・中学校の国語教科書を中心に、横書き読点の実態を調べたところ、小学校ではカンマが圧倒的主流であり、中学校でも横書きの場合には点とカンマの比率が半々であったと二重混在状況を報告しています。さらに、小・中学校教員にアンケートを行った結果、カンマが使用されていることについては違和感がないとしながら、国語の読点としては、たとえ横書きであっても点(、)の使用がふさわしいと感じていることを調査から明らかにしています。

 板倉(2012)は大正・昭和時期の新聞記事では句読点が打たれている記事や打たれていない記事が混在しているという先行研究の結果を踏まえ、どのような条件下において記事に句読点を打っていたのか、ページごとに句読点を打つ割合を算出し、読者や内容による違いが存在するかどうかを調査しています。調査の結果、書き手がインテリであることが記事や小説内で句読点を打たれる条件であったとしています。また、社説とコラムにおいては、句読点が使われていたことも指摘しています。さらに、政治や経済などの硬い記事でなく、社会や文化など柔らかく親しみやすい記事、口語文、くだけた文章の場合に読点が打たれることが多かったと報告しています。

 森山(2013)では、句読点と補助符号の表現効果についてまとめています。小説で使用される会話文の応答詞の直後の読点の有無を取りあげ、句読点の有無の選択は恣意的なものではなく、話の内容におうじての使いわけがありそうだと指摘しています。また、句点か読点かという違いについては、速さや声の表情など、発話のパラ言語的側面を表現する一つの手がかりとして無視できないとしています。また、森山(2013)では、文末の補助符号「!」「?」「……」などと句点とで、どのような音声的な特徴が関わるかを実際に実験しています。ある文を指定した発音で読んでもらい、被験者はその音声を聞き、どの表記で示すのかと言う実験内容です。その結果、句点は「中立的に(上昇や長さの調整なしに)音読」する発音で最も多く使用されることを報告し、情意に関わる音声上の特性と補助符号の使用の関連について一定程度のつながりがあることを指摘しています。

 新国・邑本(2014)は、日本語の文の読みにおける読点の役割について、実験を行い、その結果をまとめています。実験は、形容詞の直後に読点を打たれることでその文が解釈しにくくなる例を取りあげ、このような場合とそうでない場合とで読み時間にどのくらい反映されるかを調査しています。統計的な有意差は確認されなかったものの、読点が促進と妨害の両面で読みに影響を与えていることを示唆しています。

まとめ

 以上、2回にわたって句読点の研究史を概観してきましたが、いかがでしたでしょうか。たかが句読点といえども、このように研究者がさまざまな角度から積み上げてきた歴史があることがわかったかと思います。これをきっかけに、これから句読点を研究してみたいと思う人が増えたらうれしいのですが……。今回の連載では50本弱の研究を取りあげましたが、実際にはこの約4倍の量の句読点研究が存在します。気になった方は、私がまとめている句読点研究文献データベース(https://iwsktky.wixsite.com/home/punctuationmarkdb)にアクセスして調べてみてはいかがでしょうか(最近更新が滞っているので頑張ります)。

参考文献

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  • 石黒圭(2004)『よくわかる文章表現の技術Ⅰ 表現・表記編』明治書院
  • 石黒圭(2011)「14 句読点のルール」中村明・佐久間まゆみ・髙崎みどり・十重田裕一・半沢幹一・宗像和重(編)『日本語文章・文体・表現事典』pp.301-304,朝倉書店
  • 板倉明寿香(2012)「大正・昭和前期の新聞の句読点―句読点に対する意識と使い分け―」『近畿大学日本語・日本文学』14,pp.37-58,近畿大学文芸学部
  • 岩田和男(1991)「句読点(特に読点)について」『日本語教育研究』25,pp.37-52,言語文化研究所
  • 内山和也(2000)「特集;日本語教育と表現学――e-textにおける句読点に関する一考察」『表現研究』72,pp.66-71,表現学会
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  • 大類雅敏(1987)「特集・句読点――句読法の理論 作文教育と関連して」『表記』02,pp.8-38,日本語表記研究会
  • 大類雅敏(1998)「小特集;句読点――句点と読点」『表記』17,pp.37-53,日本語表記研究会
  • 金子尚一(1985)「特集・日本語 国際化社会への飛翔――現代日本語の表記 クギリ符号――留学生のために。特に,読点・句点・ナカ点について」『国文学 解釈と鑑賞』50-3,pp.88-99,至文堂
  • 北村よう(1995)「中国語話者の作文における文接続の問題点」『東海大学紀要 留学生教育センター』15,pp.1-11,東海大学留学生教育センター
  • 金明哲・樺島忠夫・村上征勝(1993)「読点と書き手の個性」『計量国語学』18-8,pp.382-391,計量国語学会
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  • 佐藤政光(2000)「日本語の読点について 規則の再検討」『明治大学教養論集』331,pp.1-18,明治大学教養論集刊行会
  • 島村直己(1988)「特集・ワードプロセッサー〈4 ワープロのための日本語学〉――句読点の打ち方」『日本語学』7-12,pp.159-162,明治書院
  • 戦慶勝(2002)「中日両語における句読点の照らし合わせ」『国際文化学部論集』3-2,pp.69-77,鹿児島国際大学国際文化学部
  • 寺村秀夫(1991)『日本語のシンタクスと意味 第3巻』くろしお出版
  • 土屋信一(1974)「新聞広告の句読点―キャッチフレーズを中心に調べる―」『言語生活』277,pp.61-67,筑摩書房
  • 土屋信一(1988)「特集・広告のことば――広告の、句点と読点。」『日本語学』7-4,pp.20-26,明治書院
  • 永野賢(1957)「句とう点のうち方」『言語生活』3,pp.62-66,筑摩書房
  • 新国佳祐・邑本俊亮(2014)「日本語文の読みにおける読点の役割(教授・学習・認知,ポスター発表G)」『日本教育心理学会総会発表論文集』56,p.811,日本教育心理学会
  • 野元菊雄(1980)「ことばと広告⑨ 左横書き・句読点」『広告月報』245,pp.50-51,朝日新聞社
  • 中川健次郎(1980)「句読法の指導―小・中・高校を通して―」『国語教育研究』26下,pp.73-83,広島大学教育学部
  • 水野麗子(2000)「中国語と日本語における「句読点」の対比」『明治学院大学外国語教育研究所紀要』10,pp.81-97,明治学院大学外国語教育研究所
  • 宮嵜由美(2012)「新聞折込広告のキャッチコピーにおける句読点使用について―都内2地点の新築分譲マンション広告の比較から―」『専修人文論集』90,pp.273-288,専修大学学会
  • 森本孝(2012)「横書き句切り符号の混在状況に内在する問題」『学校教育学研究』24,pp.99-108,兵庫教育大学学校教育研究センター
  • 森山卓郎(2013)「句読点,補助符号とその表現効果」『日本語学』32-5,pp.132-143,明治書院
  • 渡辺昌之(1987)「読点(文法点・文体点・代用点)について(上)」『立正大学国語国文』23,pp.9-19,立正大学
  • 渡辺昌之(1989)「読点(文法点・文体点・代用点)について(下)」『立正大学国語国文』25,pp.1-14,立正大学

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