もう新年が明けてだいぶ経ちますが(既に今年は2割ほど終わっているそうです)、明けましておめでとうございます。今年も「おのはん!」をよろしくお願いいたします。もう24回になるのですね。昨年中盤から隔月へとペースを落としたため、正確には2年以上かかっていますが、毎月ペースであれば2年分書いてきたことになります。なかなか本業の方ではオノマトペのことを考える時間は取れませんが、日々のオノマトペハントは細々と続けていきたいと考えております。引き続きどうぞよろしくお願いいたします。
ずっと確認したかったこと
実はずっと温存していたオノマトペお宝(オノマトペが多く含まれていそうな情報媒体)がありまして、今回それを出してきました。オノマトペお宝は、特に思いつかなかったり、オノマトペハントが振るわなかったときに取り出して来る物です。だいぶ前ですが結婚祝いに大学の友人から贈られた本で、本棚にずっと収まっておりました。それは「syunkon カフェごはん(著:山本ゆり)」です。
今や押しも押されもせぬ料理ブロガーの山本さんが書かれた初期のムック本です。山本さんは大坂生まれ・大阪在住で、ブログやレシピ本の語り口も関西方言の特徴が色濃く出ており、特徴的な文章を書かれる方です。いわゆるコテコテの関西方言の使い手が書かれたレシピであれば、きっとオノマトペがたくさん入っているに違いないと思い、贈ってくれた友人の思惑とは別に、いざという時のために「貴重な研究資料」として大事にしまっておいたのでした。なお、私は卒論からテーマがオノマトペ(音象徴)なので、多分そのあたりも汲んでくれたのだと思います。
料理を作る時のオノマトペ
「料理とオノマトペ」というテーマは別段珍しくはないのですが、どちらかというと取り上げられやすいのは「(できあがった)料理とオノマトペ」であり、内容としては料理の食感・触感の表現としてのオノマトペ、がとても多いように思います。ふわふわなパン、もちもちの団子、のように、食感を表現する際にオノマトペはよく使用されます。あまりフォーマルなお店や商品には使われないのですが、居酒屋やファミレス、お菓子など、あまり肩肘張らない文脈では多く見られるので、オノマトペハントにもとても向いています。だいぶ前ですが、この時期に発行されるバレンタインカタログのチョコレートの説明からオノマトペを抜き出す、ということもやってましたね(第5回 今回のオノマトペ:「サクサク」)。
かたや、料理を「作る時」、すなわち「調理時のオノマトペ」はどうなのでしょうか。論文数はゼロではないのですが、あまり注目されていないように思われます。調理時の動作は多岐にわたり、またオノマトペは動きの緩急・強弱を表すのにも使用されますので、たくさん使用されてもよいと思うのですが、あまり気にしたことがありませんでした。というわけで、今回は「オノマトペが出やすそうなレシピ本」を対象に、オノマトペハントをしてみました。
玉ねぎ、しんなりしがち
さて、上記のレシピ本の「調理方法説明箇所」からオノマトペが使われている部分を抜粋し、表現の目的に応じて簡単に分類してみた結果、以下のようになりました(同一表現が別箇所で使用されている場合は、カウントしていません)。
【物の状態を見極める・タイミングを伝える】
じっくり揚げる
さっと茹でる
(玉ねぎが)しんなりするまで炒める
(えのきを入れて)さっと煮る
しっとりするまで漬ける
こんがりと焼く
竹串がスーッと通るくらい
(鍋に卵と)ひたひたの水を入れる
(水分がとんで)とろりとしたら火を止める
(焼いた帆立が)こんがりしたら酒を加える
(玉ねぎを入れて)じっくり炒める
(ソースを)どろりとするまで煮立てる
(卵液が)とろとろになったら火を止める
【動作の仕方】
そっと(油に)入れる
(アボカドは包丁を)ぐるりと一周入れ
ふんわりとラップをかける
(卵を菜箸で大きく混ぜながら熱し)フワフワにする
(ゆで卵が冷えたら水の中で)ゆっくり殻を剥く
(卵液を流し込んで)菜箸で大きくぐるりと混ぜ
(肉に片栗粉をまぶして)ぎゅっと握り
(白菜の水気を)ギュッと絞る
【番外編・お菓子の部】
(薄力粉を)さっくり混ぜる
(生地を)ざっくり混ぜる
(ハンドミキサーで)ツノがピンと立つまで泡立てる
(バナナをフォークで)ざっくりとつぶす
タイミングを伝える目的のオノマトペは「しんなり(固い状態から柔らかく崩れている状態)」「こんがり(焼いて色が変わり、焼き目・焦げ目が付いている状態)」が多かったです。「こうなるまで火を通さないとダメです」ということを物の状態から伝えたいわけですね。ただ、それぞれのオノマトペが表す状態が共有されていないと伝わらないので、注意が必要です。
動作の仕方についても、「そっと油に入れないと、油が跳ねて危ない」ことや、「片栗粉を付けたらギュッと握らないと粉が定着しない」ことを踏まえて、この動作をして下さい、と伝えたいのでしょうね。ちなみにアボカドがやたらこの本には出てくるのですが、めったに食べないのでこの表現でうまくアボカドを剥くことができるのか不安です。
巻末の方にお菓子のレシピも少し載っていたので、こちらも見ておきました。さっくり・ざっくりがメインですね。お菓子はごはんのレシピと比べて厳密性が要求されるので、おそらくあまり出てこないのではないかと思っていましたが、生地の状態や動作の止めどころ(つぶすのは「ざっくりでよい」)の表現として活用されていました。
レシピ編集の掟?
今回、かなり期待を持って見ていったのですが、拾えたのは少数の、定型のオノマトペで、やや見込み違いな結果になってしまいました。振り返って前書きを読んでみると驚愕の事実が…
“でも今回、本を制作するにあたって担当の方と話し合い、『せっかくお金を出して買っていただくのだから 読んでおもしろいと思うだけじゃなくて きちんと料理を作ってもらえる本にしよう』ということになりました。なんせブログの中では
・しょうゆ ……たら――っと好みで適量
・しめじ……わこっと取れた量
・チューブのしょうが……びゃー一っと
(中略)
など、いざ作ろうと思っても、本当に料理が苦手な人にはめちゃめちゃ不親切で。”
(「syunkonカフェごはん」p.3より)
というわけで、ブログでは多用されていたオノマトペは、編集時にだいぶカットされていたようです。道理で通常のレシピ本とあまり変わらなかったわけです。今後はブログの方を分析すれば、独特なオノマトペがたくさん見つかるに違いありません。
ただ、オノマトペも多用すれば良いというわけではやはりなくて、料理を作る側からすると、「調理手順に不必要な情報は極力無い方がいい」と思います。私もレシピに要らないことが書いてあったら「この忙しい時に!」と怒ります。ですので、このレシピ本では、「レシピ以外のMC部分」を活かすために調理説明部分と切り離して吹き出しなどでうまく補足するスタイルを採用しています。必要な情報とそれ以外をうまく共存させているんだなぁと思いました。
今回はレシピに含まれるオノマトペを見てみました。皆さんも玉ねぎをしんなり炒めてみて下さい。