第39回 日本語教育の法案が閣議決定、しかし日本語教育の世界の動きは鈍い|田尻英三

★この記事は、2023年3月13日までの情報を基に書いています。

前回の記事を公開した次の日(2月21日)に、官邸での定例閣議で「日本語教育の適正かつ確実な実施を図るための日本語教育機関の設定等に関する法律案」(以下「日本語機関等の法案」と略称)が閣議決定されました。

今回の前半は、この「日本語機関等の法案」の説明と今後の予定について触れ、後半はそれにも関わらず日本語教育関係者からの反応に問題があることを、具体的な論文や著作を例に挙げて触れていきます。

1.閣議決定した「日本語機関等の法案」の説明

(1)「日本語機関等の法案」の成立過程

閣議決定した「日本語教育法案」は、以下のサイトで見ることができます。

https://www.mext.go.jp/b_menu/houan/an/detail/mext_00042.html

この話題は全ての全国紙や一部の地方紙にも出るほど注目されましたが、日本語教育学会の「お知らせ」には出ていません。日本語教育学会は新聞各紙に出たような、会員にも重要な情報を3月13日に至るまで知らせていません。この法案は日本国内の日本語教育の枠組みを大きく変えるものなので、このウェブマガジンの読者はぜひ自分の目で確かめてください。

この「日本語機関等の法案」は文部科学省と財務省の「共同請議」の形を取っていますが、そのような形式を取ったのは新法において日本語教員の試験実施などで手数料が発生し、実施機関にその手数料を収めることになるため、新しい法案のケースでは「共同請議」として閣議にかけることになっているからだそうです。この件は、公明党参議院議員里見隆治経済産業大臣政務官に教えてもらいました。

一つの法案が成立するまでには、多くの段階を踏みます。詳しい段階は、内閣法制局の次のサイトを見てください。

https://www.clb.go.jp/recent-laws/process/

この法案は、第211回の衆議院と参議院常会で審議される予定です。国会での審議については、参議院の次のサイトがわかりやすいと思います。

https://www.sangiin.go.jp/japanese/kids/html/shikumi/ichinen.html

ここでは法案の本文が掲出されているだけですので、具体的な実施状況はわかりにくいと思います。「未草」の第38回の「外国人の受け入れに日本語教育は何ができるか」に、現在までの実施予定に触れていますので参考にしてください。具体的な実施状況は、この法案が通った段階で、改めて示されます。場合によっては、必要な審議会等も設置される予定です。いずれにせよ、今国会で新しい日本語教育の枠組みが決定される予定になったのです。

(2)「日本語機関等の法案」の構成

この「日本語機関等の法案」は、二つの柱で構成されています。以下、項目だけ示します。

(a)日本語教育機関の認定制度の創設

これは、日本語教育機関の認定制度、認定の効果等、文部科学大臣による段階的な是正措置という三つの項目から成っています。

日本語教育機関の認定は、まず文部科学大臣が行い、法務大臣その他の関係行政機関の長との協力を行うことになっているので、法務省告示の時とは違い、日本語教育の内容面での審査が先に行われることが今回の大きな変更点です。

(b)認定日本語教育機関の教員の資格の創設

日本語教員試験に合格し、文部科学大臣の登録を受けた登録実践研修機関が実施する実践研修を修了した者は、登録日本語教員として文部科学大臣の登録を受けることができます。

日本語教員試験は、基礎試験と応用試験があり、文部科学大臣が指定した指定試験機関が実施します。ただ、文部科学大臣の登録を受けた登録日本語教員養成機関が実施する養成課程を修了した者は、基礎試験が免除されます。大学や専修学校で開かれている日本語教員養成課程が登録日本語教員機関になるかどうかは、日本語教員試験を受ける人には大きな問題となります。今後、登録日本語教員養成機関名は公表される予定です。

これは法案ですので、現職の日本語教師に対する経過措置は書かれていません。どうか経過措置がなくなったなどと誤解して、騒ぎ立てないでください。

(3)「日本語教育機関等の法案」に対する文部科学省の政策評価

法案を国会に提出する前に、関係する省においてその法案の政策評価が行われます。このサイトは、青山豊さんのFacebookの記事で教えてもらいました。

https://www.mext.go.jp/a_menu/hyouka/kekka/1421037_00012.htm

念のために言えば、この文科省の政策評価の前には、総務省の政策評価が1月20日に公表されており、そこには地域における日本語教育の実態調査により、現場ではさまざまな点で日本語教育に対応できていない点が指摘されています。今後は、文化庁国語課の大事な仕事となると考えられます。

https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/hyouka_230120000162815.html

