1. 新年度を迎えて
新年度が始まりました。高等学校では、選択科目である「論理国語」「文学国語」「国語表現」「古典探究」の授業が始まり、ようやく新学習指導要領に基づく新課程の科目が出揃いました。各学校では、すでに創意工夫に満ちた授業を行っている先生方も多くいらっしゃることと思います。個人的な話ですが、私も勤務先が変わりまして、新しい気持ちで新年度を迎えています。まだ慣れないところもありますが、先生方と同じように頑張ってまいりたいと思います。
2.中学校国語との繋がりを考えたい!
さて、本連載は、共通必履修科目である「現代の国語」と「言語文化」を対象とし、国語科が抱える問題点を取り上げてきました。そのため、話の中心は「現代の国語」「言語文化」であることに変わりはないのですが、上述しました通り、選択科目である「論理国語」「文学国語」「国語表現」「古典探究」の授業も始まっています。とすれば、これらとの関係をどのように捉えるのか、考えていく必要があるでしょう。
なぜなら、国語科の指導内容(〔知識及び技能〕、〔思考力,判断力,表現力等〕に示された内容)は、文部科学省(2019:13)にもある通り、系統的・段階的、螺旋的・反復的に学習されることが求められているからです。系統的・段階的、螺旋的・反復的な学習が重視されていることは、文部科学省(2019)が、国語科改訂の趣旨及び要点を示すなかで指導内容を取り上げ、次のように述べていることからわかります。
(4)学習の系統性の重視
(文部科学省2019:13、下線部は筆者による。)
国語科の指導内容は,系統的・段階的に上の学年につながっていくとともに,螺旋的・反復的に繰り返しながら学習し,資質・能力の定着を図ることを基本としている。このため,小・中学校を受けて,〔知識及び技能〕の指導事項及び〔思考力,判断力,表現力等〕の指導事項と言語活動例のそれぞれにおいて,重点を置くべき指導内容を明確にし,その系統化を図った。
つまり、国語科の学習は,前後の学年との関係を押さえつつ(系統的・段階的)、何度も同じ、また類似の学習内容を繰り返すことで(螺旋的・反復的)、定着を図っている、ということです。その意味で、高等学校の共通必履修科目と選択科目の接続を考える際には、系統的・段階的であるか、螺旋的・反復的な指導が可能であるかどうかが、大変重要になります。この接続がうまくいかない場合、その場限り、行き当たりばったりの指導になってしまいます。皆さんが読んできた教科書にも、類似の教材が様々な学年で取り上げられていたのは、このような理由があるからなのです。そしてこの接続関係は、高等学校の国語科だけの関係性を捉えるだけでなく、高等学校以前、すなわち中学校の国語科との関係性も含まれます。このことは、文部科学省(2019:65)が、「現代の国語」と「言語文化」の〔知識及び技能〕、〔思考力,判断力,表現力等〕の割り当てを説明するなかで、次のように述べていることからもわかります。
共通必履修科目のうち,「現代の国語」については,〔知識及び技能〕における3事項,〔思考力,判断力,表現力等〕における3領域を全て示しているが,「言語文化」については,〔知識及び技能〕における2事項,〔思考力,判断力,表現力等〕における2領域を示している。これは,義務教育との系統性や,これまでの共通必履修科目の内容を踏まえながら,共通必履修科目を,科目の性格や特色に応じて,2科目設定しているためである。
(文部科学省2019:65、下線部は筆者による。)
〔知識及び技能〕における3事項とは、「(1)言葉の特徴や使い方に関する事項」、「(2)情報の扱い方に関する事項」、「(3)我が国の言語文化に関する事項」のこと、〔思考力,判断力,表現力等〕の3領域とは、「A話すこと・聞くこと」、「B書くこと」、「C読むこと」のことを指しています。下線部にあるとおり、「義務教育との系統性」という形で、小中学校との繋がりが指摘されています。
以上のように、高等学校「現代の国語」「言語文化」を捉える際には、中学校の国語科の学習内容についても目を配っておく必要がある、ということです。
そこで数回にわたり、「現代の国語」「言語文化」と、前後の科目との接続関係を取り上げていきたいと思います。今回は、「現代の国語」「言語文化」の前段階である中学校国語科との関係を取り上げたいと思います。
実は、中学校における国語は、令和3(2021)年度から、全面実施となっています[i]。つまり、令和5(2023)年度の中学校3年生は、新課程になって最初の3年生ということです。そのため、令和6(2024)年度は、新課程の学習指導要領に基づいた教科書で3年間学習した中学生が高校生になる年になります。中学校3年間の学習を、高等学校ではどのような形で引き継いでいけるのか、考えていく必要があるでしょう。
