第56回 日本語教育の新しい仕組みが動き始めた|田尻英三

★この記事は、2024年12月3日までの情報を基に書いています。

今回は、新しい日本語教育の仕組みの一つである日本語教育機関の認定結果・日本語教員試験出願状況・登録実践研修機関・登録日本語教員養成機関の登録結果などを中心に説明します。その他、大事な情報がいろいろと公開されていますので、スペースの許す限りお伝えします。
また、相変わらず先行研究を利用していない研究論文が公刊されていますので、この点にも触れます。

1. 日本語教育機関の認定結果

第1回目の日本語教育機関の認定結果が文部科学省の「新着情報」で公開され、日本語教育機関ポータルでは11月13日に公開されました。

▶認定日本語教育機関の認定結果https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/daigaku/toushin/attach/1420729_00017.htm

今回申請した機関は72機関で、このうち法務省告示機関は20機関と大学1校です。つまり、法務省告示機関ではない機関が51機関も申請しているということです。これは、驚くべき数字だと思っています。告示基準のチェックを受けずに経営していた日本語教育機関がかなりある、ということを示しています。長年多くの留学生を送り出してきた法務省告示機関のほとんどは今回の申請を見送っているのです。
10月31日締め切りの2回目の申請は、「留学」が46機関、そのうち法務省告示機関は16機関で大学別科等の申請はありませんでした。「就労」が2機関で、「生活」についての申請機関はありませんでした。

今回認定した22機関は、全て「留学のための課程」です。このうち、法務省告示校で認定されたのは7機関で、新規に申請して認定された機関は15機関です。不認定となったのは3機関で、審査中取り下げを行った日本語教育機関は36機関です。この数字だけ見ると、日本経済新聞の見出しのように「日本語学校、7割が『落第』」となりますが、この見出しは「初の審査で目立つ準備不足」と続くことに注意してください。ここでは、この「準備不足」について説明します。

この点でぜひとも注目してほしいのは、同時に公表された中央教育審議会生涯学習分科会日本語教育部会の部会長である浜田麻里さんの「日本語教育機関認定申請の審査結果について」です。そこでは審査の際に問題となった点が挙げられています。以下に、それを分かりやすく整理したものを列挙します。

▶中央教育審議会生涯学習分科会日本語教育部会長所見日本語教育機関認定申請の審査結果についてhttps://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/ninka/1246441_00006.htm

〇「認定日本語教育機関日本語教育課程編成のための指針」や「日本語教育の参照枠」への理解不足による内容の不十分な項目
・目的・目標の設定や授業科目の開設
・学習成果の評価方法の設定を含む日本語教育課程
・内容の整合性が見られない等による認定基準を満たしていない申請
〇認定基準に照らして、当該日本語教育機関の授業内容及び方法の改善を図るための組織的かつ計画的な研修に関する体制が確認できないもの
〇債務超過の状態であるなど日本語教育機関を経営するために必要な経済的基礎を有していないもの
〇校地・校舎が設置者の自己所有となっていないもの
審査中に取り下げた機関は、上記の点をクリアーできなかったということになります。つまり、申請機関側の申請の準備不足です。そのため、今回は、認定率の数字を評価するような状況ではありません。認定率の数字が一人歩きをして、勝手に解釈されることのないように願っています。

また、この認定を可とされた日本語教育機関でも、この認定はあくまでも出発点であり、申請された計画を確実に履行するとともに、関係法令の遵守はもとより、法の趣旨を踏まえた日本語教育機関の運営及び教育内容の一層の改善・充実を強く期待したい。そのために、認定に際して付した留意事項を中心に、認定日本語教育機関の計画履行状況について定期的な確認を行うとも書かれています。

今後認定申請を行う申請者は、認定日本語教育機関の法の趣旨を踏まえ、関係法令等への理解を深め、十分な準備を経た上で申請するように強くお願いしたいと指摘されていることを踏まえてほしいものです。
つまり、どう書類を書けば認定されるかというテクニカルな点ばかり注目するのではなく、まずは法の趣旨や「日本語教育の参照枠」への理解を深めるべきであるということが大事なのです。

