古代エジプト語のヒエログリフ入門:ロゼッタストーン読解|第14回 ヒエログリフの決定符(4)|宮川創・吉野宏志・永井正勝|

前回までにガーディナー番号のカテゴリーAからNまでのヒエログリフを学びました。今回は、残りカテゴリーについて学びます。

14.1 ガーディナー番号(O~Z、Aa)

14.1.1 カテゴリーO: 建物、建物の部位など

カテゴリーOも比較的よく用いられる文字が多いものです。例えばO1は家を表す決定符、表語文字、prを表す表音文字として使われます。

表語文字としては、O1は次のように書かれます。

転写:pr

翻字:pr:Z1

慣読:per(ペル)

品詞:名詞

意味:家

 

決定符としては、以下のようなものがあります。

転写:ꜥ.t

翻字::t-O1

慣読:at(アト)

品詞:名詞

意味:部屋

 

このように、O1の文字は家や空間に関係するものをあらわしていることがほとんどです。

 

14.1.2 カテゴリーP:船と船の部位

カテゴリーPは船に関する文字です。船はナイル川の交通にとってなくてはならないものでした。

まずは簡単なものから見ていきましょう。例えば、P1は見ての通り、船を象った文字で、船に関する単語の決定符として用いられます。

転写:dp.t

翻字:d:p*t-P1

慣読:depet(デペト)

品詞:名詞

意味:船

 

また、名詞だけでなく、船に関わる動詞にも使われます。

転写:n(Ï)

翻字:n:P1

慣読:nai(ナーイ)

品詞:動詞

意味:航行する

 

P5は船の帆ですが、風に関係する言葉を表す決定符としてよく用いられます。

転写:ṯꜣw

翻字:ṯꜣ-w-P5

慣読:tjaw(チャーウ)

品詞:名詞

意味:息、風

 

転写:w

翻字:ḏ:-w-P5

慣読:djaw(ジャーウ)

品詞:名詞

意味:嵐

 

14.1.3 カテゴリーQ〜X: 家具、神殿の道具、王の装飾品、縄、手提げもの、容器、パン

カテゴリーQは、家具や墓具です。例えば箱を象ったQ5があります。以下はQ5を使った単語です。

転写:hn

翻字:h:n-Q5

慣読:hen(ヘン)

品詞:名詞

意味:箱

 

この他にも第12回で紹介した炎を表す決定符Q7もこのカテゴリーに入ります。なぜならばQ7は炎の立ち上る火鉢を象っているからです。

 

カテゴリーRは、寺院の家具、そして聖なる紋章です。神殿の旗のメトニミーで「神」をあらわす表語文字のR8 (nṯr) もこのカテゴリーに入ります。

 

カテゴリーSは王冠、ドレス、杖などです。既出の三子音文字S34 (anḫ) などがあります。

 

カテゴリーTは、snの音を表す矢の先を象った二子音文字T22 (sn) など、戦争や狩り、食肉加工の道具を象った文字群です。

 

個別の例示は割愛しますが、カテゴリーUは農具、カテゴリーVは縄、繊維、かご、カバンなど、カテゴリーWは容器、カテゴリーXはパンやケーキを象った文字がまとめられています。

 

14.1.4 カテゴリーY: 書物、ゲーム、音楽

このカテゴリーには、様々な意味の単語に用いられる、非常に重要なY1があります。これはパピルスの巻物を象った文字で、パピルスの巻物だけでなく、「言葉や魔術」などに関するもの、「真実」など抽象的な意味の名詞、「知る」などの動詞など、様々な意味の単語に用いられます。

転写:mḏꜣ.t

翻字:m-ḏꜣ-t:Y1

慣読:medjat (メジャト)

品詞:名詞

意味:パピルスの巻物

 

転写:ḥkꜣ

翻字:ḥ-k-ꜣ-Y1

慣読:heka (ヘカ)

品詞:名詞

意味:魔法

 

14.1.5 カテゴリーZ: 線、ヒエラティック由来の文字など

Zは線やヒエラティックからきた文字、幾何学の図など、これまでと異なり、カテゴリーに共通する意味的な事象ではなく、形などでまとめられています。

ここは、表語文字をあらわす文字、複数を表す文字など文法的・記号的な文字があります。

例として、過去に勉強したZ2や、縦に並べられた  Z3を見てみましょう。Z2もZ3も基本的に複数形の名詞を表す決定符です。Z2とZ3の使い分けについては、前の文字の形状に合わせた空間配置上の理由から適切な方が採用されることもあるのですが、ヒエラティック文書の場合には、空間配置上の理由ではなく、それらが使用される語の種類や環境によって、ある程度の使い分けがなされていたようです。

転写:nṯr.w

翻字:nṯr-Z3

慣読:netjeru (ネチェルー)

品詞:名詞(複数形)

意味:神々

 

また、Z7はG43とは文字種が異なるのですが、G43と同様に同様にwで転写される一子音文字です。次の節のwbnwの例で出てきますので、注意してください。

 

14.1.6 カテゴリーAa:正体不明のものなど

最後のカテゴリーAaにはこれまでのカテゴリーに入りきれなかったり、何を表しているのか不明な文字が分類されています。

Aa2 は何を表しているのかわからないサインで、Gardiner (1957:539)は「嚢胞もしくは腺?」と書いています。

転写:wbnw 

翻字:Z7-b-n:nw*Z7-Aa2

慣読:webenu (ウェべヌー)

品詞:名詞

意味:傷

 

これで、ヒエログリフの三つの要素である表音文字、表語文字、決定符を学びました。次回はヒエログリフの数字を学びます。

 

参考文献

Gardiner, Sir Alan (1957) Egyptian Grammar: Being an Introduction to the Study of Hieroglyphs. 3rd ed. Oxford: Griffith Institute, Ashmolean Museum.

永井正勝 (2013)「「モスクワ・パピルス No.120」における接尾代名詞=w の表記とその環境」『一般言語学論叢』16: 41-71.

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