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おのはん!|第30回 最終回|平田佐智子

 大変お久しぶりです。かなり時間が空いてしまい、申し訳ありませんでした。なかなかコンスタントにおのはん!をお届けすることが難しい状況となってしまいましたため、今回をもちまして連載を終了とさせて頂くことになりました。

 そのため、今回は個別のオノマトペについて書くのではなく、「オノマトペ」そのものや、オノマトペ研究について最近思うことを書こうと思います。いつものおのはん!ではなくて恐縮ですが、最後ということでお付き合い頂けましたら幸いです。

オノマトペとの付き合い

 オノマトペと、その後の音象徴との付き合いは15年以上前の卒論の頃に遡ります。元々興味のあった「言語の意味はどのように伝達されるのか」という自身の問いを実験心理学という分野で研究テーマに落とし込もうとした時に、扱いやすい形だったのがオノマトペだったのでした(その後、オノマトペでも扱いづらかったので、音象徴の方に移行します。音象徴自体は昔から心理学分野のテーマでしたし)。ですので、オノマトペがすごく好きだったとか、研究テーマとして興味があったかというと当初はそういう訳ではなく、あくまでオノマトペを通して言語の意味なり、音の意味なり、言語コミュニケーションとは何か、ということについて考えたかったのでした。研究対象としては興味があったけれど、別に好きでもなんでもありませんでした。心理学をやっている人の中に心が好きな人がどれくらいいるのかわからないですが、心自体も特に好きでもなかったように思います。当時はおかしいと思っていたのであまり口に出していませんでしたが、このようなケースは実は結構多いようで、「研究を行う上で対象を好きである必要性って特にないな、無いのも別におかしくないな」と普通に言えるようになったのは、最近インタビューなどでさまざまな方の研究テーマに対する思いを聴くようになってからです。

オノマトペの使われ方について

 オノマトペは、とても用途を選ぶ言葉でもありますし、使う相手も選ぶので、使い勝手が良いかと言われるとそこまでではないので、「どんどん使おう!」という風潮には実はあまり同調していません。また、徒に忌避する方々もいらっしゃいますが、それもあまりに視野が狭いな、と思っています。全ての事柄に言えることではありますが、「いつ、どう使えば一番能力を発揮するのか」という点を明らかにした方がいいし、明らかにしたいと今でも考えています。まだ分かっている点が少ないタイプの語ではあると思うので、研究のしがいはまだまだあるのでは無いかと思っています。音象徴研究も然りです。ただ、今後私自身が関わるかどうかはちょっと分からないです。

今の研究活動について

 現在私は研究職を退いてかなりの年数が経ち、自身の研究を長い間放置してしまっています。自分の研究で論文を書いたのも随分前になってしまいました。ただ、状況としてはもしかしたら恵まれていて、「自分が本当にやりたかったこと」をやれるのではないかと考えています。

 私の卒論のテーマがいささかねじ曲がった形で決まったのと同じ理由だと思うのですが、学術研究の範疇で研究を行うときは、ある分野に属し、その分野のお作法に則って研究を行う必要があります。そうでなければ、その分野の評価基準で評価できないからです。そのため、私は心理学の分野の者である限り、哲学とか言語学分野の研究をすることはできないのです。共同研究という形ではできるのかもしれませんが、元々私自身が単独で動くことが多かったり、コストメリットなどに気を遣うのでなかなか難しい部分があるかなと思います(同じテーマで考えてくれる人がいるとも限らないですし)。今でも、私がやりたかったことがどの分野に行けばできるのか、実はよくわかっていません。様々な分野で扱われる言語コミュニケーション研究を紐解くことで見つかるのかもしれませんが、また別の分野を修めるとなるとかなり大変な気がします。

 そのうち、学術研究を行うということは、分野の制約の中で「できることをする」だけになってしまうのではないか、とアカデミアを離れてから思うようになりました。もちろん、あらゆる活動には制約が必要であり、その中でどこまで行けるのかを模索することが研究であるのかもしれませんが。そして、その外側では、何をしてもよいのだ、ということも分かり始めてきています。既存の分野に所属しないということは、その分野の評価基準が適用されませんので、新たに「自分の研究の価値を主張する方法」を作り上げる必要があるのですが、外側においては、誰かに評価されるために研究を行うわけではないので、こちらも特に必要ないのかもしれません。

 せっかく業績や評価にこだわることなく好きな研究ができるのであれば、オノマトペ研究をするだろうか、という問いに対して、私はおそらく「NO」と答えるのだと思います。これまでのオノマトペ研究を通して、言語コミュニケーションに関する知見がたくさん分かったので、それ自体が無駄だったとは思わないのですが、何でもできる状況と、そこまで研究をする時間が取れない状況を足し合わせると、「自分がやりたいことをするしかない、回り道はできない」と感じています。人生はそんなに長くなさそうですし。

オノマトペ研究への期待

 オノマトペ研究は、かなり昔からなされていたにもかかわらず、その歴史は飛び飛びになっています(ここ十数年は続いているように思いますが)。興味を持たれては飽きられ、あるいは忘れ去られるのを繰り返しているので、そのような扱われ方をしている研究テーマは他にもあるのだろうか、と興味を持ったりもするのですが、あまりないのではないかと思います。人工知能も不遇の時代とブームが繰り返されていますが、人工知能研究自体は姿を変えてずっと続いているものではあります。これからもまた忘れ去られては思い出される時期が来るのだろうと思いますが、その際は過去の歴史・先行研究もきちんと踏まえた上で研究が進むことを願っています。「車輪の再発明」がよく起こりがちなテーマではありますので、そのようなことがあまり起こらないようになるといいなと思っています。

 また、「ヒトがなぜ音象徴を起こすのか」がまだわかっていない(と認識しているのですが、もし既に発表されていたらすみません)のと同じように、「オノマトペはなぜあるのか、個別言語内においてどんな役割を持つのか」という「オノマトペ・音象徴の存在意義」がわかるといいなと思っています。もちろん、真の存在意義が分かることはおそらくないので、何らかの意味づけをすることになるのだと思いますが、より妥当な意味づけがなされると、より研究界隈が盛り上がると思います。心理学における音象徴研究がいまひとつ盛り上がらないのは、「なぜこんなことが起きるのか」という問いに対する回答がいまだになされていないからだと感じます。私も少し取り組みましたが、メカニズムについてもう少し詳しく分かるようになれば、面白くなってくることと思います。非常に扱いづらくはあるので、これから取りかかられる方は、がんばってください!(ただ、私が研究を続けられなかったということは、おそらく学術界では必要とされる可能性が低いテーマでもあるのかもしれないので、安易に人に勧めるのも良くないのかもしれません)

 私自身はオノマトペの研究をすることがほぼなくなってしまいましたが、やはりオノマトペがついた商品を見ると無意識的に手に取ってしまいますし、このクセが無くなることもないのでしょう。私の興味関心はずっと変わらず「言語やコミュニケーション」にあり、その中の一つとしてオノマトペはあり続けるのだと思います。私は私のいる場所で、やりたいことをやる日々を過ごしてゆきます。

 これまで連載を見守ってくださった皆様、本当にありがとうございました。これからもオノマトペ研究をどうぞよろしくお願いいたします。

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