同時に、文部科学省に対しては、事前相談の体制充実も求めています。

この認定結果については、11月13日に「認定日本語教育法ポータル」で情報は公開されています。

ここにも書かれているように、認定された日本語教育機関にもかなりの問題点が指摘されています。その問題点については、今後文部科学省が検証することになっているのです。したがって、この認定結果だけを見て、認定基準があいまいだという意見がSNSなどに書き込まれていますが、それは認定状況についての理解不足だと田尻は考えます。
この制度は始まったばかりです。結果に不満を言うのではなく、これから良い方向へ進めるように日本語教育関係者が努力して、より良い制度へと作り上げていく姿勢が必要だと強く感じています。
第1回目の難しい認定作業に携わった方々のご苦労に感謝したいと思います。

2. 第1回目の日本語教員試験の出願状況

11月15日の文部科学省のサイトに「令和6年度日本語教員試験出願状況についてお知らせします」という情報が出ています。

▶「令和6年度日本語教員試験出願状況についてお知らせします」https://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/2024/mext_01443.html

それによると、出願者は18,387人で、出願者の多い順で言えば、関東6,496人、近畿2,569人、中部1.175人、九州1,019人で、これは現職の日本語教師数の分布と対応しています。

資格取得ルート別で見ると、最も多いのが養成機関Cルートの5,750人です。このルートは、大学で必須の教育内容50項目に対応したと「確認」された課程修了者です。必須の教育内容50項目対応前の比較的古い時期に卒業したD-1ルートは1,574人です。大学で日本語教師養成課程を修了していても、「確認」されなかった課程修了者はこのルートではありません。自分が卒業した大学が「確認」されているかどうかを文化庁の「登録日本語教員の資格取得に係る経過措置における日本語教員養成課程等の確認について」を必ず見てください。https://www.bunka.go.jp/seisaku/kokugo_nihongo/kyoiku/pdf/94131201_01.pdf
次に多かったのは、養成機関E-2ルートの4,730人です。このルートは、2003年以降の日本語教育能力検定試験に合格した人です。2003年以前の日本語教育能力検定試験合格者のE-1ルートは1,228人です。
大学で日本語教師養成課程を修了した人の合計は7,324人で、日本語教育能力検定試験合格者の合計は5,958人であるので、現時点では大学で日本語教師養成課程を修了した現職教員のほうが日本語教員試験を多く受験していることがわかります。
比較的古く大学の日本語教師養成課程を修了して受験している人も691人います。
養成課程Fルートの受験者は281人です。
日本語教員試験の基礎試験・応用試験を受け、登録実践研修機関での実践研修を受ける試験ルートは4,133人で、かなり多いという印象を受けます。日本語教員が国家資格になったことも影響していると考えられます。

日本経済新聞によると、試験当日の運営上問題が起こったと報道されていますが、いずれも準備をしておけば避けられた問題のように思われます。

この試験の結果通知は、現在のところ12月20日とされています。
今後は、日本語教員が国家資格になることにより、経済的に安定し、将来設計が組めるようになることで日本語教員志望者が増えることを期待しています。

結果についての田尻のコメントは、次の「未草」の記事に書きます。

3. 第1回登録実践研修機関と登録日本語教員養成機関の登録結果

11月29日に「令和6年度第1回登録実践研修機関・登録日本語教員養成機関の登録結果」が公表されました。

▶登録実践研修機関・登録日本語教員養成機関の登録結果
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/daigaku/toushin/attach/1420729_00020.htm

登録実践研修機関は、38機関が申請し、2機関が申請取り下げ、2機関が継続審査で、結果的に34機関が登録されました。
登録日本語教員養成機関は、47機関が申請し、3機関が申請取り下げ、4機関が継続審査で、結果的に40機関が登録されました。こちらは、日本語教育機関の認定とは大きく異なり、登録率は85%となっています。

この結果についても、日本語教育部会長の浜田麻里さんの「登録実践研修機関・登録日本語教員養成機関の登録に関する審査結果について」が公表されています。

▶中央教育審議会生涯学習分科会日本語教育部会長所見
登録実践研修機関・登録日本語教員養成機関の登録に関する審査結果についてhttps://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/ninka/1246441_00007.htm

以下に、その要点を述べます。
審査にあたっては、日本語教育の専門家を新たに迎え、登録実践研修機関・登録日本語教員養成機関審査会を設けています。
登録に至らなかった機関においては、「特に教育課程について日本語教育の専門性を有する者が編成作業に携わり、改めて申請機関全体として共通理解を図った上で以下を確認することが求められる」と書かれていることに、田尻は驚きました。事前相談を含めた申請作業に日本語教育のことを知らない人が関わっていた機関がある、ということを言っているのだと思いました。申請がその日本語教育機関にとってどれだけ大事なことなのかを理解していないまま、申請を行っている機関があること自体に驚かされます。人文系の学部・学科を持っている大学等では、日本語教員が国家資格になったことは受験生へのアピールポイントになっていると田尻は考えていました。

