第48回 能登半島地震での在留外国人支援について、そして直近の日本語教育施策|田尻英三

この記事は、2024年1月24日までの情報を基に書いています。

1月1日に能登半島で起こった地震による災害で亡くなられた方々のご冥福をお祈りするとともに、被害に会われている方々へのお見舞いを申し上げます。

今回の「未草」の原稿は、能登半島地震災害時での在留外国人支援の在り方について最初に書きました。特に、「やさしい日本語」は支援情報伝達に有効であったかについての田尻の現時点での感想を述べます。田尻は、日本語習得支援は在留外国人支援の大事な要素の一つと考えていますので、この「未草」でも詳しく扱います。日本語教育関係者は、在留外国人の実情についてもっと関心を持つべきだと考えます。

また、2023年末に文化庁のサイトで公開された大量の施策の資料については、注意していただきたい点だけを述べることにします。

1.能登半島地震での在留外国人支援について

(1)石川県や政府機関等の対応

1月22日現在でも被害の全容はつかめていないので、ここではサイト上で公開されている情報だけで問題点について述べます。詳しい外国人支援活動の情報があれば、ひつじ書房宛にお知らせください。次の「未草」の原稿でご紹介します。

石川県のホームページでは、1月12日に「令和6年(2024年)能登半島地震を受けた外国人の方への支援について」が掲載されていて、そこには「石川県災害多言語支援センターの設置について」が出ています。その説明は、「当センターでは、日本語が十分に理解できないために行政機関が発信する情報を享受できない外国人等のために、多言語による災害関連情報の提供やニーズの把握等の支援活動を行います」とあります。この「未草」をお読みの方なら、このような情報提供の文章が「日本語が十分に理解できない」人には理解しにくいことはわかると思います。ここには、振り仮名や「やさしい日本語」への書き換えのような外国人への配慮はありません。「能登半島地震情報・相談」のサイトにたどり着けば、9か国語とやさしい日本語の表示が見られます。残念ながら、石川県ホームページでは、在留外国人支援への配慮は有効ではないと考えます。

名古屋出入国在留管理局在留支援部門では、「地震にあった人のための入管臨時相談会」(田尻注:振り仮名付き)として石川県国際交流センターの事業を紹介していますが、この説明でも、かなりの日本語力がなければ利用できないと考えます。

厚生労働省医政局総務課医療国際展開推進室のサイトでは、「【情報提供】令和6年能登半島地震に伴う外国人被災者に係る取組について」として、「希少言語に対応した遠隔医療通訳サービス事業」が出ています。対応言語は、英語を始めとした22か国語です。英語や中国語を「希少言語」としていることには違和感がありますが、ここでも石川県同様外国人の支援は通訳事業です。

出入国在留管理庁の「被災したことにより就労活動が行えなくなった場合の取扱いについて」のサイトでは、技能実習生などのように従来は活動地域の移動ができなかった場合でも他の地域で3か月間は資格外活動として1日8時間の活動ができる特例措置が1月15日から実施されています。一時的ですが、「転籍」が可能となったのです。

https://www.moj.go.jp/isa/content/001410079.pdf

この情報は外国人技能実習機構のサイトでも紹介されていますが、当該外国人には必ずしもスムーズに伝達されていないことがニュースで流されています。

外国人技能実習機構では、1月11日に「被災でお困りの技能実習生の皆様へ。お困りのことがあれば特別相談窓口(母国語)で相談できます」(田尻注:振り仮名付き)というサイトがあります。外国人技能実習機構は、基本的には実習生の雇用者向けの情報発信をしていますので、直接外国人がこのサイトにアクセスすることは想定していないように感じます。

(2)石川県の在留外国人

出入国在留管理庁の資料によると、2023年6月での石川県在留外国人は18,302人で、技能実習生が4,637人、特定技能が2,019人、留学生が2,226人などです。国籍では、ベトナム人が5,073人、中国人が3,747人、ブラジル人が1,657人、フィリピン人が1,365人、インドネシア人が1,315人、韓国人が1,199人、ミャンマー人が707人などとなっています。