法案提出までの流れとしては、基本方針→基本計画→実施計画→各府省の政策評価の実施→評価書の作成→政策の企画立案→国会提出となって、やっと国会に法案が提出された訳です。

この法案は、文部科学省の「規制に関する評価」を受けています。この評価書には、現在の日本社会における日本語教育の必要性や法案成立に係る費用などが示されています。ここで示されている費用は、「あくまで仮定となる」ものであることを理解してから読んでください。

一つの法案が国会に提出されるまでに、このような手順を踏むことを知っていただきたくて説明を加えました。

2. 日本語教育の世界での受け止め方

日本語教育の枠組みを変えるこの「日本語機関等の法案」が国会で審議されようとしている段階でも、日本語教育の専門家と考えられる人たちの理解や反応はよくありません。以下、具体的に論文・著作・日本語教育学会のビデオなどを発表順に挙げて、田尻の考えを述べます。

(1)「日本大学大学院総合社会情報研究科紀要」「【論文】日本語教師の国家施策への諸課題」(以下、「日大論文」と略称)について

この「日大論文」は、2021年の「日本大学大学院総合社会情報研究科紀要」のNo.22です。著者は、本廣田鶴子(大阪大学大学院)・島田めぐみ(日本大学総合社会情報研究科)・杉田千里(国際交流基金パリ日本文化会館)・藤光由子(元国際交流基金ロンドン文化センター)・保坂敏子(日本大学大学院総合社会情報研究科)・増田朋子(神奈川大学)・谷部弘子(東京学芸大学)の皆さんの共著論文です。この論文の受理は、2022年1月21日となっています。

この「日大論文」の最も大きな問題点は、先行研究として挙げなければいけない論文を読んでいない点や、文化庁の会議の内容を十分に咀嚼していない点です。これは、研究論文としては大きな問題点だと考えます。

まず、田尻の「外国人労働者の受け入れに日本語教育は何ができるか」(ひつじ書房ウェブマガジン「未草」掲載)が触れられていないことは、ある出版社のウェブマガジンという性質上見落としていたとしてギリギリ我慢したとしても、公刊されている『社会言語学』ⅩⅨ号の「外国人労働者の受け入れに係る日本語教育施策―「日本語教育推進に関する法律」成立までの経過―」をこの「論文」に関わった全てのメンバーが見落としていたことは研究論文としてはあってはならないことだと考えます。これだけ多くの日本語教育研究の第一線に関わっている人たちが揃って見落としていたとすると、大変残念なことです。

田尻の論文は、日本語教育の法案成立の過程を詳しく書いたもので、このような内容を含んだ論文は現在まで他にないと自負しています(田尻の論文発表後に別な視点からこの問題に取り組んだ論文はあります)。田尻の論文で指摘している情報を全体に見ると、「日大論文」の「2.日本語教育推進と国家資格化」の箇所には、多くの情報の見落としがあります(ここでは具体的に例を挙げる余裕はありません。二つの論文を読み比べればわかります)。

また、「日大論文」で2020年7月9日から始まった文化庁の「日本語教師の資格に関する調査研究協力者会議」を取り上げていますが、そこでは「『学士以上の学位を資格取得要件にしない』という論拠の一つは、内閣提出法で成立した他の国家資格に学位の要件がないということである」となっていて、それに関する他の意見も挙げています。この点は、誤解があります。それまでの文化庁日本語教育小委員会などでは日本語教師の国家資格を検討する際に学士要件を付けていますが、それが問題だったのです。そもそも国家資格で、学歴要件を付けたものは一つもありません。この調査研究協力者会議で、日本語教師の資格が国家資格を目指すなら学歴要件は外すべきと田尻が発言し、この調査研究協力者会議でもそれが結論として報告に書かれました。「日大論文」では、その点に触れていません。

その他、「定住外国人」という語を使っている箇所がありますが、在留資格「定住」と紛らわしいことや、「定住」という語が指す期間があいまいなことを鑑みると、研究論文としてこの語は使うべきではないと田尻は考えます。

「日本語教育の推進に関する法律」では、日本語教師の働く場所である日本語教育機関の質の保証についても重視していますが、「日大論文」でもこの点に触れてほしかったと思っています。なぜなら、日本語教師の資格と日本語教育機関の在り方は、全体として考えなければいけない問題だからです。

(2)大学日本語教員養成課程研究協議会編『社会を築くことばの教育:日本語教員養成のこれまでの30年、これからの30年』(以下、『大養協30年の本』と略称)について

