第18回  EPA看護師・介護福祉士国家試験に日本語教育関係者は興味がないのか|田尻英三

★この記事は、2020年12月22日までの情報を基に書いています。

第2回目の「日本語教師の資格に関する調査研究協力者会議」は、やっと2021年1月に開かれることになり、目下日程調整をしています。

1. 日本人の看護師・介護福祉士国家試験の国家試験

日本人の看護師・介護福祉士国家試験については、2020年11月19日〜20日の厚労省医道審議会医師分科会・歯科医師分科会・保健婦助産婦看護師分科会で討議され、その結果が11月30日の医政局試験免許室から発表されました。
それによりますと、検温で37.5度以上の者で、医師の診察により新型コロナウイルス感染症の診断がされた場合は受験を認めないことや、「試験当日の体調不良等により受験できなかった者については、これまでと同様に追加試験は行わない」となっています。追試を行わない理由は、専門性が高く簡単に試験問題を作成することは困難だからということです。この結果、2021年1月の歯科医師国家試験・介護福祉士国家試験、2月の保健師・助産師・看護師国家試験も同様の扱いとなりました。
これに対して一部のマスコミが、医療従事者が足りないなか、コロナで受験資格がなくなり、その後の追試もないのはおかしいと報じました。留学生の受験生の当日の体調管理を心配する声も聞かれましたが、留学生についてはもっと大きな問題があることは、報じていません。

2. EPA看護師・介護福祉士国家試験


EPA看護師については、12月4日に厚労省医政局看護課長名で「『第110回看護師国家試験における経済連携協定(EPA)に基づく外国人看護師候補者の受験手続きについて』の一部改正について」が発出されました。宛先は「各経済連携協定(EPA)に基づく外国人看護師候補者受入れ施設施設長殿」となっています。
全く同じ内容を厚労省医政局看護課長が公益社団法人国際厚生事業団理事長宛と株式会社アークアカデミー代表取締役宛に出されています。この連絡では、新型コロナウイルス感染症に罹患し、入院中・宿泊療養中・自宅療養中の受験者は、受験を認めないことになっています。濃厚接触者は条件を満たしている場合は別室で受験となります。ただし、当日会場で37.5度以上発熱した場合には、迅速抗原検査を実施し、陽性反応が出た場合はオンラインで医師が診察を行い、新型コロナウイルス感染症の診断がされた場合は受験を認めないことも決まっています。
※として、37.5度以上の発熱がない場合においても、咳等の症状を認めた受験者は同様の取り扱いをする、となっています。このままでは、受験者は当日会場に行くまでは体調次第では受験できるかどうかわからないことになり、また今後追試もないということになります。
これらの情報については、厚労省のHPにある「令和2年度厚生労働省所管医療関係職種国家試験における新型コロナウイルス感染症対策について」で見ることができます。注意すべき点では、この「令和2年度医療関係国家試験」の中には、介護福祉士は入っていません。介護福祉士については、公益財団法人社会福祉施設振興試験センターが扱っていて、そのHPに「国家試験に係る新型コロナウイルス感染症の感染防止対策について」が掲載されています。介護福祉士が厚労省の国家試験の一覧表に入っていないのは、特に意味がないと聞きました。
このウェブマガジン「未草」の読者の中には田尻の記述が細かな点まで書かれているとお感じになる方もいるかとは思いますが、各省庁から発出される情報はわかりにくいものとなっています。そのため、田尻が情報の根拠としたサイトはできるだけ詳しくお伝えするようにしています。

3. EPA看護師・介護福祉士国家試験を受験できなくなった留学生のビザはどうなるのか


以上のような新型コロナウイルス感染症対策で、2021年1月31日の介護福祉士国家試験と2月14日の看護師国家試験を受験できなくなった留学生で、今年度が国家試験受験の最終年度である留学生のビザはどうなるのでしょうか。このままでは、受験機会がなくなり、帰国しなければならなくなります。この原稿を書いている時点では、この転についての出入国在留管理庁や厚労省医政局からの対応は示されていません。
EPA看護師・介護福祉士国家試験に関わっている日本語教師は、自分の担当している留学生のこの状況に何も疑問を感じていないのでしょうか。私は、コロナ禍における留学生への救済策として1年間のビザの延長を認めるべきだと考えています。この際この問題について、看護師・介護福祉士国家試験に関わっている日本語教育関係者が行動を起こすことを強く求めます。
なお、2020年11月10日の第23回出入国管理政策懇談会では、「出入国在留管理における新型コロナウイルス感染症への対応について」がまとめられています。
また、間もなく「第7次出入国管理政策懇談会報告書」や「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策(令和2年度改訂)の進捗状況」も公表されますので、ぜひご参考にしてください。念のために言えば、この二つの資料でもEPA看護師・介護福祉士国家試験のビザの問題は扱われていません。

4. 学校教育での外国人児童生徒への対応について


上記の問題の他にも、学校教育現場に関する大事な情報が出ています。
2020年10月7日の文科省中央教育審議会初等中等教育分科会が、「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して(中間まとめ)」を出しています。その中には、「5.増加する外国人児童生徒への教育の在り方について」で日本語指導についての言及があり、「(3)教師等の指導力の向上、支援環境の改善」として、各地の教師等の研修機会の充実や「大学等における履修証明などにより、日本語指導担当教師が専門知識を習得し、それを証明できる仕組みの構築について検討を行う必要がある」や、高等学校の外国人生徒等への指導として「『特別の教育課程』の適用を含め、取出し方式による日本語指導の方法や制度的な在り方、高等学校版JSLカリキュラムの策定について、検討を進めるべきである」という注目すべき記述もあります。つまり、高校での日本語教育が初めて学校教育の対象として認められたということです。すでに2020年3月27日の「外国人児童生徒等の教育の充実に関する有識者会議」による「外国人児童生徒等の教育の充実について(報告)」に同様の記述があります。

5.2021年度の概算要求


概算要求とは、来年度予算を決める際のたたき台のようなものです。この内容を財務省との検討を経て、来年度予算が決まります。来年度はコロナ禍のせいで、予算は早めに決まると思います。概算要求の段階で予算の増額などが図られていない場合は、来年度の予算の増額もないということです。

文科省の概算要求では、「外国人材の受入れ拡大に対応し、共生社会の実現を図るため、日本語教育・外国人児童生徒等への教育を充実」として計28憶円が計上されています。
文化庁の概算要求では、「生活者としての外国人に対する日本語教育の推進」として14憶4800万円が計上されています。
国交省の来年度概算要求として68億円計上されている「建設業、運輸業、海運・造船業、宿泊・観光業における人材確保・育成」の中に、「外国人の活躍促進等の働き方改革等を官民一体で推進する」という項目があります。
農水省の概算要求では、「家族農業経営、法人経営等の担い手の確保と経営継承の促進」の項目の中に「外国人材受入総合支援事業」として4憶円が計上されています。
厚労省の概算要求では、「外国人患者の受入環境の整備」として12憶円や、「ウイズ・ポストコロナ時代の雇用就業機会の確保」の「外国人に対する支援」として123憶円が計上されています。
法務省の概算要求では、「『ウィズコロナ』における出入国在留管理体制の強化及び外国人材の円滑かつ適正な受入れの促進に向けた取組」として272憶3700万円が計上されています。

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