被害が大きかった地域に住んでいる外国人と比較的被害の少なかった地域に住んでいる外国人はいるはずですが、その人たちの在留資格などの詳細な資料は出てきていません。

今回の地震のように孤立した地域が多く存在した場合には、必要な情報が得にくかった外国人が多くいたことは容易に想定できます。

地方に住んでいる外国人への情報伝達の在り方は、改めて問い直さなければなりません。

(3)「やさしい日本語」は災害要援護者支援で始まった

「やさしい日本語」の歴史は1995年の阪神・淡路大震災から始まったことは、出入国在留管理庁・文化庁の「在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン」(2020年8月刊)にも書かれていますが、日本語教育研究者の「やさしい日本語」関係の書籍には、詳しい事情には触れていません。田尻はかねてよりこの点について疑問を感じているので、以下に時間軸に沿って「やさしい日本語」が指す内容の変化を述べていきます。

1999年 「災害時に使う外国人のための日本語マニュアル」が、消防庁長官賞を受けた。
この研究は、弘前大学の佐藤和之さんを始め、江川清さん・米田正人さん・真田信治さんが幹事を務め、表現作成者は松田陽子さん・水野義道さんとなっている。この情報は、消防防災博物館の中のサイトで見ることができるが、マニュアルの実物は掲載されていない。

2005年 弘前大学の佐藤さんが社会言語学研究室のメンバーと「新版 災害が起こったときに外国人を助けるためのマニュアル」をまとめた。この本は、現在でも内閣府防災情報のページ」に出ているが、佐藤さんが弘前大学を退職後には弘前大学のサイトから削除されているので、現在は見ることができない。

2010年 弘前大学社会言語学研究室が「『やさしい日本語』作成のためのガイドライン」を刊行した。ここまでは、「やさしい日本語」は災害発生後72時間以内の緊急時対応として作られた。

2013年 2011年に東日本大震災が起こったことで、災害緊急時対応ではなく継続的な支援の必要性から「〈増補版〉『やさしい日本語』作成のためのガイドライン」を弘前大学社会言語学研究室で刊行した。この資料は、総務省消防庁のサイトで見ることができる。

https://www.fdma.go.jp/singi_kento/kento/items/kento207_20_sankou5-6.pdf

ところが、庵功雄・イ ヨンスク・森篤嗣編の『「やさしい日本語」は何を目指すか』(2013年、ココ出版)の「まえがき」では、「『やさしい日本語』の研究が本格的に始まったのは2008年のことです」となっています。どうも日本語教育研究者の間では、上述の佐藤さんの成果に触れないという慣行が現在まで行われているようです。同書の岩田一成さんの「『やさしい日本語』の歴史」の中では、佐藤さんの二つの論文(上記の刊行物には触れていません)に触れて「減災のための『やさしい日本語』」と紹介していますが、この岩田さんの理解は田尻の理解とは違っています。庵他編のこの本で扱っている「やさしい日本語」の指す内容は多岐にわたっていますので、田尻はこの本の指す「やさしい日本語」の概要は理解できませんでした。

なお、この本の安田敏朗さんの「『やさしい日本語』の批判的検討」は、「補償教育としての『やさしい日本語』」について痛烈な批判を加えていますので、ぜひ読んでください。

