第22回 「資格会議」はどこへ向かうのか|田尻英三

★この記事は、2021年6月13日までの情報を基に書いています。
ただ状況は日々変わっていますので、書ける範囲の情報は書き込んでいますが、それが全てではないことをご理解ください。

5月31日に開かれた文化庁の「日本語教師の資格に関する調査研究協力者会議」(「資格会議」)は、まとまりのわるいものになってしまいました。
傍聴の受付期間が短かったためか、傍聴希望者は300名を下回りました。私としては、できるだけ多くの人に問題点を共有してほしいと思っているだけに残念でした。
ただ、傍聴者が減ったからといって、この原稿で今までより詳しく会議の進行状況を書くということはしません。そうすると、かえって論点が見えにくくなると思っているからです。

第5回の会議で、この「資格会議」はあと1回しかないというようになっていたので、会議のあとの国語課へのコメントでは、最低でも「就労」で1回、「生活」で1回の会議を開いてほしいと書きました。他の委員からも第5回の会議についての意見が多く出されたためか、この会議は6月末と7月下旬に開かれる連絡が事務局からありました。ただし、今後の会議で残りの問題点が時間をかけて検討されるかは未定です。

今回の原稿では、今後の「資格会議」の進むべき方向についての私見を中心的に述べることにします。

1. 日本語教育機関6団体の意見書の会議での扱かわれ方


第6回の「資格会議」では、最初に日本語教育機関6団体の意見書を扱いました。田尻はこの意見書には現在の外国人留学生が入国できないことによる日本語教育機関維持の困難さが書かれていなくて、さらりとした内容になっていると感じました。そこで、田尻は事務局に「この意見書でもって現場の声を聞いたということになるのですか」と質問しました。事務局からは、そう考えているという回答をいただきました。田尻は、はたして6団体が、この意見書がそのように扱われると思っているのだろうかと疑問に感じました。
田尻は、それなら先日の日本語教育推進議連の会合に提出された要望書(日本語教育機関への支援をお願いする内容)を添付すべきだと6団体の代表の方に言いました。会議資料として要望書を残しておくことは大事です。
そのうえで、6団体の代表の方に、二点について私見を述べました。
「1」 の「(3)」にある「『就労』、『生活』を単に先送りとせず、その関連性を明確に記しておいていただきたい」という点については、事務局に希望するのではなく、6団体がこのように「就労」・「生活」に関わっているという実例を示してほしかったという意見を述べました。
「7」の「その範囲に留学生別科を入れるものと考える」という点については、前回の「資格会議」で田尻は詳しく留学生別科の現状を説明し、まだ文部科学省高等教育課でも留学生別科の実態については分析できていないので、現時点で「質保証制度の範囲」に入れると言うのはいかがなものか、と言いました。これに関してはっきりとしたお答えを代表者からいただけなかったので、たとえば「留学生別科のうち、進学目的とする課程については今後扱う」とする私案を出しておきました。
田尻は、日本語教育機関6団体の一つに関わっている者として、この意見書が今の日本語教育機関の切実な状況を反映しているとは思えないので、この意見書でもって事務局が現場の声を聴いたとすることに危惧を覚えました。

2. 類型「留学」・「就労」・「生活」の全体像(案)について


この案はまだかなりの部分が未確定ですので、中身の詳しい検討は行われませんでした。
田尻は、3類型の認定機関について事務局に私見を述べました。
「留学」についての認定機関はイメージしやすいのですが、「就労」と「生活」の機関認定自体のイメージがわかないので、どう扱われるのか気になるという点を述べました。この会議では、その点も次回以降の扱いとなりました。
法務省と文部科学省での認定の順番についての意見が、他の委員から出ました。
要するに、この案は事務局が今後行われる認定についての流れを示しただけという扱いでした。多くの疑問点は、後回しとなりました。

