これからの英語教育の話を続けよう|第1回 「無資格指導」はやめよう:「ネイティブ」、イコール語学教師ではない。|藤原康弘

 

「無資格検査」と「無資格指導」

 

2017年秋、一部の自動車メーカーの「無資格検査」がニュースになりました。新車の最終検査を無資格者がおこない、書類には有資格者のハンコを押していたそうです。ただ新車の検査をする知識や技能は基本的なもので、無資格者と有資格者の差はなく、そのため形骸化していたといわれています。しかしルール違反はルール違反。関連する自動車メーカーは本稿の執筆時も対応に追われています。

ここでみなさん、「実は英語教育では「無資格」のものによる指導が行われています。しかも30年も続いており常態化しています」と言えば驚かれるでしょうか。さらに、こちらのケースは指導の知識や技術がないにもかかわらず、です。この「無資格指導」、嘘のようですが本当の話です。今回は英語教育の「無資格指導」についてお話しいたします。

 

英語教育における「無資格指導」

 

まず英語教育における「無資格」を定義しておきます。ここで「無資格者」は、1)教員免許などの教職資格や2)語学教師の資格をもっていないもの、また3)語学教育のトレーニングを受けていないものとします。

そうしますと、いわゆる“Assistant Language Teacher”(ALT:外国語指導助手)の大多数は無資格です。出身国の教員免許もTESOL等の語学教師の資格ももっていません。また教育委員会やALT派遣業者による講習を受けますが、正規の教員トレーニングと比べると、本当にわずかなものです。たとえば後述する代表的な国のALTプログラムの講習は最大でたったの5日間です。

また恐縮ながら、ほとんどの小学校の先生も、教員免許はありますが、養成時も研修時も実質的な英語教育のトレーニングを受けていません。今、突貫工事で中学校英語二種免許の講習を設けて、小学校の先生向けに実施しています。しかし受講者は、全体の1パーセントにも満たないのが現状です。それゆえ大多数の先生方が、英語教育においては「無資格」といってよいでしょう。このALTと小学校教員による「無資格指導」は2020年の小学校英語の教科化にともない、さらに拡大することが予想されます。

小学校の先生方がほぼトレーニングを受けていないまま、英語の授業を担当せざるを得ない。この状況は早急に改善されることが望まれます。詳細は『これからの英語教育の話をしよう』(ひつじ書房, 2017)の寺沢さんの章や座談会の内容をご覧いただければ幸いです。今回は私の章でふれた無資格ALTについて掘り下げます。

まずポイントを明確にしておきます。ここで私は無資格のALTの方々を非難する気はありません。自分や家族の生活のために、さまざまな機会や制度を利用することは理解できます。私が問題視しているのは「ネイティブ信仰」に基づき無資格ALTを教壇に立たせる制度自体です。基本的な主張を下記にまとめます。

ネイティブ、ノン・ネイティブにかかわらず言語教師としての知識、技能、意欲は必要である。

⇒したがって無資格者(アマ)と有資格者(プロ)を選別する必要がある。

なお無資格ALTを大量雇用してきた制度は、後述しますが「アシスタント(assistant)」から「教諭(teacher)」、すなわち「専任教員」に昇格させるステージにはいりつつあります。この変化は間違いなく英語教師、ひいては教職のプロフェッショナリズムを著しく下げます。読者のみなさまにもぜひ一度お考えいただけると嬉しいです。

 

意外に知られていない英語教育

 

さて、最近、さまざまな年代のさまざまな業種の方々とお話しさせていただく機会が増えました。そのお話しの中で、英語教育は話題にされる割に、詳しいことは知られていないことがよくわかりました。TOEFLが「英会話」の試験と思われていたり、今でも中高は文法訳読一辺倒で、教員養成課程でも文法訳読式の指導法をせっせと伝授していると思われていたりします。これらははっきりいって、誤解です。その度に「私の知る限り、そんなことはありません」と言っています。

その中でもよく耳にし、驚いたものが、いわゆる「ネイティブは英語について何でも知っている」とか「ネイティブのALTはプロの語学教師」などです。中には「日本人の英語教師は使いものにならない。全員ネイティブにしよう」という意見も聞いたことがあります。巷の英会話学校や英語学習本が「ネイティブ英会話講師」や「ネイティブだけが知っている」を連呼しているからでしょう。いわゆる「ネイティブ信仰」です。さて、これらの意見は正しいでしょうか。

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