「やさしい日本語」については、このウェブマガジン「未草」の永田高志さん「『やさしい日本語』は在留外国人にとって『やさしい』のか?」があります。この記事は、「やさしい日本語」の問題点を指摘していると共に、特に第10回・第11回では言語政策について触れていますので、ぜひお読みください。

https://www.hituzi.co.jp/hituzigusa/category/rensai/yn/

日本語教育研究者は引用しませんが、野村雅昭・木村義之編の『わかりやすい日本語』(2016年、くろしお出版)は、「やさしい日本語」を考える上で読んでおかなければいけない本だと田尻は考えています。佐藤さんの「外国人被災者の負担を減らす『やさしい日本語』」も掲載されていますので、ぜひ読み比べてみてください。「易しい」とか「難しい」とかは日本語能力試験のレベル判定を基準にしていると考えられますが、今後は「日本語教育の参照枠」を使っていくとすれば「わかりやすさ」を重視すべきだと田尻は考えます。

出入国在留管理庁・文化庁の「在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン」(2020年8月)は災害時での使用を想定していませんので、この資料はこのままで評価に耐えうるものであると考えられますが、能登半島地震を目の当たりにした現在は改めて災害時の在留外国人への日本語支援の在り方を考えてみる大事な機会です。

念のために言っておきますが、「在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン 別冊 やさしい日本語の研修のための手引き」にもあるとおり、「『やさしい日本語』は、外国人が学ぶ日本語を指すものではありません」ということを確認しておきたいと思います。いまだに一部では、「やさしい日本語」を外国人が習得する日本語だと言っているグループがあります。

(4)能登半島地震に対する日本語教育学会の対応について

能登半島地震が起こった同じ日に日本語教育学会のホームページに西口会長の「新年のご挨拶」が掲載されました。この原稿は以前に事務局に出されたものだと思いますから災害への配慮がない内容となっていることは理解できますが、震災以後に会長からの何らかの意思表示はあってもよいのではないかと思っています。せめて当該地域在住の会員へのお見舞いの言葉はあってもよいのではないでしょうか。今後何らかの対応が取られることを期待します。日本語学会は、当該地域の会員の年会費の免除をホームページに載せています。

(5)災害時に日本語教師は何ができるか

能登半島地震のニュースを見ていると、日本語も英語もできないというベトナム人の困っている様子が流れていて、ベトナム人の僧侶の方が支援に入ったという新聞記事も目にしました。災害時では、日本語教師はせいぜい行政からの情報をわかりやすく伝えることぐらいしかできることはないのではないかと思っています。それでも被災者に寄り添うことはできるのではないでしょうか。しかし、日本語教師のできることは、ボランティアの受け入れが始まってからのことだと考えています。

内閣府の「防災情報のサイトの「阪神・淡路大震災教訓情報資料集【02】人的被害」の中の「外国人の死亡率は、日本人の死亡例と比較して高かった」という1項を重く受け止めて、今できることを考えていこうと思っています。

かつての災害時に外国人支援者の方々の活動や、その問題点などお伝えしたいことがまだまだたくさんありますが、現在進みつつある日本語教育施策の説明もしなければならないのでここでは述べません。

2.2023年末公表の文化庁施策で注目してほしい点

2023年12月28日に新しい日本語教育施策の資料が公表されていますが、サイト上の資料が多すぎてどの点に当面注目すべきかがわからないのではないかと思います。以下では、田尻が注目してほしい点について二種類に分けて説明します。

https://www.bunka.go.jp/seisaku/kokugo_nihongo/kyoiku/index.html

(1)2023年12月28日公表の資料

〇日本語教育機関認定法 よくある質問集

まずここに出て来た質問と回答を読んでから、他の資料を読んだほうが分かりやすいと思います。そして、ここには大事なことが書き込まれていることにも注意してください。

たとえば、「Q7.大学の別科・・・認定を行ける必要がありますか。」という回答に、「原則として留学のための課程の認定を受けた機関でなければ、入学しようとする外国人に「留学」の在留資格が認められないこととなる制度改正(上陸基準省令の改正等)が予定されているところです」という箇所に田尻は注目します。

つまり、認定を受けない日本語教育機関は外国人を「留学」のビザで受け入れられないという法改正が今後行われるということです。これは、日本語教育機関にとっては一大事です。