3.中学校における「話すこと・聞くこと」
今回は、中学校における「話すこと・聞くこと」との関係を取り上げます。なぜなら、中央教育審議会答申のなかにある次の指摘について考えていきたいからです。
〇 高等学校の国語教育においては,教材の読み取りが指導の中心になることが多く,国語による主体的な表現等が重視された授業が十分行われていないこと,話合いや論述などの「話すこと・聞くこと」,「書くこと」の領域の学習が十分に行われていないこと,古典の学習について,日本人として大切にしてきた言語文化を積極的に享受して社会や自分との関わりの中でそれらを生かしていくという観点が弱く,学習意欲が高まらないことなどが課題として指摘されている。
(文部科学省2019:8、下線は筆者による。)
高等学校の国語科では、「話すこと・聞くこと」及び「書くこと」の領域の学習が不十分であることが述べられています。この部分は、従来の高等学校の国語科が、「読むこと」を重視しすぎており、総合的な国語の力を育成していない、と厳しい評価がなされている部分です。しかも、その「読むこと」の授業内容も、「教材の読み取りが指導の中心」で「主体的な表現等が重視された授業が十分行われていない」ものであり、教師主導の授業が行われていることが指摘されています。このような授業では、次に示すように、文部科学省(2019:4)が今回の学習指導要領の改訂に向けて掲げている「主体的で対話的な深い学び」が達成できません。
また,選挙権年齢及び成年年齢が18歳に引き下げられ,生徒にとって政治や社会が一層身近なものとなる中,高等学校においては,生徒一人一人に社会で求められる資質・能力を育み,生涯にわたって探究を深める未来の創り手として送り出していくことが,これまで以上に重要となっている。「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善(アクティブ・ラーニングの視点に立った授業改善)とは,我が国の優れた教育実践に見られる普遍的な視点を学習指導要領に明確な形で規定したものである。
(文部科学省2019:3-4、下線部は筆者による。)
新学習指導要領の下では、主体的で、かつ対話的な学びが得られるような授業を行っていかなければなりません。国語科では、「話合いや論述」といった言語活動の学習が取り上げられていることからもわかるように、「話すこと・聞くこと」及び「書くこと」の領域の学習をこれまで以上に十分に行っていかなければなりません。
以上の問題意識をもったうえで、今回は、「話すこと・聞くこと」の領域を取り上げます。
ところで、ここまではあたかも高等学校の国語だけが「話すこと・聞くこと」(「書くこと」)の領域の学習が不十分であるかのように読めてしまいますが、はたして高等学校だけの問題だと考えてよいのでしょうか。中央教育審議会答申が中学校の国語について取り上げた記述から確認しましょう。
〇 全国学力・学習状況調査等の結果によると,小学校では,文における主語を捉えることや文の構成を理解したり表現の工夫を捉えたりすること,目的に応じて文章を要約したり複数の情報を関連付けて理解を深めたりすることなどに課題があることが明らかになっている。中学校では,伝えたい内容や自分の考えについて根拠を明確にして書いたり話したりすることや,複数の資料から適切な情報を得てそれらを比較したり関連付けたりすること,文章を読んで根拠の明確さや論理の展開,表現の仕方等について評価することなどに課題があることが明らかになっている。
(文部科学省2019:6、下線部は筆者による。)
中学校の国語については、「伝えたい内容や自分の考えについて根拠を明確にして書いたり話したりする」ことが取り上げられています。その中で、いかに根拠づけて表現できるように育成するかが課題となっていることが分かります。
このような中学校の国語の課題も踏まえ、高等学校の「話すこと・聞くこと」の学習をどのように取り扱っていくか、考えていく必要があるでしょう。
そこで今回は、中学校と高等学校「現代の国語」「言語文化」の「話すこと・聞くこと」の接続関係がスムーズに流れているか、検討したいと思います。
4.中学校と高等学校における「話すこと・聞くこと」の接続
4.1.〔知識及び技能〕
本節では、〔知識及び技能〕のうち、特に「話すこと・聞くこと」の領域に関する記述を検討します。〔知識及び技能〕は、「(1)言葉の特徴や使い方に関する事項」「(2)情報の扱い方に関する事項」「(3)我が国の言語文化に関する事項」に分かれますが、ここでは、「話すこと・聞くこと」に特に関わる「(1)言葉の特徴や使い方に関する事項」の「言葉の働き」「話し言葉と書き言葉」「言葉遣い」「表現の技法」を取り上げます。
