この記事は、2021年7月12日までの情報を基に書いています。
「骨太の方針2021」に日本語教育についての言及が書き込まれるために、どれだけ浮島議員が動いていただいたかを説明するとともに、時間的にあわただしい審議となった第7回「日本語教師の資格に関する調査研究協力者会議」の問題点に触れることにします。
1.「骨太の方針2021」に浮島議員が日本語教育の施策を書き込んでいただいた
2021年6月9日の経済財政諮問会議に提出された「経済財政運営と改革の基本方針2021(仮称)(原案)(「骨太の方針2021」)と呼ばれているもの)の26ページの「外国人材の受入れ・共生」には、日本語教育のことが全く書き込まれていないことに田尻が気づき、公明党衆議院議員の浮島とも子議員に日本語教育を書き込んでほしい旨の連絡をしました。
早速浮島議員は関係省庁と精力的に交渉し、2021年6月18日閣議決定の「経済財政運営と改革の基本方針2021について」の脚注122に「令和3年6月15日外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議決定(令和3年度改訂)。特定技能外国人のマッチング支援の充実、外国人在留センターにおける効果的な支援の実施、日本語教師の資質・能力を証明する新たな資格と日本語教育機関における教育水準の維持向上、日本語教育機関の振興と活用推進を図るための仕組みについての法制化の検討等日本語教育の強化、外国人の子供の就学支援等に取り組む。」と記載されました。「骨太の方針2021」は菅政権最初の施政方針を示すものであり、来年度の予算作成上の基本方針となるものです。従来この「骨太の方針」にここまで詳しく日本語教育施策のついて触れたことはありませんでした。もし仮に「骨太の方針」に日本語教育のことが書き込まれない場合は、来年度の日本語教育施策立案が難しくなり、予算面などでも不利益が生じかねません。日本語教育関係者は、この事態の重要性に気付いてほしいものです。
浮島議員と関係省庁との詳しいやりとりはここでは書けませんが、浮島議員が日本語教育施策を「骨太の方針2021」の本文ではなく、脚注に書き込む場合は浮島案を削除することなく記載するようにと念を押したと聞いています。つまり、この脚注は、全文浮島議員の考えを表したものと言えます。
残念ながら、日本語教育学会のホームページには、この件についての言及は一切ありません。日本語教育学会は、日本語教育について懸命に活動している国会議員の活動には興味がないということになります。日本語教育業界の中では、唯一この動きに「にほんごぷらっと」が触れていますが、その記述には誤りがあります。6月23日の記事には、公明党が日本語教育について「骨太の方針2021」に提言をしていると書いていることは間違いのないのですが、今回の「骨太の方針2021」に具体的に日本語教育施策を書き込んだのは、浮島議員です。特に気になったのは、この浮島議員の書き込んだ部分が、「『総合的対応策』の令和3年度改訂版の『施策番号28』からの引用だ」と書いている箇所です。二つの資料を比べればすぐに分かることですが、「総合的対応策」の施策番号28には、「骨太の方針2021」の脚注にある「「教育種准の維持向上」以後の文言はありません。「骨太の方針2021」の脚注122は、完全に浮島議員のオリジナリティによるものです。この「にほんごぷらっと」の記述は、浮島議員の活動に対して理解していないと田尻は考えます。
2.第7回「資格会議」は、検討内容のまとまりがない
今回の傍聴者は約450人で、類型「生活」を扱ったこともあり、地方公共団体の関係者の参加もあったと聞いています。
6月29日の第7回「日本語教師の資格に関する調査研究協力者会議」は、類型「生活」以外に今まで検討してきた項目についての修正も扱ったので、時間内での意見集約の時間的な余裕はありませんでした。これは、この日程を組んだところからわかっていたことであり、西原座長もご苦労なさっていました。田尻は、「生活」だけでももっと時間をかけて扱うべきだったと考えています。
なお、文化庁国語課と田尻の事前説明の場で、「生活」を扱うためには、地域の日本語教育の資料が必要である点と、「報告案(原案)」を検討する際には委員からのコメントによりどこが修正されたか
わかるように「報告案」の見え消し版が必要と指摘しましたので、6月29日の資料にはそれが追加されました。
(1) 類型「生活」について
類型「生活」は、在住外国人の生活支援に日本語教育がどう関わっていくべきかを検討する大事なテーマです。ところが、この「生活」に関する会議資料は、実質的に「資料2」の2枚だけです。そこには、大前提として、地域の日本語教育を行う機関のうち、「公的な性質を有する地域の日本語教育を行う機関」だけをこの会議で扱うということを示しています。しかも、都道府県の日本語教育推進体制の評価を第三者機関を通じて文部科学省が行うのという仕組みです。