当然進学のための留学生別科も、課程認定を受けなければ留学生を受け入れられなくなるのです。

Q15.には、仲介業者へ支払う手数料の適正性の評価を行う必要があることが書かれています。ここでは、従来は公開されたことのない仲介業者への手数料が適正であるかどうかをチェックすることが書かれています。

Q42.では、日本語教育機関が就労や生活の課程を置く場合には、主任教員は企業や地方公共団体と連携するという役割が与えられています。つまり、指導体制がはっきりしない無責任な機関は就労や生活の課程が認められないということです。

Q81.には、留学・就労・生活の分野ごとに合計した収容定員数を超えて生徒を入学させてはならないことが書かれています。

Q93.には、日本語能力が目標に到達しない生徒が多数存在する場合は、機関の運営に問題があると考えるとあります。つまり、認可されない可能性が出て来ることを示しています。

Q99.では、生活指導のために通訳派遣会社との提携・海外の仲介業者との連携・翻訳機械の使用は認められないとなっています。機関では、必要な言語による対応ができる人材確保が必要だということです。

Q103.には、法務省告示機関制度の変更点として、「法務省令を改正し、留学のための課程を置く認定日本語教育機関であることを、在留資格『留学』による生徒の受け入れを認める要件」とすることが書かれています。Q7.と同じことが書かれています。

Q123.には、一定の要件を満たせば、教壇実習機関として外国の大学・企業の従業員や難民の日本語教育機関・地域の日本語教室・小学校等が考えられるとしています。教壇実習機関の対象を広く取っています。教壇実習機関に指導者がいない場合は、登録実践研修機関の指導者が教壇実習を指導することが可能となります。

Q130.には、登録日本語教員養成機関や課程の修了要件として、「最低限設けていただく事項としては『必須の教育内容』49項目に関する科目がすべて合格できている」ことが必要となっています。これは、大変大事な項目です。

Q137.には、複数の登録日本語教員養成機関が共同して一つの養成課程を実施することが可能となったことが書かれています。これは、すでにそのような活動をしている大学に対する配慮です。

Q162.には、自分が卒業した養成課程等が経過措置のどの場合に該当するかという大事な質問が書かれています。この点に関しては、文化庁が該当する養成課程等を確認し、2024年3月末までに結果を公表することになっていますので、文化庁のサイトで各自が確認してください。

このほか、大事な質問が多く書かれていますので、まずは必ず自分で読んでおいてください。

〇日本語教育機関認定法 今後のスケジュール案(令和5年12月末時点)

まず、ここには書かれていない事項について説明します。

・経過措置について

「未草」第46回の記事に書きましたが、現職教師については登録日本語教員になるための経過措置があります。経過措置CとD1ルートについては、該当する養成機関や課程を持つ機関や大学等は文化庁に確認申請が必要です。すでに締め切りは終わっていて、現在は確認が行われている段階だと思います。結果は、2024年3月末までに公表されます。なお、未草第46回に「2023年3月末に結果が報告」と書いてあるのは、「2024年」の間違いです。

ここでの「よくある質問集」を見れば、大変大事な問題に気付くはずです。大学について言えば、今まで文化庁に「日本語教師養成課程を実施する大学」として一覧表に掲載されている大学は、自己申告により「受理」されているだけです。養成課程や養成機関で文化庁に受理されているから一定の評価を受けているように書いて受講生を集めている課程や機関は、この点で説明が不十分です。まずは、これらの養成課程や養成機関は「確認」の申請をしなければいけません。また、今回「確認」を受けたことと、次に「登録」の申請をすることは連動しません。つまり、今回「確認」を受けたからと言って、それは「登録」が承認されるレベルが保証されているという訳ではないのです。

