第54回 大学の日本語教員養成課程の存在意義|田尻英三

★この記事は、2024年9月2日までの情報を基に書いています。

今回は、大学の日本語教員養成課程の在り方を中心的に扱います。その他、新しい外国人児童生徒のデータ、『日本語教育』掲載の論文の問題点などを扱います。テーマはバラバラですが、いずれも、日本語教育の新しい仕組みに関して現在起こっている問題です。どんどん情報が更新されていますので、遅れないようにしてください。

1. 大学の日本語教員養成課程の問題点


2024年7月31日に「登録日本語教員の資格取得に係る経過措置における日本語教員養成課程等の確認」(資料①とする)が公表されました。
https://www.bunka.go.jp/seisaku/kokugo_nihongo/kyoiku/pdf/94100201_01.pdf
この資料は、大学の日本語教員養成の流れを考える時に、結果的に過去に中心的な存在であった大学が無くなっていった過程を示した大事な資料となりました。
なお、以前は「日本語教師養成課程」という名称を使っていましたが、国家資格になってからは「日本語教員養成課程」という名称を使っていますので、ここでもその名称に従います。

ここでは、大学の養成課程と日本語教育機関の養成講座の「確認」の結果が示されています。田尻は大学の養成課程には関わってきましたが、日本語教育機関の養成講座についてはその実態を詳しく知りませんので、以下では大学の養成課程のみを扱います。現職の日本語教員は多くが日本語教育機関の養成講座の修了生ですので、その点ではこの記事は日本語教員養成全体を扱ったものではないので不十分な点があることを先に断っておきます。

この資料より前に、文化庁のサイトには「日本語教師養成を実施する大学」(資料②とする)という資料が公開されています。そこには、それぞれの大学の養成課程のカリキュラムが「必須の教育内容」に対応しているかどうかで、「対応済」と「検討中」の違いが示されています。この二つの資料を比較してみると、資料②で文化庁に届け出をしていなかった大学が資料①では養成課程を実施していたとして申請をしているのが分かります。このように、この二つの資料を比べる際には注意が必要です。以下に大学の養成課程数を示しますが、資料①と資料②が内容的には対応している訳ではなく、全ての資料が公開されている訳ではないので、田尻がここで示した数は概数であることを承知しておいてください。資料①で「確認」された大学は、経過措置のCルートかD1ルートになります。

資料①で「確認」された大学・・・211校
資料②で「対応済」と「検討中」とした大学・・・201校(「対応済」158校、「検討中」43校)
資料②の201校の中で「確認」された大学・・・188校
資料②の201校の中で「確認」されなかった大学・・・13校
資料②の「検討中」の中で「確認」されなかった大学・・・10校
資料②では「届出」をしていなかったが「確認」された大学・・・20校
「確認」申請をした大学や申請をしていない大学の総数は非公表

これらの数字から分かることを列挙します。

  • 以前文化庁に養成課程を開講していると答えた大学で今回「確認」された188の大学は、その大学のカリキュラムが「必須の教育内容」に対応した大学ということになります。
  • 以前文化庁に養成課程を「届出」していたが今回「確認」されなかった大学は、その大学のカリキュラムが「必須の教育内容」に対応していないということになります。特に「検討中」としていた43の大学の内10大学は「確認」されなかった大学となり、このグループの中で多数を占めています。
  • 今まで文化庁に養成課程を開講していると「届出」していなかったのに、今回初めて申請をして「確認」された大学は20校もあります。
  • 資料①で今回「確認」された大学の審査は、現職者救済という視点があったと聞いています。資料①で「確認」されたからといって、これからの日本語教員養成機関の登録申請の結果、登録されるとは限りません。それは、資料①に「ここに掲載されていることが(中略)登録日本語教員機関として適切性を示すものではありません」という1文があるからです。
  • 資料①・②には、1985年度以降日本語教育の主専攻・副専攻として設立された国立大学の課程がなくなっているか、コースになっていることに注目してください。