公認日本語教師の資格を検討するこの会議では、日本語ボランティアの運営する日本語教室を公認日本語教師の仕事内容に含めることを検討するとなると、議論が収拾付かなくなるという恐れは確かにあります。委員と事務局の事前の説明でこの点が了解されていたためか、会議の中では地方公共団体の委員からはいくつかの質問が出た程度で終わりました。このテーマでの検討時間は、1時間20分程度でした。田尻は、西原座長の会議の進め方を批判しているのではありません。国語課から出された資料では問題点が全て出ている訳ではなく、結果的に時間的に窮屈な日程となっている点を問題にしているのです。
田尻としては、日本国内で圧倒的多数が関わるボランティアによる日本語教室への支援も別途に検討する必要があるという文言を報告書に入れておきたいと考えています。
(2) 指定日本語教師養成機関について
資料3の「指定日本語教師養成機関について(案)の「指定日本語教師養成機関審査項目(案)」には、「現行の文化庁届出受理機関と同様の審査項目」と「新たに確認が必要となる項目(例)」の二つが挙げられています。
田尻は、この審査項目には大学の日本語教師養成コースの主専攻や副専攻の扱いがはっきりしない旨の質問をしたところ、西原座長から留学生別科を含めて大学教育はこの会議では扱わないようになっているという趣旨の発言がありました。この点は大事な点ですので、詳しい議事録が公開された時点で改めて検討したいと考えています。田尻は、大学の日本語教師養成コースも文化庁届出受理機関の審査項目を適用すべきと考えており、今回の会議では多くの検討事項があるので、会議の場ではこれ以上の問題提起はしませんでした。念のために言っておきますが、指定日本語教師養成機関の審査には大学の日本語教師養成コースも含めて取り扱うべきと田尻は考えていることに変わりがありません。会議では、この件についての他の委員からの質問はありませんでした。
JET日本語学校の井上靖夫委員から、「新たに確認が必要となる項目(例)」の「教育実習の実施機関及び実施計画、実施実績」は大事な項目で、各機関の実習内容などの情報公開が必要との意見が出されました。
(3) 日本語教育実習の仕組みについて
1点だけ問題点に触れます。
田尻が、「専任の教育実習担当教員」の資格について質問したところ、事務局は検討していないという回答をしました。これには驚きました。今回の会議では、日本語教師の資格を検討していますが、その日本語教師になるための重要な教育実習を担当する教員の資格が問われないとしたら、教育実習そのものの価値がなくなる可能性があります。今後、絶対に検討すべき項目です。
(4) 報告概要案と今後の問題
これも、1点だけ問題点を指摘します。
9ページ「7.支援について」は、「今後検討」となっていますが、日本語教育推進議連の会議でも取り上げられ、その後の国会議員の官房長官への陳情などで、現在の日本語教育機関のひっ迫度を考えれば、もっと具体的に内容を書き込むべきだと、田尻は考えます。
現在のコロナ禍を考えれば、今後も事態が好転するとは思えませんので、「今後検討」で済まされるテーマではありません。
次の会議では、「就労」を扱う予定です。このテーマだけでも、かなりの時間をかけるべきです。その上に、報告概要の問題点を扱うというのは、明らかに時間的には無理があります。
小中高校での日本語教育は、「生活」では扱う時間がありませんでした。夜間中学を含めて、報告概要の検討課題として頭出しをしておく必要があります。
この会議は、7月中のあと2回で終わります。どうかそれまで、日本語教育関係者の多くの傍聴と問題共有をお願いします。
(5) 推薦図書
吹原豊さんの『移住労働者の日本語習得は進むのか 茨城県大洗町のインドネシア人コミュニティにおける調査から』は、12年にわたり大洗町に住むインドネシア人がどのように日本語を習得してきたかを調査し続けた労著です。
この本は、単に大洗町のインドネシア人の日本語習得を研究したものではなく、広く日本在住の外国人労働者の日本語習得上の問題点を調査したもので、多くの示唆に富む指摘があります。
※一言弁解をさせてください。
第7回の会議が6月29日に開かれ、第8回の会議が7月19日に開かれる予定ですから、もっと早く「未草」の原稿を書くべきだったと、田尻も思います。
ただ、上に触れなかった大きな動きもあり、それを書き込めないかと考えて、ぎりぎりまでこの原稿を書く時間を延ばしました。しかし、現時点では、その動きは形になっていませんので、ここでは書くことができません。いずれ形になった段階で、詳しい説明をしたいと考えています。「未草」の原稿公開が遅れたことをお詫びします。
また、間もなく衆議院選挙も行われますが、日本語教育推進議連の議員の中には、この選挙に出ないとおっしゃっている方もいらっしゃいます(7月中には記者会見をするそうです)し、選挙結果次第では議連のメンバーが変わり、議連そのものを作り直す可能性があります。
とにかく、日本語教育を取り巻く状況が、大きく変化する可能性が高いと田尻は考えていますので、このウェブマガジンの読者の方々も新しい情報に注意してください。