これは、大学日本語教員養成課程研究協議会(通称「大養教」)編でココ出版から2022年12月に出版された著作です。

この『大養協30年の本』が、大養協の30年の歴史を前提に書かれているとすれば、過去の大養協の大事な動きに触れていないという点で大きな問題点があります。結果的には、日本の大学での日本語教員養成課程の歴史を見ていくうえで、間違った歴史記述を残すことになります。

ここまで田尻が断言的に言えるのは、『大養協30年の本』の「30年の歩み」の247ページ以降に出ているように、田尻が「大養協」発足当時の理事の一人だからです。因みに、1991年発足当時の理事は、奥田邦男さん・駒井明さん・才田いずみさん・椎名和男さん・戸田昌幸さん・豊田豊子さん・水谷信子さんと田尻です。顧問に、水谷修さんや当時の文部省・文化庁の方も入っています。参与には、この「大養協」生みの親とも言うべき鮎沢孝子さんも入っています。

以下に述べることは、何も田尻だけではなく、歴代の文化庁国語課の日本語教育専門官(専門職の場合もあります)に聞けば知っているはずですし、資料も残っているはずです。この『大養協30年の本』を出版する時に、多くの執筆者のどなたもこの点に気付かなかったのでしょうか。或る時期の日本語教員養成課程の歴史を語る時には、この『大養協30年の本』には抜けている情報があることを言うべき責任があると、田尻は考えて以下の「大養協の調査」で具体的に書き加えています。ココ出版の方には、ご理解いただきたいと思っています。

この『大養協30年の本』にコメントしたい箇所は20を越えますが、以下では後世に伝えておかなければいけない情報だけを述べます。

日本語教員養成課程の歴史は、2006年ソウルでの韓国日語教育学会学術発表会での資料を基に、別稿(ひつじ書房から刊行予定)を用意しています。

(a)国立国語研究所(以下、「国語研」と略称)の二つの報告

「国語研」の日本語教育センターができる前の日本語教育部が、1974年から「日本語教育の内容と方法についての調査研究」を行っています。その中に、ここで扱うべき大事な報告があります。

https://repository.ninjal.ac.jp/index.php?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_snippet&index_id=399&pn=1&count=20&order=17&lang=japanese&page_id=13&block_id=21

・4年制大学における日本語教員養成カリキュラム(1990年)(「日本語教育の内容と方法についての調査研究 ; 資料(6)」  http://doi.org/10.15084/00002815

・4年制大学における日本語教員養成の現状(1991年)(「日本語教育の内容と方法についての調査研究 ; 資料(7)」 http://doi.org/10.15084/00002816 以下、「資料7」と略称)

いずれも、当時の「国語研」日本語教育センター第一研究室長の鮎澤孝子さんが担当しています。特に、「資料7」は、当時の日本語教員養成課程の草創期にどのようなことが検討されたかを「なるべく生のまま伝え」(「資料7」7ページ)たものとして、大変貴重な資料です。この「資料7」は、『大養協30年の本』の41ページに一部しか触れられていませんし、同様に丸山敬介さんの「『留学生10万人計画』以後の日本語教育」(『同志社女子大学日本語日本文学』7号、1995年)でも全く触れられていません。

(b)「大養協」の調査

「国語研」の調査を受ける形で、「大養協」の調査が行われました。このことは、『大養協30年の本』の「山本忠行さんの「日本語教員養成の変遷」や深澤のぞみさんの「大学の日本語教員養成課程に求められる教育内容」にも触れられていません。以下では、従来知られている事項に「大養協」の調査を加えて、改めて歴史的事実を整理しておきます。

・1984年 政府が「留学生10万人受入れ計画」を発表。

・1985年 文部省の日本語教育施策の推進に関する調査研究会の「日本語教育の養成等について」の提言で2000年に日本語教員が24,900人必要になると予測した。

https://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/html/others/detail/1318582.htm

これ以降、1987年から1989年にかけて私立大学の日本語教員養成が急増する。この時期に、日本語教育機関も急増する。

・1988年 第1回の日本語教育能力検定試験実施。

文部省の日本語学校の標準的基準に関する調査研究協力者会議が「日本語教育施設の運営に関する基準について」をとりまとめる。「国語研」で日本語教育研究連絡協議会が開かれる。この会が、大学の日本語教員養成課程の最初の全国会議である。この会議は、1990年まで3回開かれている。「資料7」には、この会議の議事録が発言者名も付して公開されている。この会議でのやり取りは、発足当時の日本語教員養成課程の問題が取り上げられ、第一級の歴史資料である。当時の第一線の方々が、文部省の方と日本語教員養成とはいかにあるべきかを直截に話し合っている様子がうかがえる。ここでは、詳しく扱わない。