中学校第1学年から第3学年、及び「現代の国語」「言語文化」の各項目は以下のように整理できます(表のア~カの記号は、文部科学省2019で示された「話すこと・聞くこと」の学習項目を示した記号と対応しています。以下同様。)。
表 1から窺えるのは、次の4点です。
(1) 2学年にみられ,高等学校では「現代の国語」「言語文化」にみられるが、その内容に直接的な繋がりはみられない。
(2) 1学年及び第2学年にみられるが、高等学校では、「現代の国語」にみられる。ただし、次の「言葉遣い」で示される内容と同じである。
(3) 1学年及び第2学年にみられ、高等学校では、「現代の国語」にみられる。ただし、先の「話し言葉と書き言葉」で示される内容と同じである。
(4) 1学年にみられ、高等学校では、「現代の国語」「言語文化」にみられる。そのうち修辞は「現代の国語」で取り上げられ、それ以外の文学作品等でみられる表現の技法は「言語文化」で取り上げられている。
それぞれ確認してきましょう。
(1)については、第2学年では、「相手の行動を促す」とあるように、相手のことを意識した指導が求められていますが、「現代の国語」「言語文化」には、相手のことを意識した記述はありません。
(2)、(3)については、中学校で学習した「話し言葉と書き言葉の特徴」「言葉遣い」の内容が、「現代の国語」「言語文化」においてまとめて示されているということになります。別々に分けて学習していたものを総合的に学習していくことになりますので、中学校の内容と接続する系統性・段階性が認められます。
(4)については、中学校第1学年で学習した修辞を含む表現の技法が、「現代の国語」が引き継ぐという系統性・段階性が認められます。一方、「言語文化」は、「我が国の言語文化」に特徴的な表現の技法を取り上げており、「現代の国語」と棲み分けがなされてます。
以上のように、「話すこと・聞くこと」に特に関わる〔知識及び技能〕を精査すると、(2)~(4)については、系統性・段階性が認められる記述になっていますが、(1)の「言葉の働き」については、直接的な繋がりはみられない、といえるでしょう。つまり、「言葉には相手の行動を促す働き」があることを、「現代の国語」「言語文化」において、どのような形で繋げていくことができるか、課題があるといえるでしょう。
4.2.〔思考力,判断力,表現力等〕の〔話すこと・聞くこと〕
本節では、〔思考力,判断力,表現力等〕における「話すこと・聞くこと」の接続をみていきましょう。説明の都合上、ここでは小学校〔第5学年及び第6学年〕からみていきたいと思います。
小学校〔第5学年及び第6学年〕から「現代の国語」までの「話すこと・聞くこと」の各項目は以下のように整理できます(「言語文化」は対応するものがありませんので省略します)。「話すこと・聞くこと」の内容は、「話すこと」「聞くこと」「話し合うこと」に分かれていますが、それぞれ、ア~オの項目に整理できますので、まとめて記します(ア~オの記号は、文部科学省2019で示されたものと対応しています)。列に並んでいる項目は、同じ内容であることを示します。なお、太字部分は私が付け、その後の説明も、太字部分を中心に述べます。
以下、項目ア~オの対応関係を検討していきましょう。
4.2.1. 項目アの対応関係
項目アは、「話すこと」「聞くこと」「話し合うこと」すべてにまたがる内容です。そのうち、「話題の設定」「情報の収集」「内容の検討」の内容を示したものです。
小学校第〔5学年及び第6学年〕及び中学校第1学年では「集めた材料」を、中学校第2学年では「異なる立場や考えを想定しながら集めた材料」を、中学校第3学年では「多様な考えを想定しながら集めた材料」を、「現代の国語」では「様々な観点から情報(を収集)」すると変化しています(表 3参照)。
これは、自ら集める段階から、他者を意識した情報収集へと展開されており、系統的・段階的な学習を示していると考えられます。小学校から高等学校への接続が意識されていることが窺えます。
しかし、問題もあります。「日常生活」「社会生活」「実社会」という部分です。
基本的には、小学校では「日常生活」、中学校では「社会生活」、高等学校では「実社会」における話題が取り上げられるのですが、項目アを比較すると、中学校第1学年では、「社会生活」ではなく「日常生活」とされています。これは、小学校〔第5学年及び第6学年〕との接続を考え、中学校第1学年でも「日常生活」が取り上げられていると考えられます。このように、小学校から中学校にかけては、その接続を意識した記述になっているのです。