「未草」第39回に詳しく書いていますが、大事なことなので具体的に指摘しておきます。基になった資料は、鮎澤孝子さんの「4年制大学における日本語教員養成の現状」(『日本語教育の内容と方法についての調査研究 資料(7)』、国立国語研究所日本語教育センター第一研究室、1991.3)です。そこには、1985年に筑波大学に日本語教員養成を主目的とした日本語・日本文学科を設置、東京外国語大学日本語学科に日本人学生も受け入れ、琉球大学に副専攻の日本語教員養成が始まり、1986年度には大阪大学・広島大学に主専攻の日本語教員養成学科が申新設され、お茶の水女子大学・横浜国立大学に副専攻の講座が置かれ、1987年度には大阪外国語大学・愛知教育大学に主専攻の学科が置かれ、1988年度には東北大学・香川大学に副専攻、東京学芸大学に主専攻、京都教育大学に副専攻が置かれたということです。これらの内、多くの大学での日本語教員養成の課程・講座が資料①では無くなっています。資料①を見る限りでは、これらの学科・講座の存在が忘れ去られてしまいます。資料①は、そのような歴史の一コマを明らかにした資料と言えます。

この40年で、国立国語研究所の日本語教師養成の長期研修や国際交流基金の海外日本語教師養成研修が無くなったこととともに、日本語教員養成のための研究・教育の中心的な存在が無くなっているのです。それぞれの大学や機関ではそれなりの理由があったのでしょうが、全国的に見ると、大学の日本語教員養成は中心的な存在を失い、多くの私立大学で国際化の流れでの学生募集要素の一端として日本語教員養成課程が設置されていった流れがあると田尻は見ています。
大学の日本語教員養成課程担当教員の半数近くが外国人に日本語を教えた経験がなく、これらの課程の卒業生で日本語教師になったのは5%以下という実態を考えれば、果たして大学の日本語教員養成課程の存在意義はあるのでしょうか。

この「未草」の記事の読者で、お知り合いに高校で進学指導をしている教員がいらっしゃったら、ぜひ以下の注意をお伝えください。
学生から将来日本語教員になりたいと進学相談を受けた場合、志望校を選ぶ際にその大学の日本語教員養成課程がこれから登録結果の公表される大学の中に入っているかどうかを確かめてから進学指導をしてください。現在の大学のサイトの説明には信頼できないものが含まれています。

大学日本語教員養成課程研究協議会の2024年度秋季大会企画フォーラムのグループ1のテーマは「50項目を網羅したカリキュラムをどう作る?」となっていますが、そんな書類作成のテクニックを考えることでいいのでしょうか。書類上のつじつま合わせをすることよりも、どのような養成カリキュラムを作るべきなのか、そのためにどうすべきかを考えることが必要ではないでしょうか。それとも、グループ4のテーマ「登録日本語教員養成機関になるの、やめよッカナ?」のように、養成課程から撤退するのでしょうか。大変後ろ向きのテーマ設定だと感じます。

日本語教員養成については、一定期間公的な機関で専門的な研修を受けた教員と、日本語教育機関での研修を受けて日本語教員試験合格した教員の二本柱が共に必要であると田尻は考えています。このままでは、大学での日本語教員養成は先細りになっていきます。「必須の教育内容」にしっかりと対応したカリキュラムを持つ大学のみを「登録」し、明らかに不十分なカリキュラムで養成をしている大学は「登録」しないという基本的な考えで登録申請を処理することを期待します。