・1990年 「資料7」がまとめられる。

・1994~1995年 徳川宗賢さんを研究代表者とする日本語教員養成課程の問題点を洗い出す科学研究費補助の研究が始まる。

1996年 科研費報告書「日本語教員養成課程の現状分析とその将来の展望についての総合的研究」を公表(この報告書は科研費の報告に要旨しか出ていない)。研究分担者は、徳川さんの他に、鮎澤孝子さん・奥田邦男さん・カッケンブッシュ寛子さん・工藤真由美さん・駒井明さん・才田いずみさん・椎名和男さん・任都栗新さん・水谷信子さんと田尻。

1997年 科研費報告書「日本語教員養成課程の現状分析とその将来の展望」(以下、「大養協報告」と略称)の調査を公表(この報告書も科研費の報告では要旨しか出ていない)。なお、この「大養協報告」は、「科研費『日本語教員養成』研究グループ」の名前で公表されている。

この1996年と1997年の二つの報告書は「大養協」の中心メンバーが関わっており、「大養協」の歴史においては、必ず触れておくべき事項である。これ以降、「大養協」は文部省の施策に関わる大会企画を組むようになる(2001年まで)。

この「大養協報告」は、1994年当時の各大学の履修要覧等を取り寄せて分析したものである。対象は、主専攻21校、副専攻59校、大学院28校(資料は、大学院設置と書かれているものと修了者がいる大学院を総合している)である。それらを基に、修了者数とその進路を掲げ、課程を担当している現職者の意見もアンケートで集計した。また、養成課程を担当していない有識者(日本語教育学会、日本語教育振興協会、日本語教育の諸会議の委員、「国語研」の日本語教育センター、国際交流基金など)の回収したアンケート135通の分析も行った。各大学へは、文部科学省学術国際局教育文化交流室からの「学生便覧の寄贈について(依頼)」でお願いした。

この「大養協報告」は、この時点での大学の日本語教員養成課程の全国の実態とそれに関わる問題点を洗い出し、提言を付したものである。この「大養協報告」を抜きにして、大学の日本語教員養成課程の歴史を語ることはできないと考える。

・1999年 文化庁は、今後の日本語教育施策の推進に関する調査研究協力者会議の報告「今後の日本語教育施策の推進について—日本語教育の新たな展開を目指して—」を公表。

https://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/tokeichosa/nihongokyoiku_suishin/nihongokyoiku_tenkai/hokokusho/

・2000年 文化庁は、日本語教育の養成に関する調査研究協力者会議の報告「日本語教育のための教員養成について」を公表。

https://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/tokeichosa/nihongokyoiku_suishin/nihongokyoiku_yosei/

・2001年 文化庁は、日本語教育のための試験の改善に関する調査研究協力者会議の報告「日本語教育のための試験の改善について—日本語能力試験・日本語教育能力検定試験を中心として—」を公表。

https://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/tokeichosa/nihongokyoiku_suishin/nihongokyoiku_kaizen/

・2001年 「大養協」が文化庁委嘱による「大学日本語教員養成課程において必要とされる新たな教育内容と方法に関する調査研究報告書」をまとめた。この報告は、「大養協」の理事会において選ばれた委員により調査研究を行った。委員は、長友和彦さん(委員長)・鮎澤孝子さん・大曽美恵子さん・加藤俊一さん・金田一秀穂さん・工藤真由美さん・高木裕子さん・中川かず子さん・縫部義憲さん・細川英雄さん・丸山敬介さん・柳澤好昭さん・山崎恵さん・横林宙世さん・由井紀久子さんと田尻である。この報告書は文化庁のサイトに出ていない。

この報告書は、2000年の「日本語教育のための教員養成について」を基に、新たな教育内容を検討する論文で構成されている。この報告書は文化庁から「大養協」への研究委嘱であり、理事会によってえらばれたメンバーが執筆したにもかかわらず『大養協30年の本』には触れられていない。

この報告書は、2001年における各大学の最新の情報が書き込まれており、大学の日本語教員養成課程の歴史を扱う際には必ず触れるべき報告書だと田尻は考えている。

(3)日本語教育学会のNKGTVシリーズ「日本語教育の参照枠とCEFR」第1回の西口光一さんの「日本語教育の参照枠をめぐる動きと課題」について

日本語教育学会のHP「お知らせ」2023年1月17日に、西口さんの日本語教育の参照枠についての動画がアップされましたが、そこには触れるべき大事な情報が落ちていると考えられる点と、日本語教育の参照枠についての西口さんの考えに問題があると考える点があり、以下に具体的に述べることとします。

