今回の獲物
だんだん寒くなって参りましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか。
月に一度、巷で見かけてハントしてきたオノマトペをご紹介する「おのはん!」の第2回です。オノマトペは触覚に関する表現が得意ですので、冷たい風に「ぞわぞわ」「ゾクッ」としたり、家に帰って「ぽかぽか」「じんわり」したりすることが多くなるかと思います。そんな中から…ではなく、今日のお題は一部で話題の「ある辞書」からハントしてきました。
辞書ブーム?
私もあまり詳しくはないのですが、ここ数年、辞書ブームが巻き起こっているそうです。発端は、アニメ化もされて大人気の小説作品『舟を編む』(著:三浦しをん)だと思います。辞書を編集することへのこだわりやロマンが描かれた、素敵なお話です。その後、辞書の編集者や辞書マニアたちが、辞書の魅力や楽しみ方を発信してくれるようになり、辞書に関するイベントまで開催されるようになりました。
そんな辞書ブームの最中、広辞苑が第七版を出版することになり、大きな話題になりました。どのような変更が加えられるのか、新しい側面は何か、など気になる点は多いですが、「どのような語が新たに収録されるのか」が一番の注目どころと言えそうです。そして、我々(?)オノマトペハンターとしては、新しく収録されるオノマトペに注目したいところです。ただ、全ての新収録語はまだ開示されていない状態ですので、特設サイトに挙げられている例の中から、ハントしてきました。
今回のオノマトペ「がっつり」
特設サイトに挙げられている新収録オノマトペは「がっつり」と「いらっと」の2点でした。このうち、「いらっと」はちょっと物議を醸しそうな形態ですので、今回は一旦置いておきます。残る「がっつり」に注目してみましょう。広辞苑ほど大きな辞書が(これまで収録してこなかったにも関わらず)このタイミングで「がっつり」を収録するということは、ここ最近「がっつり」が多く、そして継続して使われるようになったと言えるのかもしれません。これはオノマトペ研究者としては大変喜ばしいことです。おめでとう「がっつり」!これからも「がっつり」ががっつり使われますように!
さて、「がっつり」って?
それでは、「がっつり」ってどういう意味なのでしょうか?今まで広辞苑になかったとは言え、われらがオノマトペ辞書(小野, 2007)には必ずあるはずです。というわけでまず引いてみましょう。
「がっつり」
1) 体力や気持ちが急激に弱まるさま。がっくり。
2) 万全の態勢をとるさま。
3) [方言]過不足なく適合するさま。九州地方・沖縄県。
なるほど、いろいろな意味があるようです。1番の意味合いは「がっくり」が別のオノマトペとしてある分、あまり使われない印象があります。また、3番は方言オノマトペとして挙げられていますが、用例を見る限り「ぴったり」に近い使われ方をするようです。ですので、よく使われるのは2番の「万全の態勢をとるさま」という意味になるのですが、確かにそういう気がするような、ちょっと違うような感じがします。これはもしかしたら、オノマトペの意味が少し変化しており、今の「がっつり」の意味と少し離れている可能性があります。
それでは、「がっつり」の意味を他の方法で調べてみようと思います。一つの方法としては、前回の第1回でご紹介した、少納言などの言語コーパスを調べる方法があります。コーパスの検索システムに該当する単語を検索するだけで、その単語を含む文章が抽出されます。それらの文章から、単語の意味を推測・分類することが可能です。今回も少納言で調べてみたのですが、あまり面白くなかったので没にしました。
「がっつり」の意味を「見る」
もう一つの方法は、全く学術的ではなく、ややトリッキーなテクニックです。もしかしたら、外国語があまり得意ではない方はやったことがあるかもしれません。昨今英語であれば、単語をGoogle検索すれば日本語の説明が出てきますので、それを読めば意味が分かります。しかし、少しマニアックな外国語の単語を知りたい場合、単語を検索しても説明が英語あるいはその他の言語でしか表記されておらず、結局分からない、ということがあるかと思います(あんまり無いかもしれません)。
そのような場合、Google画像検索をしてみると、その単語が使用されているwebページに載っている画像がずらっと出てきます。これらの画像は検索対象である単語と共起関係(同じページに出てくる間柄)にあるため、単語と密接な関係がある可能性があるのです。
というわけで、手っ取り早く単語の意味を知りたい場合は、「Google画像検索」を活用することができるのです。それでは、早速ですが「がっつり」あるいは「ガッツリ」をGoogle画像検索してみて下さい(どちらであってもあまり結果は変わりません。ちなみに、ひらがな・カタカナの違いについてもいずれお話したいと思っています)。なるべくお腹が空いていないタイミングで検索することをおすすめします。何が出てくると思いますか?
肉を「がっつり」食べる
いかがだったでしょうか。大量のお肉メニューが出てきたかと思います。今現在「がっつり」と言えば、このような大盛りの、多くが肉類を含む食べ物と共起することが多いようです。いわゆる「ガッツリ系メニュー」と呼ばれるものです。確かに、これらのメニューを平らげることで「万全の態勢をとる」ことができるのかもしれませんが、おそらく別のルートからこの意味が発生している可能性の方が高いと考えます。広辞苑第七版では「がっつり」はどのような説明がなされているのでしょうか。オノマトペ辞書とは違う意味が載っているのでしょうか。来年の1月が楽しみです。
参考文献
- 『擬音語・擬態語4500 日本語オノマトペ辞典』 小野正弘 (編) 2007年 小学館