2. 『日本語教育』188号掲載の気になる論文

日本語教育学会の学会誌『日本語教育』188号の巻頭論文として、栗又由利子さん執筆の「外国人技能実習制度下の現状と課題―日本語教育機関の実践と当事者の語りからの考察―」が掲載されました。
この論文は「2023年度秋季大会連動企画」となっています。2023年11月25日に開催された「秋季大会一般公開プログラム」では、「外国人技能実習制度に求められる日本語教育~誰のため?何のため?~」というテーマになっています。このプログラムの趣旨は「今後とりまとめが予定されている特定技能の新制度を念頭に置きながら、技能実習生に対する日本語教育はだれが担うのか、受入れ企業や地域でできる日本語学習支援はどうあるべきかについて考えたいと思います」となっています。
プログラムは、きぼう国際外語学院日本語教育事業部主任講師の栗又さんの「技能実習生入国後講習の意義」、岩手地域日本語教育コーディネーターの藤波大吾さんの「技能実習生が地域日本語教室に求めること」、東京国際大学の助川泰彦さんの「送り出し国の日本語教育状況とその効果」の三つの発表で、進行・趣旨説明は浜松国際交流協会の内山夕輝さんが行い、主催は学会社会啓発委員会です。田尻はこの大会には参加していませんが、助川さん以外は日本の教育現場で技能実習生に関わっている方々が現状をお話しになったのだと考えました。このプルグラムを見る限り、技能実習制度と育成就労制度の説明は趣旨説明を行った内山さんの担当だと考えましたが、実際はどうだったのでしょうか。詳しい事情をご存じの方がいらっしゃったら、ひつじ書房編集部にお知らせください。

ところが、学会誌の栗又論文では、「はじめに」として技能実習制度の概要の説明、本論文の目的と構成、きぼう国際外語学院での日本語教育、監理団体通訳者の問題点、育成就労制度の説明、「おわりに」という構成になっています。栗又さんの論文の「目的」は「きぼう国際外語学院が担っている入国後講習では、どのような日本語教育を実践しているかを本稿で詳しく述べたい」ということです。つまり、この論文は、題目にあるような技能実習制度の課題を論じる論文ではないことがわかります。技能実習制度と育成就労制度の課題を論じるならば、技能実習制度についての先行研究・制度の詳しい説明・まだ方向性しか決まっていない育成就労制度の正確な情報の提示が必要です。秋季大会のプログラムでは、そのような点まで栗又さんに説明してもらったようには見えません。もしプログラムが田尻が考えるような構成であったとするのなら、学会誌に掲載するに当たっては、学会誌委員のどなたかが論文掲載の経緯を説明し、栗又さんとは別の方が二つの制度の課題を説明する文章を栗又論文と一緒に掲載すべきと考えます。

具体的に、以下にこの論文の問題点を述べます。


① 記述の正確性に問題がある
「出入国管理庁」は、正確には「出入国在留管理庁」です。ここに「在留」の文字が入っていることの意味の大きさは、ここでは説明しません。「在留」という語がどうして入ったのかということはこの機関の成立に関わる重要な点である、ということだけを指摘しておきます。
育成就労制度での日本語能力の説明は、現在は変更されています。この点については、6月21日の第52回の「未草」に書いています。この点を修正しなかったという問題は、栗又さんだけではなく、この論文を査読した学会誌委員の方々の問題でもあります。学会誌委員は、「就労」分野の日本語教育に関心がないのでしょうか。相変わらず「未草」の記事は無視されています。
なお、この育成就労制度は公布日6月21日から3年を超えない範囲内で施行されますので、現時点では方向性しか示されていないという点にも言及すべきです。

② 栗又さんの教育方針に問題がある
栗又さんの学校の「教育方針」の一つに「かわいがってもらえる実習生」というものがあります。田尻は、この教育方針に愕然としました。あれだけ多くの技能実習制度における実習生の人権無視の現場の報告や、その救済に当たる弁護士の方々のご努力をご存じないのでしょうか。「『日本人の価値観』に合うように実習生を指導してきた」(この記述のすぐ後に「やはり、日本人観を押し付けていたと思う」という反省も書かれている点は、栗又さんのためにも指摘しておきます)、「日本人側が配慮してくれたりする可能性」、「この評価方法は、企業が望む実習生像を念頭に作成した」などの説明は気になります。現場での雇用主側との対応にご苦労なさっていることは理解したうえで、やはり日本語教師は外国人労働者の側に立ち雇用主との問題解決に取り組むべきだと考えます。