それでは中学校と高等学校の接続はどうでしょうか。「現代の国語」をみると、「実社会」となっており、すでに話題の対象が変わっています。つまり、直接的には中学校の段階から高等学校への段階へとは繋がっていないということになります。私は、部分的にでも「社会生活」を取り上げる方が、中学校との接続という観点ではよいのではないかと考えます。つまり、「現代の国語」では、「社会生活及び実社会」という形で取り上げる、ということです。
4.2.2.項目イの対応関係
項目イは、「話すこと」に関わる内容です。そのうち、「構成の検討」「考えの形成」の内容を示したものです。
小学校〔第5学年及び第6学年〕では、「事実と感想,意見」の区別が、中学校第1学年では「話の中心的な部分と付加的な部分,事実と意見との関係など」が、中学校第2学年では「根拠の適切さや論理の展開など」が取り上げられ、話の内容の構成に主眼がおかれています。それが、中学校第3学年では「相手を説得できるように論理の展開など」を考えることが述べられており、話す内容だけでなく相手(他者)の存在を考えることが求められています(表 4参照)。
これは、「現代の国語」においても、「相手の反応を予想して論理の展開を考えるなど」と述べられているとおり、相手(他者)の存在を意識しています。ここから、小学校から高等学校まで、系統的・段階的な繋がりが認められます。
4.2.3.項目ウの対応関係
項目ウは、「話すこと」に関わる内容です。そのうち、「表現」「共有」の内容を示したものです。
小学校〔第5学年及び第6学年〕では、「資料を活用するなど」、中学校第2学年では「資料や機器を用いるなど」とあり、伝える内容を表現したり共有しやすくしたりするための工夫が述べられています。このことは、中学校第1学年及び第3学年には記載されていないものですが、「現代の国語」には、「資料や機器を効果的に用いたりするなど」と述べられているとおり、資料や機器の活用は高等学校においても引き継がれています。その意味で、中学校第1学年及び第3学年では、その前年に学習する資料や機器の活用法を定着させるための段階であると考えることができるでしょう(表 5参照)。
また、中学校第1学年では、「相手の反応をみながら」、「現代の国語」では「相手の理解が得られるように」とあり、相手(他者)のことを考えた表現の工夫・共有が求められています。中学校第3学年も、直接的に相手という言葉は用いられていませんが、「場の状況に応じて言葉を選ぶなど」とあることから、相手(他者)の存在が前提となる記述がみられ、この点も、項目イと同様に、相手(他者)を意識した記述として、系統的・段階的な繋がりが認められます(表 6参照)。
4.2.4.項目エの対応関係
項目エは、「聞くこと」に関わる内容です。そのうち、「構造と内容の把握」「精査・解釈」「考えの形成」「共有」の内容を示したものです。
小学校〔第5学年及び第6学年〕では「話し手の考えと比較しながら」、中学校第1学年では「共通点や相違点などを踏まえて」、中学校第2学年では「話し手の考えと比較しながら」とあり、話の内容を受け止めた上での比較・検討が中心になっています。それが、中学校第3学年では「聞き取った内容や表現の仕方を評価して」、「現代の国語」では「話の内容や構成,論理の展開,表現の仕方を評価する」とあり、話す内容だけでなく話し方(表現の仕方)そのものの適切さを評価することが求められています。また、「現代の国語」では、「聞き取った情報を整理して」とあり、情報を整理する、すなわち主体的に捉え直すことが求められています。なお、評価することについては、小学校〔第5学年及び第6学年〕では「話し手の目的や自分が聞こうとする意図に応じて」、中学校第1学年では「必要に応じて記録したり質問したりしながら」、中学校第2学年では「論理の展開などに注意して」、中学校第3学年では「話の展開を予測しながら」、「現代の国語」では「論理の展開を予想しながら」と、聞く際の構えについても、系統的・段階的に難度が上がっており、系統的・段階的な繋がりが認められます(表 7・表 8参照)。
なお、小学校〔第5学年及び第6学年〕から中学校第2学年までに「まとめる」とある部分について、第3学年以降では「広げたり深めたりする」とあります。これは、小学校国語の「目標」の中に示されている系統的・段階的な記述と共通しています。具体的には、〔第1学年及び第2学年〕には「自分の思いや考えをもつ」、〔第3学年及び第4学年〕には「自分の思いや考えをまとめる」、〔第5学年及び第6学年〕では「自分の思いや考えを広げる」とある部分です(文部科学省2018:28-45参照)(表 9参照)。