以下に申請上確認しておく点を列挙します。

  • 「登録日本語教員実践研修・養成課程コアカリキュラム」を踏まえること。特に、「コアカリキュラムとはー基本的な考え方と留意点―」を理解するこ と。
  • 実践研修や養成課程の実施にあたっては、「日本語教育の参照枠(報告)」についての理解と意義付け。
  • 授業時間外に自学自習を促すことで、学び続ける素地を養うこと。
  • 登録実践研修機関が責任を持って教壇実習等に関わる体制を構築すること。

日本語教育部会としては、計画履行状況について、定期的な確認を行うこととしています。
「今後新たに申請を検討する日本語教員養成機関におかれては、改めて関係法令等を確認いただき、十分な準備を経た上で申請するよう強くお願いしたい」とわざわざ書かれている点を見ても、申請した機関が申請自体を軽く見ていて、十分な準備をしていないまま申請したことが分かります。新しい仕組みに対する申請をした機関自体の意識改革が必要です。

同一の大学で実践研修機関と日本語教員養成機関の登録を受けた大学については「実践研修の実施については、試験ルートを含む様々なニーズに出来る限り多くの登録実践研修機関が対応することの重要性に鑑み、大学として設ける科目等履修生の制度を活用すること等により、自大学の学生以外の者の新たな受け入れ又は既存の受け入れ枠をさらに拡大するよう、検討すること」という留意事項が付いています。これは、登録日本語教員になろうとする人が実践研修の単位を必要とする場合に、その大学の卒業生でなくても科目等履修生等の枠で受け入れることを検討してほしい」ということを意味しています。外国人の科目等履修生を利用するという意味ではありません。誤解されるかもしれませんので、付け加えておきます。

登録された実践研修機関や日本語教員養成機関についての田尻のコメントは、あえて控えます。

4. 日本語教育関係の2024年度補正予算

11月29日に2024年度の補正予算が公表されました。文部科学省と厚生労働省の予算に日本語教育に関わる予算がありましたので、紹介します。ただ、この補正予算は現在の政治情勢次第では修正される可能性もあることを理解しておいてください。
〇文部科学省関係補正予算(案)
https://www.mext.go.jp/content/20241129-ope_dev02-000031627_1.pdf
・認定日本語教育機関活用促進事業
補正予算額(案)は、4億円です。事業内容の説明を読んでも、田尻には具体像が浮かんできません。文部科学省の「事業概要」には、以下のように書かれています。

全体統括機関がコーディネートを行い、認定日本語教育機関を中心とした企業や自治体、大学、専門学校との連携体制を構築し、企業等からの教育投資により認定日本語教育機関がニーズに応じた質の高い教育を提供するモデルを確立。

読売新聞には、「認定校を対象に教育投資を促進する新制度を開始することとした。教育投資を受ければ教員給与を引き上げられ、優秀な人材を確保でき、質の高い授業を担保できる。オンライン授業を実施するための機器の購入や、学習者が求める日本語能力に応じたカリキュラムの開発・実施なども可能となる。」とありますが、文部科学省の資料では、そこまで読めません。
委託先は民間事業者で、規模は再委託先1機関1,000万円となっています。件数は22件程度(再委託先日本語教育機関)です。田尻は、果たして「外国人に対する日本語教育から受益する産業界等」(文部科学省資料より)が日本語教育機関に投資するかどうか現時点ではよく分かりません。
・日本語教育機関認定法ポータルの改修等業務
補正予算額(案)は、1億円です。
〇厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/wp/yosan/yosan/24hosei/dl/24hosei_20241129_01.pdf(24・25ページ)
・外国人介護人材獲得強化事業
「現地での人材確保に資する取組を行う(中略)日本語学校等に対して支援
を行う」事業で、補正予算案は2.7億円です。
・外国人介護人材定着促進事業
介護の日本語学習支援事業(民間団体等への補助)として、1.4億円計上さ
れています。