③ 基本的な制度理解に問題がある
「ここからわかることは、JLPTでの合格と現場での能力は違うということである」、「キャリアアップの指標として、JLPTが採用されることで、JLPT対策としての学習にも時間が割かれることが想像される。JLPTの学習にも効果はあるが、このJLPTの学習で日本語の土台固めをし、その基盤の上に、現場、地域等それぞれの場所で対応できる日本語力をつける必要もあるであろう」などの記述を見て、二つの点で問題を感じました。一つは、こんな当たり前のことを現場では初めて気づいたという点です。そのために、日本語教育施策として「日本語教育の参照枠」を提示し、日本語能力をCan do記述にしようという動きへの理解はここでは見られません。もう一つは、学会誌の査読委員がこの点を修正しなかった点です。「あとがき」でS.Nさんは「外国人労働者への日本語教育について示唆に富む論考となっています」と書いています。S.Nさんは、どんな点を示唆に富むと評価したのでしょうか。田尻には、理解できません。学会誌委員の方々の「就労」分野の理解はこの程度なのでしょうか。

以前にも同じような問題点を指摘しました(「未草」30回31回51回の記事)が、学会誌委員からの反応はありません。田尻が学会誌委員をしている時には、査読論文に問題があれば査読にあたった委員が丁寧に問題点を指摘して提出原稿を修正するようにしてきました。最近の査読では、そのような作業をしていないのでしょうか。この問題は、学会誌のレベルが問われる問題だと田尻は考えます。「就労」や「生活」分野への学会の内向きの姿勢は、今後の学会の在り方を考える時に問題にすべきです。

3. 外国人児童生徒に関する調査結果

2024年8月8日に「令和5年度 外国人の子供の就学状況等調査について」が文部科学省総合教育政策局国際教育課から発表されました。
https://www.mext.go.jp/content/20240808-mxt_kyokoku-000007294_504.pdf

これによりますと、以下のことが分かりました。

  • 住民基本台帳上での学齢相当の子どもの人数は150,695人で、前年度より13,772人(増加率10.1%)の増加となっています。
  • 不就学の可能性があると考えられる外国人の子どもの数を単純合計すると8,601人となり、前年度より418人(増加率5.1%)の増加となっています。

また、同じ日に「令和5年度 日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査結果について」が同国際教育課から発表されました。
https://www.mext.go.jp/content/20240808-mxt_kyokoku-000037366_4.pdf

これによると、以下のことが分かりました。

  • 日本語指導が必要な児童生徒数は69,123人で、前年度より10,816人(増加率18.6%)の増加となっています。
  • そのうち、日本語指導が必要な外国籍の児童生徒数は57,718人(増加率21.2%)の増加となっています。
  • そのうち、日本語指導が必要な日本国籍の児童生徒数は11,405人(増加率6.7%)の増加となっています。
  • 日本語指導が必要な外国籍の児童生徒を言語別にみると、ポルトガル語が20.8%で最も多く、次に中国語の20.6%となっています。
  • 日本語指導が必要な日本国籍の児童生徒を言語別にみると、日本語が30.5%で最も多く、次にフィリピノ語の19.4%となっています。

指導の状況は、以下のとおりです。

  • 日本語指導が必要な外国籍の児童生徒のうち、学校において特別な配慮に基づく指導を受けている人数は52,167人で、前年度より8,844人(増加率は0.6ポイント減少)の増加となっています。
  • 日本語指導が必要な日本国籍の児童生徒のうち、学校において特別な配慮に基づく指導を受けている人数は9,878人で、前年度より459人(増加率は1.5ポイント減少)の増加となっています。
  • 特別な配慮に基づく指導を受けている児童生徒に占める「特別の教育課程」による日本語指導を受けている人数と割合については、義務教育段階・特別支援学校では外国籍の児童生徒は37,500人(77.7%)、5,800校で、日本国籍の児童生徒は6,809人(72.5%)、2,363校です。今年度初めて調査した高等学校段階・特別支援学校では外国籍の生徒は215人(5.5%)、33校で、日本国籍の生徒は30人(6.2%)、13校です。