4.2.5. 項目オの対応関係
項目オは、「話し合うこと」に関わる内容です。そのうち、「話合いの進め方の検討」「考えの形成」「共有」の内容を示したものです。
小学校〔第5学年及び第6学年〕では「互いの立場や意図を明確にしながら」、中学校第1学年では「話題や展開を捉えながら」、中学校第2学年では「互いの立場や考えを尊重しながら」とあり、話し合う際の態度が中心に示されています。それが、中学校第3学年では「進行の仕方を工夫したり互いの発言を生かしたりしながら」と、話し合いの進め方自体の工夫も取り上げられています。「現代の国語」では「論点を共有し,考えを広げたり深めたりしながら」、「話合いの目的,種類,状況に応じて,表現や進行など話合いの仕方や結論の出し方を工夫する」という、よりメタ的な視点で話し合いの技術を学習することが求められています。
また、小学校〔第5学年及び第6学年〕で「考えを広げたりまとめたりする」とある部分については、中学校第1学年では「互いの発言を結び付ける」、中学校第2学年では「結論を導くため」、中学校第3学年では「合意形成に向けて」とあり、ある一定の到達点を目指した話し合いが求められています。それが「現代の国語」では「論点を共有し,考えを広げたり深めたりしながら話合いの目的,種類,状況に応じて(中略)結論の出し方を工夫する」とあり、目的、種類、状況に応じた表現、進行が求められており、ここから、同じテーマであっても複数の到達点が導かれうることが示されています。学年があがるにつれ、必ずしも結論が一つ定まらないという、実社会の実情を想定した学習内容になっています。このように、話し合いの態度から、話し合い時の表現や進行自体の検討へと、系統的・段階的な繋がりが認められます(表 10・表 11参照)。
5.結論
今回は、「現代の国語」「言語文化」の「話すこと・聞くこと」の領域が、中学校と系統的・段階的に繋がっているかどうかを検討しました。その結果、おおむね、系統的・段階的に繋がっていること、また、主体が自分(自己)から相手(他者)まで拡大するという流れがあることが確認できました。しかし、系統的な繋がりが認められないものもありました。具体的には、以下の2点です。
(5)「言葉の働き」
(6)「日常生活」「社会生活」「実社会」
まず、「言葉の働き」については、中学校第2学年で「相手の行動を促す」と、相手(他者)との関わりが示されているのに対し、「現代の国語」「言語文化」では、認識や思考、文化という観点が示されるのみで、相手(他者)との関わりが希薄だという問題があります。
これまで見てきましたように、〔思考力,判断力,表現力等〕のうち、特に中学第3学年から相手(他者)を意識した繋がりが示されていることを考えると、〔知識及び技能〕においても、「言葉の働き」の中に相手(他者)を意識した記述がある方が、教員の皆さんがカリキュラム・マネジメントを意識した指導案を作成する際に、悩まずにすむのではないでしょうか。
次に、「日常生活」「社会生活」「実社会」については、対象自体は繋がりがあると考えられるものの、中学校第3学年と「現代の国語」との間の繋がりが意識しにくいという問題があります。
もちろん、小学校と中学校はともに義務教育であるため、系統的・段階的な繋がりをもちやすく、義務教育ではない高等学校は必ずしも繋がりをもちやすいとはいえないものの、学校間の連携が求められる現在にあっては、中高連携のあり方が捉えやすい学習指導要領であってほしいと考えます。
6.おわりに
すでにみてきましたように、高等学校における「話すこと・聞くこと」の領域には課題があることが中央教育審議会答申において指摘されており、新学習指導要領において重要視されています。しかしこれは、必ずしも高等学校だけの問題ではなく、中学校ひいては小学校から系統的・段階的な学習として捉えることが必要だと考えます。その意味で、今回示した複数の表は、どの学年でどのような学習が求められているのかを確認するのに役立つものだと思います。
系統的・段階的な「話すこと・聞くこと」の授業を構想する際に、役立てていただければ幸いです。
【参考文献】
文部科学省(2018)『小学校学習指導要領(平成29年告示)』東洋館出版社
文部科学省(2019)『高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説【国語編】』東洋館出版社
【付記】
本連載は、JSPS若手研究20K13999の調査の一部です。
[i] 文部科学省HP「学習指導要領改訂に関するスケジュール」(最終閲覧日:2023/04/26)