今まで養成課程を開講して来た大学等では、担当者が変わったり、課程が無くなってしまったりしたために、以前のカリキュラムが保存されていない大学もあるでしょう。そのような場合、大学等が今回確認申請をしなかった場合には卒業生は日本語教師養成課程として全く資格無しとなり、登録日本語教員になるためには日本語教員試験の基礎試験と応用試験の二つを受けなければいけないことになります。今までに日本語教師養成課程や養成機関で受講した人は、3月末の文化庁の公表資料に注目しておく必要があります。

・日本語教育機関

4月から事前相談が始まり、5月頃に申請が開始し、2025年春入学について、認定が行われます。認定された場合は、2025年開設となります。

・実践研修機関と教員養成機関

4月から事前相談が始まり、夏頃に申請が開始され、秋頃に登録が行われます。また同じ秋頃に日本語教員試験の本試験が実施されます。これらを経て、日本語教員として登録されることになるのです。

〇登録実践研修機関及び登録日本語教員養成機関の登録申請の手引き(令和6年度用)

登録申請については、「未草」第47回に書いています。この資料は、申請を行う機関の人が読まなければいけない資料です。ここで申請が受理されなければ、登録実践研修機関や登録日本語教員養成機関とはなりません。

8月に申請を締め切ったあと、一次審査が行われ、面接審査を経て二次審査が行われます。11月頃に最終判定の審査が行われて初めて「登録」となるのです。

事前相談は、必ず受けなければいけません。かなり細かい項目がありますので、申請者は十分な準備が必要です。

〇登録日本語教員の登録申請の手引き

登録日本語教員になろうと考えている人は、この資料を必ず読んでください。

日本語教員試験や経過措置の講習の料金が出ています。また、経過措置の各ルートについての詳しい説明も書かれています。ここに書かれている「必要な書類」の準備も必要です。業務規程届出での確認事項などの内容は難しいかもしれませんが、自分のことですから目を通してください。

〇認定日本語教育機関の認定申請等の手引き(令和6年度申請用)

日本語教育機関で認定を受けようとする機関の担当者は、必読の資料です。

2ページに、どのような機関に認定申請が必要かということが書かれています。

留学生を受け入れる予定の日本語教育機関については、出入国管理及び難民認定法第七条第一項の基準を定める省令(平成2年法務省令第16号)が改正され、留学のための課程の認定を受けることが要件とされる予定なので、日本語教育機関が留学生を受け入れるためには必ず認定申請をしなければならなくなります。

大学で科目等履修生・聴講生・研究生を受け入れる場合も、同様です。大学の別科・留学生センター・日本語教育センターなどで受講生を「留学生」として受け入れるためには、2029年3月31日までに認定を受ける必要があります。この場合の例外は、正規留学生・国費外国人留学生・交換留学生などですので申請は必要ありません。。

審査スケジュールは、4月事前相談、5月申請締め切り、6月担当者による実地確認、7月頃一次審査、8月頃面接審査、9月末までに二次審査終了、最終判定のための審査と法務大臣協議を経て認定となります。この後、在留資格認定証明書交付申請をして4月からの新規開設となります。ただ、既存機関の日本語教育課程実施はこれより早いこともあると書かれています。

この申請用の書類はかなりの分量があり、なおかつ細かな指定もありますので、早めの準備が必要です。

(2)「令和6年に中央教育審議会の下で決定予定」の項目

〇認定日本語教育機関の認定等に当たり確認すべき事項(案)

日本語教育機関で認定を受けようとする機関の担当者は、読んでおかなければいけない資料です。

〇認定日本語教育機関日本語教育課程編成のための指針(案)

認定日本語教育機関で日本語教育課程を編成するに当たっては、「日本教育の参照枠(報告)」と別表「言語活動ごとの目標」を参照して授業を設計・実施することとなっています。