進路状況は以下のとおりです。

  • 日本語指導が必要な中学生等の高等学校への進学率は、90.3%です。全中学生等の進学率は、99.0%です。
  • 日本語指導が必要な高校生等の中退率は、8.5%です。全高校生等の中退率は、1.1%です。
  • 日本語指導が必要な高校生等の大学等への進学率は、46.6%です。全高校生等の進学率は75.0%です。
  • 日本語指導が必要な高校生等の就職者における非正規就職率は、38.6%です。全高校生等の非正規就職率は、3.1%です。進学も就職もしていない者の率は、11.8%です。全高校生等では、6.5%となっています。

全高校生と比べて、外国籍・日本国籍に関わりなく日本語指導が必要な高校生は進学・中退・就職の全ての点で日本語力の不足が不利な状況を作り出していることが分かります。

外国籍の児童生徒についてはもっと詳しく述べることが多いのですが、今回の「未草」の記事ではまだ扱いたいことがたくさんあるので、ここではこれ以上詳しく扱うことはしません。

4. 特定技能1号に関する情報の更新


出入国在留管理庁の特定技能のサイトにある「外国人材の受入れ及び共生社会実現に向けた取組」が、7月12日に更新されています。ここには、主として特定技能1号に関する最新の資料が掲載されていますので、特定技能に関心のある方はぜひ見ておいてください。

https://www.moj.go.jp/isa/content/001335263.pdf

以下、その内容の一部を紹介します。
特定技能1号は当初技能実習からの移行を想定していましたが、深刻化する人手不足への対応として対象分野は拡大して、特定技能1号での受け入れ人数は、2024年5月末現在245,784人になっていますが、2号はまだ98人の受け入れとなっています。受け入れ人数枠は、介護・建設分野を除いて制限はありません。
在留期間については、1号は上限5年となり、2号になると基本は3年ですが「更新回数に制限なし」となっていますので、永住化のような資格を得られることになりますから実質的な「移民」ということになります。1号の家族滞在は基本的には認められませんが、2号なら家族の帯同ができます。なお、留学生が「特定技能」の許可を得た場合は、留学生の扶養を受ける家族として日本に在留していた「家族滞在」の人は「特定活動」の在留資格で引き続き在留することが可能となってので、この枠での外国人児童生徒の在留が増えることが予想されます。
特定技能の産業分野は、介護、ビルクリーニング、工業製品製造業、建設、造船・舶用工業、航空、宿泊、自動車運送業、鉄道、農業、漁業、飲食料品製造業、外食業、林業、木材産業となっていて、これからは建設業やバスの運転手として多くの外国人が身近に見られるようになると考えられています。
特定技能1号の日本語試験としては国際交流基金の「日本語基礎テスト」が使われていますが、そのテストの内容は一部しか公開されていません。受験者数・合格者数は海外での受験が圧倒的に多く、2023年末では海外の受験者は136,544人で、合格者は56,031人となっています。この枠での受け入れ人数は増えると予想されますので、受け入れ時の「日本語基礎テスト」の占める役割は今後さらに重要となってきます。
その他、在留資格「特定技能」での在留外国人数の都道府県別や国籍別のデータも示されています。

なお、出入国在留管理庁のホームページには、「外国人生活支援ポータルサイト」というサイトも作られています。2024年3月に「やさしい日本語研修教材例」が公開されています。

https://www.moj.go.jp/isa/support/portal/index.html

2024年6月21日の出入国管理及び難民認定法第ニ条などの改正により、マイナンバーカードと在留カードが一体化されることになりましたが、そのための予算が2025年度概算要求として計上されています。

