毎度おなじみ、おのはん!のお時間です。世の中が大変な状況になっていますね。個人的な変化で言いますと、この時期は4月に開催される資格試験に備えて勉強漬けになっている予定だったのですが、「おのはん!」を書く時間もあまり取れなさそうだな、と考えていました。しかしながら、つい先日、試験中止のアナウンスがありまして、こうしてゆっくり記事を書いている、という状況です。こういう事態でも平常心で、いつも通りのオノマトペハントを心がけてまいります。
意味のポジネガ変移
あることばが元々持っていた意味がだんだん薄れて、全く逆の意味を指すようになる、と言う現象は、よく起こる物であります。さらに時間が経つとまた逆の意味になって、元の意味に帰着する、なんていうこともありますね。そういったことばは、世代によって認識されている使われ方が異なるので、ある世代の使い方が、別の世代から見るとおかしい、と感じられることもあるのだろうと思います。今回はそんな意味の変わり方をしたのではないかな、と思われるオノマトペが最近見られるので、それについてお話します。
アイスとプリン
スーパーでアイスのガラスケースを覗いていたら、アイスの文脈ではあまり見かけないオノマトペを見かけました。
https://www.akagi.com/news/2019/190226.html より
アイスの食感表現に「ねっちり」を使うのは、とても斬新ではないでしょうか…?もちろん、高粘度な食感のアイスは過去にもたくさんあったのですが、あえて他の表現を使っていることが多いように感じます。他にも、つい最近コンビニスイーツでも「ねっとり」を使った物がでていました。
「イタリアンねっとりプリン」
https://www.family.co.jp/goods/dessert/1945034.html
もうタイトルに入っちゃってますので、使うことに関して抵抗が無くなっていると思ってよいと思うのですが…従来、「ねっとり」「ねばねば」「ねちねち」「にちゃにちゃ」など、粘着質な様子を表すオノマトペはあまりこういった商品には使われない印象があります。それはひとえに「ネガティブな印象を持っているオノマトペ」だからだと考えられます。「ね」が付いている一連のオノマトペがネガティブ、というよりは、一般的に「粘性の高い=ネガティブ」とされているからだと思われます(粘性・湿性が高い→ネガティブ、という印象が普遍的なのかどうかは調べる必要がありますね)。
納豆は「ねばねば」なのですが、あまりパッケージに書かれていることはありません(自明だからだと思いますが)。あと、食物の表現としては、柔らかいかぼちゃや、里芋の表現として「ねっとり」が使われている例が見つかりました。これらの食品は粘度が高い上に水気が多く、「ねっとり」という表現で素材の状態が的確に表せている、ポジティブな例になります。
他にも「ねちねち小言を言われる」など、気質的な粘着性についても使用されることがあります。また、少し検索してみると分かるのですが、いかがわしい文脈で使われることも多いようです。
表現としてそのようなネガティブな意味合いを持つオノマトペを、アイスやスイーツにくっつけてしまう状況に、個人的には軽くカルチャーショックなのかジェネレーションギャップなのか分からない物を感じたのでした。
代理表現としての「もっちり」
以前にもこういうねっとりしたアイスがあった気がする、と調べてみて懐かしい物を見つけました。今もどうも健在のようです。トルコ風アイスです。
練るともっちりのび~る人気の #トルコアイス から #チョコバナナ が登場!縁日のチョコバナナをイメージするような、どこかなつかしい味わいはやみつきになっちゃいます。数量限定なのでお早目にお試しください~☆ https://t.co/J3A7oaSFig pic.twitter.com/i19d9cfOmk
— ファミリーマート (@famima_now) November 27, 2019
https://twitter.com/famima_now/status/1199508151558557696
個人の食レポでは「ねっとり」という表現がかなり多く出てくるのですが、販売側としては一貫してこれは「もっちり」であり「のび~る」(これはオノマトペではないですね)である、と主張しています。「もっちり」「もちもち」は食感表現として多用されるオノマトペで、多用されすぎて何がもちもちなのかよくわからなくなっていますが、ネガティブな印象はほとんどありません。「もっちり」と「ねっとり」を比べて何が違うのかというと、「もっちり」の方が水分が少なめでやや生地としては固く、粘度も低い印象を受けます。これがネガティブな印象の軽減に寄与しているのかは分かりませんが、このように頑なに「ねっとり」を使わないメーカーもある一方で、今回の「ねっちり・ねっとり」事件はかなりのインパクトだったというわけです。
「ねっとり」にGOサインが出たわけ
ねっとりしたプリンやアイスが存在してもよくなった理由は何なのだろう、と考えていたのですが、一つは「ねっとり」そのもののネガティブな印象が薄れてきているのではないか、という可能性が挙げられます。先述の「ねちねち小言を言われる」や「ねっとりとした視線」のように、人の粘着質な、心地の悪い様子をオノマトペで表現することが減少し、純粋に触感の表現としての「ねっとり」の印象が前面に出てきているのかもしれません。あとは、ネガティブな表現を使うことが逆にイイ、新しい、この表現でないと言い表せない新食感!という戦略的な使用もあるのかもしれません。広告代理店なのか宣伝部の方になるのか分かりませんが、一度お話してみたいものです。
あ、ミルクレアはおいしかったです。中のミルク部分はやや固めでも良かったかもしれません(こぼしました)。