西口さんは、動画の中で2018年「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」の中の「外国人材を適正に受け入れ」という記述を基に、この日本語教育の参照枠には経済政策的なモティベーションがあると断じていますが、田尻にはこの資料だけでそのように断じる意味がわからなったので、西口さんの他の発言を調べてみました。因みに、「経済政策的」という意味も、田尻にはよく理解できません。西口さんの発言で関係がありそうなものは、以下のnoteにおける西口さんの日本語教育施策の理解に関わる記述だと考えました。

https://note.com/koichinishi/n/na8910d604438?magazine_key=m13a4a0ab700e

このnoteでは、「日本語教育は文化庁、多文化共生は総務省とバキッと二分されてしまいました」とあります。田尻は、ここで述べられているように、文化庁と総務省が担当を分担したような状況を知りません。もし、西口さんがそのような状況を知っているとすれば、その典拠を示してほしいと考えます。田尻の知る限りでは、文化庁と総務省が担当を分担し合うような場面はなかったと思っていまし、そのような力を持った担当省庁もなかったと思っています。

また、文化庁の日本語教育の参照枠に触れる場合は、国際交流基金の「JFスタンダード」に触れておかなければいけないと考えます。この動画の第2回の大木充さんによる「誤解と的外れの批判から考えるCEFRとCEFR補遺版の最重要ポイント」では、「JFスタンダード」を丁寧に説明しています。ただ、残念ながら、大木さんの話に中には日本語教育の参照枠の紹介はありません。大木さんの批判の対象は、英語教育でのCEFRの扱いに対する意見に対する批判であったと田尻は理解しています。

(4)日本語教育施策に対する日本語教育の専門家の動きの悪さ

以上、(1)~(3)に述べたように、大きく動き出している日本語教育施策に対する専門家と呼ばれる人たちの理解が今一つ進んでいないと感じるのは、田尻だけでしょうか。

(1)~(3)に挙げた例に見られるように、そこには先行研究の見落としや不十分な理解があると田尻は考えます。これは、日本語教育の学問的な研究としては決定的に重要な問題であると考えています。このような論文や著作が公刊されている事態を、専門家と呼ばれる人たちは見過ごすのでしょうか。このような状況が続けば、文化庁の日本語教育の施策への広範囲の理解は進むはずはありません。

3.第4回の技能実習制度・特定技能制度の有識者会議の日本語能力に係る資料について

2023年3月8日に出入国在留管理庁で、第4回の技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議が開かれました。この会議では、JITCO・JICA・国際交流基金・JETROからのヒアリング結果も出ていますが、特に注意してほしいのは、資料2―2の「論点第2の3関連」です。

会議のURLは、次のとおりです。

https://www.moj.go.jp/isa/policies/policies/03_00061.html

資料2-2で、技能実習制度では就労前までに2か月以上の日本語教育を行う必要があるが、実施にあたっての内容や時間数の定めがなく、以前から問題になっている点がはっきりわかる資料となっています。しかし、その問題を解決するための方策はこれからの課題です。できるだけ早く、具体的な方策を作ることが求められます。日本語教育関係者からの提言はないのでしょうか。

日本語教育関係者にはあまり知られていませんが、私が以前指摘したように、日本語能力試験が中学校卒業程度認定試験では国語の試験免除に使われていることは問題だと考えています。他に適当な試験がないことから、日本語力の試験が国語力の試験に流用されています。

特定技能1号の入国時に必要な日本語力を測る日本語基礎テストの合格率は、国内で47.4%、海外で39.9%という数字になっていますが、それはどう評価すべきなのでしょうか。2022年12月末現在、特定技能での在留者数は130,915人です。この人たちの就労現場での状況の報告を田尻は見ていません。

国立社会保障・人口問題研究所の是川夕さんの資料に、ベトナム技能実習生手数料負担額が出ています。

4.最新の留学生数が公表された

2023年3月7日に文部科学省から、最新の留学生数が公表されました。

日本語教育機関の留学生数は49,405人で、2022年から8,838人増加しています。これで、日本語教育機関の運営は少し息を吹き返しましたが、危機的な状況を忘れずに質の向上に取り組んでほしいと思っています。

※このウェブマガジン「未草」の読者の皆さんは、「日本語教育機関等の法案」が国会で成立するまでに、法案の内容や関係資料を十分に読み込んでおいてください。法案が成立してからあわてて資料を読んでも間に合いません。

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