読者の皆様、こんにちは。あなたのオノマトペハンター(?)です。非常事態が宣言されたり解除されたりで慌ただしい今日この頃ですが、皆様おうちでいかがお過ごしでしょうか?私は例に漏れず在宅勤務が長期化しており、そろそろ電車の乗り方を忘れそうです。早く安心して過ごせる環境が(一部が新しくなるとは思いますが)戻ってくることを祈っています。
オノマトペ使用と個人間の距離
皆様は、日常的にオノマトペ、使っていらっしゃいますかー?(マイクを向ける)はい、ありがとうございます。なかなか使う機会は無いですよね。最近の(今もですが)私の研究テーマの一つが、「オノマトペ使用と、使用される相手間の関係性」についてだったりします。つまり、オノマトペが日常会話で使用されるとき、その会話に参加している個人間の関係性に、一定の傾向はあるのだろうか、という問いを立てて、いろいろ考えておりました。例えば、気を許せる友達や家族相手には使うけれど、上司や取引先相手などにはなかなか使えない、といったケースです。広範囲の年代にWeb上で質問紙調査を行って、先述のような傾向があることを分かったりしましたが、個人的には「一般の方に『オノマトペの定義』をきちんと分かってもらうのがすごく難しい」と感じた調査でした。
結局、このテーマで研究費が取れたわけではなく、そうこうしている間に私は研究するところが無くなってしまったので、考えるだけの日々なのですが、たまにこれを思い出して、日常会話の中で「賭け」というか、実験をすることがあります。今回はその「賭け」についてお話しようと思います。
ビジネスで知り合う、様々な人達
現在会社員として日々を過ごしているのですが、初めて会う様々な人達と作業をすることになります。共同作業をするにあたり、やはり一緒に作業する方と仲良くなっておきたいものです。少なくとも、「私のことは嫌いじゃないですよね、大丈夫ですよね」という距離感の探りは、入れたくなる物です。本当に些細なことですが、私自身が大層ビビリなので、ちょっとでも怖い、嫌だ、と思った瞬間にコミュニケーションが取りづらくなりますし、そういう方はきっと多いと思っています(ビジネスではそんなこと言っていられないケースもありますが)。話しかけたくないな、と思った瞬間に様々な共同作業は破綻しますので、できるビジネスマンはやはり社交的で朗らかな方が多いように思います。
そんな、まだ相手との距離感が掴めないときに、距離感の指標の一つとしているのが、「こちらが発したことばを、同じように使ってくれるかどうか」です。同じことば・同じ用語を使うということは、「同じ集団に所属している」、あるいは少なくとも「所属したいと思っている」という気持ちの表れだといえると思います。また、同じことばを使う、使われる間柄の関係性としては、主従でいうと新しい用語を使い始めた話し手が「主」で、ことばを使ってくれた側が「従」になります。明確な主従関係が生まれるわけではありませんが、こちらが使ったことばをそのまま受け入れて使ってくれる、ということは、ある程度こちらを尊重してもらえている、ということを意味するのではないかと思うのです。
そんなことを考えつつ、ノリとしては「この表現、分かってもらえるかなぁ」という感じで、オノマトペを距離感がまだ掴めない人へ投げることがあります。表向き平静な顔をしていますが、オノマトペユーザーとしては一世一代の賭けになります。勝てば相手もオノマトペを使ってくれますし、負けた場合は怪訝そうな顔をされた後に「おかしなことばを使う人」というレッテルを貼られることになります。
「SQLをこねこねする」
とある分析のため、こちらが持っているデータを整形して、相手方に送らなければならない状況が発生しました。まだあまり喋ったことがない先方に対して、データを準備するスケジュールや受け渡しについて打ち合わせを行いました。データが膨大なので、SQLという言語を使って、必要なデータだけを抽出する必要があるのですが、私はまだこのSQLのクエリ(一連の抽出指示コード)を書くのが遅いので、準備期間についても余裕が欲しく、
「SQLをこねこねするのに、ちょっと時間が必要なんですよね、2日ほど頂いてよろしいですか?」
という賭けをしました(なお、この時期は既に緊急事態宣言中でしたので、この会話も電話です)。
その後の会話では特に反応が無く、「これは、負けかなぁ」と思っていたところに、
「お忙しいところすいませんね、大変でしょう、その、SQLをこねこねするの」
\大 勝 利/
第26回・完!
おすすめできるかどうかはわからない
(「完」と書きましたが、まだ終わりません)すごく嬉しかったので、頑張ってSQLを書いて、早々にデータを納めました。なお、この賭けの勝率はそこまで高くありません。また、元々の関係性(上下関係など)に大きく左右されますし、そもそも日常的にオノマトペユーザーでないと自然な誘導ができないので負ける確率が上がります(オノマトペじゃない新語でも、できなくはないのですが)。
オノマトペでなくてもよいのですが、日々のことばの使い方・使われ方を観察しているととても面白いので、神経質にならない程度にやってみることはおすすめしてみます。
なお、私があまりにも「ゴリゴリ書く(プログラム言語を意欲的に書くこと)」と発言しすぎて後輩がその表現を語彙獲得してしまったので、それはちょっと反省しています。