4. 「現代の国語」の問題点―今こそ〔話すこと・聞くこと〕の学習を―
本節では、ここまで取り上げた内容を基に、「現代の国語」の問題点を示したいと思います。
まず、文部科学省(2019a)の考え方では、「現代の国語」は、論理的な文章及び実用的な文章を取り上げる、ということになっています。そして、教科書の構成をみた時、主に論理的な文章に〔読むこと〕が当てられており、実用的な文章に〔話すこと・聞くこと〕及び〔書くこと〕が当てられていると考えられます。
また、〔話すこと・聞くこと〕は「現代の国語」と「国語表現」のみに授業時数が割り当てられています。選択科目である「国語表現」が「論理国語」「文学国語」「古典探究」に比べ選択されない可能性が高いことから推測しますと、「現代の国語」において総合的な力を育成しておく必要があるといえるでしょう。
それでは、〔話すこと・聞くこと〕の資質・能力を育成するには、どのような教材が考えられるでしょうか。
まず浮かぶのは、課題としてテーマを与え、それに対して議論するといったものです。内容面のやり取りの仕方を学習することになります。
しかし〔話すこと・聞くこと〕の資質・能力は、そのような直接的な課題解決のための議論を行う場合だけに発揮されるものでしょうか。
たとえば、仕事とは直接関係はなくても、お互いの共通の趣味や考え方を共有したり、また意見の相違を理解し、それについて意見することは伏せたりして関係を壊さないように配慮したり、反対に仲違いや物別れに終わるということも、日常生活・社会生活だけでなく、実社会で行われている〔話すこと・聞くこと〕が深くかかわる言語活動ではないでしょうか。プレゼンテーションの内容だけでなく、それ以前に相手との人間関係が構築できているかどうかが、商談をまとめる際、重要になることはないでしょうか(「踊る大捜査線」という大ヒットドラマでも、青島警部補が以前営業職をしていた時の経験を、室井管理官に話していたことが思い出されます)。つまり、直接的な課題解決のための〔話すこと・聞くこと〕の言語技術の習得だけでなく、人間関係の構築という観点から、〔話すこと・聞くこと〕の資質・能力の育成を考えていく必要があるということです。
もちろん、実社会でのコミュニケーションが、その内容の良し悪しだけで判断されるのであれば、人間同士でのやり取りは、むしろノイズを含む不要なものになるでしょう。しかし私達はAIではありません。そのノイズを含めて、コミュニケーションを取っているのです。
私は、「現代の国語」が、〔思考力、判断力、表現力等〕の総合的な育成を目指しているのならば、それとわかる構成を取る工夫が必要になってくるのではないかと考えます。
なお、単元内には必ず、〔話すこと・聞くこと〕または〔書くこと〕に関する言語活動が含まれているから、総合的に学習しているのではないか、という見方もあるかもしれません。しかし、そのような考えが可能であれば、現行の「国語総合」にも、〔話すこと・聞くこと〕及び〔書くこと〕に関する内容はありますので、現在も総合的に学習できていることになります。そうすると、〔話すこと・聞くこと〕及び〔書くこと〕の授業時数の増加のみが問題になり、「現代の国語」が抱えている問題が矮小化されてしまうように思うのです。
5. おわりに
今回は、「現代の国語」を取り上げました。世間で議論されている話とは異なる視点を提示したつもりです。ぜひ、〔話すこと・聞くこと〕にも目を向けて議論してほしいと思います。
【参考文献】
大滝一登・髙木展郎[編著](2018)『新学習指導要領対応高校の国語授業はこう変わる』三省堂
岡本明人(1996)『ディベートで「ごんぎつね」を教える』明治図書
全国大学国語教育学会[編](2019)『新たな時代の学びを創る中学校高等学校国語科教育研究』東洋館出版社
東京書籍HP(最終閲覧日、2022/03/29)
日本国語教育学会[監修](2018)『シリーズ国語授業づくり高等学校新科目編成とこれからの授業づくり』東洋館出版
文部科学省(2018a)『小学校学習指導要領(平成29年告示)』東洋館出版社
文部科学省(2018b)『中学校学習指導要領(平成29年告示)』東洋館出版社
文部科学省(2019a)『高等学校学習指導要領(平成30年告示)』東山書房
文部科学省(2019b)『高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説【国語編】』東洋館出版社
東京書籍HP「新編現代の国語」(新編現代の国語 | 令和4年度用高等学校教科書・シラバス | 東京書籍 (tokyo-shoseki.co.jp)、最終閲覧日2022/02/22)
文部科学省HP「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)(中教審第197号)」(https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/__icsFiles/afieldfile/2017/01/10/1380902_0.pdf、最終閲覧日2022/02/09)