5. 厚生労働省における外国人労働者受け入れ施策

厚生労働省における外国人労働者受け入れに関する二つの動きを紹介します。

・雇用政策研究会
2024年8月23日に「雇用政策研究会報告書 ~多様な個人が置かれた状況に関わらず包摂され、活躍できる労働市場の構築に向けて~」が公開されました。
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000204414_00017.html
ここでは、外国人材の安定的な受け入れと、地域における外国人材の受け入れに言及しています。

・国際戦略推進本部
2024年8月26日に「厚生労働省国際保健ビジョン」を公表しました。
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_42939.html
厚生労働省内に「国際保健」(グローバルヘルス)に対応するために、2024年6月 27日に第1回の国際戦略推進本部が作られ、早くも8月26日の第2回に「厚生労働省国際保健ビジョン」を公表しています。なぜこのように早くビジョンを出さなければいけなかったのかについては、田尻は知りません。このビジョンを取り上げたのは、一般紙では1紙のみでした。そこに外国人労働者受け入れが書かれていることを知り、サイトを開けてみました。そこには、二つの興味深い施策が提言されていました。
一つは、外国介護労働者政策で、「日本の介護を学びたいと言う「外国人介護人材を増やし、国内における介護サービスの担い手の確保につなげ、さらに、日本の介護を学んだ外国人介護人材が母国で日本の介護を紹介するといった、高齢者保健分野における好循環を生み出すシステムを構築する。その中で、外国人介護人材の確保については、海外現地への働きかけや日本での定着支援に戦略的に取り組むなど、質の確保と量の確保の両面から取組を強化する」と書かれています。そのために、「介護福祉士国家試験の取組に向けて、全国での試験対策講座の開催など学習支援を行う」とあり、介護福祉士国家試験のパート合格の導入にも触れています。武見大臣肝いりの政策のようです。
もう一つは、外国医療人材の育成です。内容としては、「アジア諸国を始めとするインド太平洋地域における医療水準の向上や健康格差の是正に資する外国医療人材の育成を推進する。具体的には、ERIAへの拠出金による奨学金を活用した、日本の大学医学部への外国人留学生受入れモデル構築のための実証(20名規模)事業に取り組む」となっていて、その実証事業に向けた検討を2024年度から実施する」そうです。
厚生労働省の施策では、特に日本語教育についての言及はありません。これらの施策に興味がある日本語教育関係者がいたら、厚生労働省に働きかけをしてください。黙っていれば、これらの施策実行の動きから日本語教育は外されたままになります。

6. 文部科学省作成動画について


2023年度「日本語教師の学び直し・復帰促進アップデート研修事業」で作成された4本の動画が文部科学省チャンネルで、2024年8月22日に公開されました。この動画を一括して見ようとするならば、日本語教育学会の「お知らせ」のサイトが見やすいと思います。

https://www.nkg.or.jp/news/2024/2024_08_27.html

この企画自体は、大変結構なものだと思います。この動画を全て見た田尻の感想を以下に書きます。

  • ①(日本語教育機関認定法の説明)と②(登録日本語教員資格取得に関係する経過措置の説明)は、これらの動きを初めて知る人には中身が濃すぎて消化不良を起こします。そのためか、この動画の説明役のアバターが感情を表に表さないいわゆる「お役人風」に見えるのは田尻だけでしょうか。
  • ③(登録日本語教員の活躍分野の説明)は、今現在関われる分野と今後関われるかもしれない分野が一緒に扱われているので、やや楽天的な見方が入っているように感じました。
  • ④(「日本語教育の参照枠」の説明)は、初めて聞く人には最も分かりにくいものなので、もう一工夫が必要だと思いました。CEFRを「シェファール」と言っていたのは、いかがなものでしょう。「シー・イー・エフ・アール」か、せめて「シェフ・アール」とすべきではなかったでしょうか。

※今回も、多くの大事な情報に触れないままに終わりました。皆さんは、この「未草」の内容だけで満足するのではなく、各自の興味のある分野についての情報を各自で探してください。

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