「現代の国語」と「言語文化」の問題点|第3回 じっくり学びたい! 「現代の国語」の問題点|清田朗裕

3. 教科書の目次から「現代の国語」の問題点をみる

 本節では、教科書の目次から読み取れる〔思考力、判断力、表現力等〕の内容をみていきましょう。本来であれば、すべての教科書を整理して提示したいところですが、私の手に余りますので、ここでは新学習指導要領に基づく検定教科書として一番目に登録されている、教科書番号「現国701」の『新編現代の国語』(東京書籍)を例にとりたいと思います。教科書会社が作成した授業時数等の資料もHPに掲載されていますので、具体的にどのような授業展開がなされるかわかりやすく、ありがたい資料です。ただ、あくまでも案ですので、「現代の国語」のすべてがこのように設定されているわけではありません。しかし、一応以下のような想定がなされているということでみていきます。

 『新編現代の国語』の目次は、次のようです。〔知識及び技能〕は省略します。

表 26『新編現代の国語』(東京書籍)目次
(東京書籍HP「新編現代の国語 編纂趣意書ダウンロード」から抜粋)

 〔話すこと・聞くこと〕20時間単位、〔書くこと〕30時間単位、〔読むこと〕20時間単位となっており、〔読むこと〕の時間を最大限に取っています。

 ここで注目したいのは、〔話すこと・聞くこと〕及び〔書くこと〕には、具体的な論理的な文章が示されていない、ということです。逆に言えば、論理的な文章はすべて〔読むこと〕を取り上げる際に活用されている、ということです。しかし、このような扱い方には疑問があります。文部科学省(2019b)には、次のようにあります。

 なお,当該領域において示した資質・能力は言語活動を通して育成する必要があるが,従前と同じく,例えば,話合いの言語活動が,必ずしも「話すこと・聞くこと」の領域資質・能力のみの育成を目指すものではなく,「書くこと」や「読むこと」における言語活動にもなりうることに示されるとおり,育成を目指す資質・能力(目標)と言語活動とを同一視しないよう十分留意する必要がある。

(文部科学省2019b:13-14、下線部は筆者による。)

 「話合い」が〔書くこと〕及び〔読むこと〕の言語活動にもなりうることを挙げ、資質・能力(目標)と言語活動とが異なるものであることを示しています。しかし、そうであるならば、論理的な文章を通じて、〔話すこと・聞くこと〕及び〔書くこと〕の育成を目指す工夫もできるのではないでしょうか。実際には、〔話すこと・聞くこと〕及び〔書くこと〕は、授業時数こそ多く確保されていますが、文法指導で行われているような、とりたて指導になってしまっています。「ニュース」「情報」「職業」「新聞記事」「紹介文」「資料」等、実用的な文章に関連するものを取り上げる際に限定されているようにもみえます。だとすれば、「現代の国語」は、次のような分担がなされていることになるでしょう。

(8)

論理的な文章    〔読むこと〕

実用的な文章    〔話すこと・聞くこと〕、〔書くこと〕

 

 このように見ていくと、先述した、ルール違反を犯したある教科書会社が、「現代の国語」に文学的な文章である「羅生門」を採録した際、〔読むこと〕ではなく、〔書くこと〕の教材として活用したことは、検定合格のための苦しい言い訳ではありますが、一方で、生徒の資質・能力を育成することを重視した新学習指導要領の方針には適うものである、ということは指摘しておく必要があるでしょう。資質・能力の育成を中心に考えるのであれば、文章ジャンルで分ける必然性はないはずだ、ということです(しかし、実際は、〔書くこと〕の資質・能力の育成のために小説を活用することは、文部科学省は、想定していなかっであろうことはすでに述べました)。

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