3. 報告案概要のどこが問題か


田尻がこの「日本語教師の資格及び日本語境域機関の水準の維持向上を図るための仕組みの在り方について」報告書概要で最も問題だと思ったのは、「今後検討」という用語が数か所見られた点です。
具体的に言えば、7ページの「3.日本語教育機関の類型と申請主体」の「『就学』等その他の類型の必要性についても今後検討を行うことが必要」、8ページの「4.制度の詳細 (2)評価制度の審査項目」の「就労」と「生活」が「今後検討」、6ページの「8.教育実習」の「次回の会議で検討」となっているなどの点です。
田尻は、この会議では報告書概要の1ページにあるように「『日本語教育機関の類型化』も同時に議論してきました」とは思っていません。今までは、「留学」についての検討にほとんどの時間が費やされてきました。他の項目については、検討が不十分です。
何よりも問題なのは、5月31日の会議開催の時点では、この会議はあと1回しか開かれないことになっているのに、次回の会議でこのような大事な点を全て1回の会議で済まそうとしている事務局の問題意識です。
田尻は、会議の中でこのままでは多くの問題が残ったままのまとめになる可能性が高いので、まずはこの会議で決められる点や今後の日程について事務局の考えを示してほしいと、強く言いました。
結果的には、会議はあと2回開かれることになりましたが、今後事務局がどのような案を出して来るかはわかりませんので、将来の方向性は現時点では多くの点で未定ということになります。
この他にも、この報告書概要には気になる点があります。
2ページにある筆記試験②は、「音声を媒体とした出題形式で測定する」というのは、具体的にどのような出題形式を想定しているのかよくわかりません。
また、6ページにある今後の日本語教師が関わる場として「保育士や小中学校のスクールカウンセラーなど、様々な現場で勤務する者が公認日本語教師の資格を有し、日本語教育に必要な資質・技能を身に付けていくことが望まれる」という点などは、はたしてこのような職業の方が現状の学校教育システムの中で学習者に対して日本語学習にどのように関われるのかなど、十分な検討が必要と思われます。
とにかくこの報告書概要は、多くの問題点が未処理のままに会議に出された資料であると田尻は考えますので、今後の取扱いには十分に注意する必要があります。

4. 日本語教育機関への支援について


4月の日本語教育推進議連の総会で、日本語教育6団体が現状の日本語教育機関の困窮度について強く訴えました。
また、立憲民主党の中川正春議員や公明党浮島とも子議員が国会の委員会で、日本語教育機関の支援について質問していただきました。このような質問があることは、日本語教育機関の支援に向けた活動として効果的です。
この支援の方法については、現在水面下で支援する方向で検討が進められていますが、現時点で公表できるものはありません。ただ、国会議員の間でも、現在の日本語教育機関の窮状は伝わっており、田尻も日本語教育の現状に関心のある国会議員へは個別に訴え続けています。
どうぞ不確かな噂に惑わされることなく、日本語教育機関の支援に活動している人たちの動きに注目し続けてください。

5. 最近出版された外国人労働者関係の書籍と大事な資料について


日本社会における新型コロナ禍での在住外国人を扱った書籍が、2冊刊行されました。
『アンダーコロナの移民たち 日本社会の脆弱性があらわれた場所』(鈴木江理子編著、2021年6月、明石書店)は、現在のコロナ下での外国人労働者の問題を広く取り上げています。
『「低度」外国人材 移民焼き畑国家、日本』(安田峰俊、2021年3月、角川書店)は、田尻もかねてから気になっている官公庁で使われる「高度人材」という用語に対して「低度人材」という用語を使い、問題点を描いているものです。
いずれの著作も、在住外国人の日本語学習については言及していません。在住外国人の生活の困窮度を扱うことが主眼とはいえ、日本語教育関係者の在住外国人の生活支援活動の少なさも反映していると田尻は考えています。もし、日本語教育関係者の在住外国人の日本語学習支援活動がもっと社会的に認知される程度に行われていれば、このような著作内容にもその部分が反映するはずです。

前の「未草」でも扱った出入国在留管理庁の「外国人との共生社会の実現のための有識者会議」では、3月24日の第2回は「円滑なコミュニケーションのための日本語教育等の取組について」、4月28日の第3回は「文部科学省提出資料」、5月24日の第4回は出入国在留管理庁の「共生社会の基盤整備に向けた取組について」などの大事な資料がサイトで公表されています。日本語教育関係者は、必ず目を通しておくべき資料です。

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