5. 気になる論文とそれに関わる著作

二子石優さんの「日本語学校の歴史的変遷とこれから―『日本語教育機関認定法』制定をめぐって―」(『東洋大学国際教育センター紀要』第2号、2024年3月)では、「日本語教育機関認定法」の成立についての田尻の論文や「未草」の記事は、相変わらず引用されていません。日本語学校については、丸山茂樹さんの論文(「日本語教育における日本語学校の位置づけ」『外国人労働者受け入れと日本語教育』所収、2017年、ひつじ書房)も引用されていません。この論文は、二子石さんの博士論文からの延長線上にあると思い、念のため博士論文も確かめましたが同様でした。博士論文の審査に当たった人も、先行研究を知らなかったということでしょう。
日本語学校の過去の経緯については、関係者に聞いて書くべきだと思っていましたが、最近それにぴったりの本が出ました。三代純平・佐藤正則編の『日本語学校物語』(2024年12月、ココ出版)です。この本は、現在も日本語教育の第一線の現場で活躍している人たち(残念ながらお二人は故人となりました)の戦ってきた歴史が書かれています。現在の日本語教育機関の置かれている状況を知るためにも、必読の本です。
二子石さんの論文を検索しているうちに、またも気になる論文を見つけました。日本語教育機関団体連絡協議会事務局の谷一郎さんの「日本語教育の適正かつ確実な実施を図るための日本語教育機関の認定等に関する法律について」(『アジアの友』第555号、2023年9月)です。その中に「コロナ禍で入国が制限されたわけですが、それでいくら日本語業界が困ってもどこの省庁にも相談する窓口がなく、結局たらい回しにされた挙句、最終的には内閣官房長官にお願いしたというようなことで、そうしたことも手伝ってようやく今回文科省所管になったという背景もございます」という記述です。この記述によると、日本語教育機関団体連絡協議会が内閣官房長官にお願いして日本語教育の所管が文科省になったと読めます。これは、間違いです。日本語教育推進法や日本語教育機関認定法の制定には、超党派の日本語教育推進議員連盟のご活躍なくしては語れません。連絡協議会の活動が無かったとは言いませんが(連絡協議会のサイトには、2022年1月に木原誠二内閣官房副長官他4人の国会議員に、2月には木原副長官に、どちらも入国制限緩和の要望を出したとあります。内閣官房長官と会ったとか、日本語教育の所管要望という記事はありません)、この間の動きを身近に見てきた田尻としては、谷さんの記述は、看過できません。谷さんは連絡協議会事務局として日本語教育議連の議員の方々とも親しく接してきたと思いますが、その谷さんがこんなことを書くということは理解できません。この谷さんの間違った説明が関係者の間で広まることのないように、強く願っています。
谷さん、ご異議がありましたら、ひつじ書房の編集部に御連絡ください。次の「未草」の記事で扱います。

6. 第21回日本語教育推進議員連盟総会

11月17日に日本語教育議連の総会が開かれました。総会資料は、以下のURLで見ることができます。
https://852cd27c-c551-4636-8de8-86767877de3c.usrfiles.com/ugd/852cd2_9f31d968081e4f28a42d330775e5b170.pdf
司会進行は事務局長の里見隆治議員、開会の挨拶は会長の柴山昌彦議員、各関係省庁の報告の後、閉会の挨拶は副会長の浮島智子議員で進められました。
今回退職なさったのは、塩谷立さん、中川正春さん、柿沢未途さん、今村雅弘さんです。今までありがとうございました。また、残念な結果に終わったのは、伊佐進一さん、上杉謙太郎さん、小田原潔さん、亀岡偉民さん、国重徹さん、下村博文さん、吉田統彦さんです。ご復活を祈っています。
この会議資料はいずれも大事なものばかりですので、必ず見ておいてください。ここでは、説明は加えません。

日本語教育議連の柴山会長から、あべ俊子文部科学大臣に「認定日本語教育機関の戦略的な活用に向けた提言」が出されました。項目だけお知らせします。

  1. 外国人の子どもに対する日本語教育等の充実
  2. 地域における日本語教育の推進をはじめとする日本語教育施策の推進
  3. 認定日本語教育機関の戦略的な活用の促進
  4. 育成就労制度の創設に対応した認定日本語教育機関の活用

※その他、この時期に触れておかなければいけない情報もありますが、すでに規定の分量を超えています。皆さんで情報収集を心がけてください。

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