「現代の国語」と「言語文化」の問題点|第3回 じっくり学びたい! 「現代の国語」の問題点|清田朗裕

1.  「現代の国語」の授業時数と各領域の割合―「現代の国語」はアウトプット重視―

 本節では、「現代の国語」の問題を捉える視点を獲得してもらいたいと思います。そこで大切になるのが、授業時数です。文部科学省(2019a)において、「現代の国語」を含む各科目の授業時数は、表 1の通りです。

表1 新学習指導要領における各科目の〔思考力、判断力、表現力等〕の構成及び各領域の授業時数(文部科学省2019a、全国大学国語教育学会[編]2019:26を基に作成)

 1単位時間が35時間相当となりますので、2単位では70時間相当、4単位では140時間相当学習することになります。「古典探究」は、唯一、〔読むこと〕の領域に特化した科目となっていますが、それ以外の科目は、複数領域にまたがる資質・能力の育成が求められています。そして、「現代の国語」は、2単位ですので70時間相当学習することになりますが、〔話すこと・聞くこと〕、〔書くこと〕、〔読むこと〕の3領域全てを学習する唯一の科目であることが分かります。その意味では、国語の力を総合的に育成することが求められている科目だといえるでしょう。そのことは、次の記述からも明らかです。

共通必履修科目「現代の国語」は、実社会・実生活に生きて働く国語の能力を育成する科目として、「知識・技能」では「伝統的な言語文化に関する理解」以外の各事項を、「思考力・判断力・表現力等」では全ての力を総合的に育成する

(文部科学省HP:128、下線部は筆者による。)

 このように、「総合的に育成する」ことが謳われているのですが、改めて時間配分の割合に着目してみましょう。総合的に育成する場合、バランスのよい学習が必要だと考えられるからです。

(7)

〔話すこと・聞くこと〕 2/7~3/7程度
〔書くこと〕 3/7~4/7程度
〔読むこと〕 1/7~2/7程度

 いかがでしょうか。(7)から分かるように、「現代の国語」の〔読むこと〕に割り当てられた時間は最も短く、最大で2/7、20時間相当です。仮に週2回の「現代の国語」の授業全てに〔読むこと〕の学習を割り当てた場合、十週分、すなわち二ヶ月半程度分の学習時間にしかならないということです。もちろん実際は、毎回の授業の中で複数の領域に関する内容を取り上げていくことになりますから、この計算は極端なものです。しかし、感覚的にはどうでしょうか。「現代の国語」は論理的な文章及び実用的な文章を(通して)学習する科目であるという理解をしていらっしゃる方にとっては、〔読むこと〕の学習に当てる時間が極めて短いと思われるのではないでしょうか(「言語文化」の方で学ぶということはありますが、その時間は論理的な文章や実用的な文章の〔読むこと〕を学ぶ時間にはなりません)。一方で、〔話すこと・聞くこと〕には最大で3/7の30時間相当、〔書くこと〕には最大で4/7の40時間相当の学習時間が割り当てられています。これは、〔読むこと〕に10時間相当(1/7)の学習時間を割り当てた場合、〔話すこと・聞くこと〕と〔書くこと〕の時間を、共に3/7ずつの30時間相当を割り当てることが可能になるものです。ここから、総合的に育成するといいながらも、授業時数には偏りがあることが分かります。ではなぜ、このような割合になっているのでしょうか。それは、中教審第197号にみられる、次の指摘が参考になるでしょう。

高等学校の国語教育においては,教材の読み取りが指導の中心になることが多く,国語による主体的な表現等が重視された授業が十分行われていないこと,話合いや論述などの「話すこと・聞くこと」,「書くこと」の領域の学習が十分に行われていないこと,古典の学習について,日本人として大切にしてきた言語文化を積極的に享受して社会や自分との関わりの中でそれらを生かしていくという観点が弱く,学習意欲が高まらないことなどが課題として指摘されている。

(中教審197号:127、下線部は筆者による。)

 これは、中央教育審議会が平成28年12月11日に出した「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)(中教審第197号)」の記述です。文部科学省HPから閲覧できます。よく登場する記述なのですが、文部科学省(2019b)にも引用されているものですので、元データの方を参照される機会は少ないと思います。参考文献にURLを挙げておりますので、元データを参照されたい方はそこからアクセスしてください。

 さて、下線部から窺えるように、「現代の国語」において「読むこと」の割合が低いのは、「話すこと・聞くこと」及び「書くこと」の領域の学習が不十分であるという認識からなされたものです。これらの領域は、主にアウトプットの言語技術が求められるものです。

 以上のことから、「現代の国語」は、「読むこと」以外の領域を主に学習する、アウトプット重視の科目だといえます。ここから、「現代の国語」で取り上げるべき本当の問題の焦点は自ずと定まってくるのですが、前節で結論を述べてしまっていますので、ここは急がず、全体からみていきたいと思います。

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