3ページ以降は、「留学」・「就労」・「生活」分野ごとの教育課程編成について書かれています。

これらの分野の内容については今後詳しく検討されるはずなので、ここでは触れないこととしますが、「就労」分野で気になっている点だけを述べます。

・「就労」分野の日本語教育

9ページに「グローバル人材の育成への視点も取り入れながら」と書いてあることが気になります。

現在の日本社会での外国人労働者の受け入れは、高度人材と非熟練労働者の2層に分かれていると田尻は考えています。高度人材は内閣官房の第6回教育未来創造会議の「未来を創造する若者の留学促進イニシアティブ(第二次提言)」では新たに特別高度人材と特定活動における未来創造人材とに在留制度を変える案が出ており、非熟練労働者は未熟練労働者や非専門的・非技術的分野の外国人労働者(出入国在留管理庁の第11回「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議の参考資料」)と呼ばれていて、在留管理上の扱いは異なっています。これについては、安田峰俊さんの皮肉を込めた書名である『「低度外国人材」』(2021年、角川書店)という本も出版されています。

特定技能制度での入国の際の日本語力を判定することに使われている国際交流基金の日本語基礎テストの有効性についても、日本語教育の専門家からの評価を聞きたいと田尻は思っています。

このような状況を前提にすると、「日本語教育の参照枠」が今後どのように使われていくかが気になります。

田尻は、まずは技能実習制度や特定技能制度での日本語習得時間を確保するような制度や法律が必要であると考えています。

〇登録日本語教員実践研修・養成課程コアカリキュラム(案)

これは、実践研修や日本語教員養成課程を開設しようとする場合に機関や課程の担当者が熟読すべき資料です。また、現職の日本語教師はここに書かれている内容を自分は習得しているか、これから日本語教員になろうとする人は受講している養成課程のカリキュラムがここに書かれている内容を充足しているかをチェックしておいたほうがいいと思っています。

以下の項目は認定や登録に関わる機関の担当者が熟読すべき資料ですので、ここでは扱いません。

〇認定日本語教育機関の認定等の審査要領(案)
〇認定日本語教育機関実地視察規定(案)
〇登録実践研修機関研修事務規定基準(案)
〇登録日本語教員養成機関養成業務規定策定基準(案)
〇登録実践研修機関の登録、研修事務規定の認可等、登録日本語教員養成機関の登録及び養成業務規程の届出等に当たり確認すべき事項(案)
〇登録実践研修機関・登録日本語教員養成機関の登録等の審査基準(案)
〇登録実践研修機関・登録日本語教員養成機関実地視察規定(案)

3.日本語教育関係者に感じてほしい点

上述の膨大な資料を読むのが面倒だと感じている日本語教育関係者には、短期間でこのような資料をまとめた文化庁国語課の方々のご努力に感謝してほしいと強く願っています。

日本語教員が国家資格化されることや、問題のある日本語教育機関が教育面でもチェックされて淘汰されるためには、このような膨大な法的手続きが必要なのです。

その結果、現職の日本語教員が社会的に認知され、経済的にも安定する道が拓かれるのです。今後、日本語教員を目指す人たちにも胸を張って「日本語教員は素晴らしい仕事です。ぜひ日本語教員になってください」と言えるようになるのです。

そのためには、第一に日本語教育関係者の日本語教育施策についての理解が深まることが必要です。現時点では、日本語教育施策についての無理解や自分の事だと感じる現実感が足りないように、田尻には感じられます。どうか各自が上記の資料を読み込んでください。

※技能実習制度での転籍期間が中間報告とは異なる方向で検討が進められている点や、外国人介護福祉士に訪問介護を認めようとする流れがある点など言及したい事項はたくさんありますが、それらに触れる余裕は現在の田尻にはありません。各自で情報を集めてください。

なお、第47回「未草」の原稿で触れた論文の執筆者の上村さんからコメントをいただき、日本語教育小委員会の位置づけに関する点に田尻とは違う点があることがわかりました。この点はひつじ書房から刊行予定の本で触れる予定ですので、ここではコメントをいただいたことのみを紹介するに留めます。

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